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落日のドル

2008年02月05日

 米国が対外債務超過国となって以来、20年以上経過した。海外からの借金を多額に抱えた国の通貨でありながら、ドルはいまだに基軸通貨である。ここ数年ユーロが台頭しているとはいうものの、ドルは対外準備資産として保有され、国際取引に広く使われている。

 二つの世界大戦を経て、米国が世界の金(きん)のあらかたを集め、ドルの裏付けとしていた。そのことがドルを基軸通貨の地位に高めた。その後米国は国際収支上の赤字から金を失い始め、ニクソンショックによって金による裏付けは廃止された。

 今でもドルが基軸通貨の地位を確保しているのは、米国の赤字の相手先が日本を含むアジア諸国と中東の産油国だからである。これらの黒字国は黒字分をドルのまま米国に再投資しており、自国通貨に交換していない。黒字国が取得したドルを売却せず持ち続けるからこそ、ドルの価値が維持されているというわけだ。

 もう一歩踏み込んで考えてみると、二つの「恐怖」が黒字国をこうした行動に走らせている。

 第1は黒字国がドルを売却して自国通貨を買うと、自国通貨がドルに対して切り上がる。そうなると輸出競争力を失い、経済成長への道が閉ざされるという恐怖である。

 また、アジア諸国と中東の産油国の防衛そしてシーレーンの安全保障は、米国の軍事力に大きく依存している。黒字国が対外準備資産として米国債を購入することが、米国の軍事費支出を事実上負担しているという見方がある。もしドル離れを試みて、その結果米国が防衛することをやめたら大変だ。これが第2の恐怖である。

 通貨をよく知るベテランの国際バンカーから聞いた話がある。基軸通貨とは強い経済を背景に、使い勝手がよく、取引相手が喜んで受け取る通貨だ、ということだった。恐怖に支えられた基軸通貨では、ドルの先行きが思いやられる。(岳)

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