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【社説】

ジョブ・カード だれのための支援策か

2008年2月4日

 政府は四月から「ジョブ・カード制度」をスタートさせる。企業実習と講習でフリーターたちの職業能力を高め正社員化につなげるという。新制度の懸念解消と既存施策の整理合理化が前提だ。

 ジョブ・カード制度は就職氷河期に直面し正規雇用されなかった若者たちや母子家庭の母親など「職業能力を高める機会に恵まれなかった人」が対象だ。まずハローワーク(公共職業安定所)に行き、キャリアコンサルタントと相談して実習先企業を選ぶ。

 そこで三カ月−半年間の訓練と教育機関での講習を受けた後、企業から評価シート(職業能力証明書)を受け取る。この証明書と履歴書、職務経歴、学習・訓練歴などをあわせた全体のファイルをジョブ・カードと呼ぶ。カードには求職者の職業能力が明記されているので、企業側も採用に便利−と説明される。

 同制度の普及推進のため二〇〇八年度予算に約百七十四億円を計上。日本商工会議所の組織を活用して中央と地方約百五十カ所にジョブ・カードセンターを新設する計画だ。

 政府が就職困難者を対象に正社員化を支援することに異存はない。だが新制度には疑問点が目立つ。

 第一にフリーターたちにとってカードは本当にメリットがあるのか。求職者は企業と短期間の雇用契約を結び初任給程度の賃金を受けながら教育訓練を受けカードを取得する仕組みだが、それなら最初から正社員として採用され訓練を望むはずだ。

 カードを取得後に正社員採用が約束されているわけではない。求職者はあらためて企業との面接が必要だ。中途半端な雇用と訓練では、企業にとって便利な“低賃金労働”を生むおそれがある。

 キヤノンは三月から同制度を導入すると発表したが、中小企業では賃金を払いながら訓練する余裕はあるのだろうか。また一社での職業能力評価が他社にも通じる「公的評価」になるのか、との指摘もある。

 全国に約五万人いるキャリアコンサルタントが求職者の希望をどこまでくみ上げられるのか、不安視する声が強い。民間資格であるコンサルタントをレベルアップさせるため研修を実施する。今後、国家資格化を目指すという。新制度はフリーターたちの支援策ではなかったか。

 政府は現在、フリーター常用雇用化プランを推進中だ。〇八年度も二百億円を上回る予算を投入する。このままでは新制度は屋上屋を架す。新制度は現行プランの一部を取り込むとはいえ、大胆に見直すことが導入の条件である。

 

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