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NIKKEI NET

更新:2008/02/04

道路で再燃する環境税論議

政治部・中山真(1月28日)

 ガソリンにかかる暫定税率の存廃問題が自民党内で長年先送りされてきた環境税論争に飛び火する可能性が出てきた。ガソリン値下げを訴える民主党に対し、政府・与党はガソリンの値下げは環境問題に逆行すると反論、暫定税率を「環境税」的なものとする説明をし始めた。ただ、道路特定財源の確保が見え隠れするだけに、これまで環境税導入を訴えてきた自民党内の環境族議員は複雑な心境だ。

 「本来なら東京を離れてはいけないのですが、今回は特別にやってきました」。千葉県市原市内のビジネスホテルで町村信孝官房長官は19日、こう切り出した。官房長官として危機管理上、ほとんど東京を離れることがないだけに、久しぶりの東京からの脱出で演説のボルテージは一段と上がった。

 中身の大半はガソリンにかかる暫定税率問題。民主党が「ガソリン値下げ国会」などと位置づけていることを批判しながら「ガソリンの値段を下げたら日本は『環境問題に不熱心な国』という烙印(らくいん)を押される」と強調。同じころ高村正彦外相も山口市内の講演で環境問題を理由に暫定税率の維持を求めた。

 ガソリンにかかる揮発油税は道路整備に充てる道路特定財源の8割近くを占める。財源不足を理由に本来よりも高い暫定税率を設定しており、今年の3月末で期限切れとなる。政府・与党は暫定税率の延長をもくろむが、民主党は暫定税率を撤廃すれば1リットルあたりガソリンが25円安くなると訴えている。

 政府・与党は当初、地方を中心に依然として道路整備を求める声は強いという“正攻法”で暫定税率の必要性を説明してきたが、都市部を中心に「無駄な道路を造るくらいならガソリンを安くしてほしい」という声が多いと判断。だれもが反対できない「環境への配慮」を御旗に世論を見方につけようとする戦略に方向転換したとみられる。

 「ガソリンの消費を抑えるのに一番いいのは値段を上げることだ」。町村長官は市原市の講演で、暫定税率を高くしておくことで温暖化ガス排出につながるガソリンの消費を抑えられると力説。ガソリンへの課税強化で消費を抑えるという論理はまさに環境税そのもの。7月の主要国首脳会議(洞爺湖サミット)では環境問題が主要課題となることもこうした訴えに拍車を掛ける。

 ただ、従来、環境税導入を訴えてきた環境族議員からすれば「そんなのずいぶん前から言ってきたことなのに、今さら……」というのが本音。ある中堅議員は「本来ならこの機会に環境税の議論を盛り上げたいが、どこまで本気なのかよく分からない」と困惑気味だ。というのも、町村長官がかつて小委員長を務めた自民党税制調査会では「原油高でもガソリンの消費量は減っていない。環境税の効果はまだ疑問だ」などの理屈をつけて導入を先送りした経緯があるからだ。

 政府・与党の反論に対し、民主党の前原誠司前代表も25日の衆院予算委員会で「将来的に環境税のような形を考える歩み寄りが与野党にあっていい」と述べ、暫定税率廃止する代わりに環境税を導入すべきだと訴えた。しかし環境税を導入すればガソリン価格は上昇。「ガソリン値下げ国会」と位置づける民主党にも環境税導入にはジレンマはある。

 特別非営利活動法人の環境エネルギー政策研究所の大林ミカ副所長は道路特定財源をきっかけとした環境税論議について「ガソリンの値段を引き下げることは地球温暖化への対策に逆行する」と指摘し、暫定税率の維持に理解を示す一方で「自民党は道路特定財源という既得権益を守ろうとするために『環境』を使っている」と冷ややかだ。

 麻生太郎前幹事長は24日「暫定という名前がついたのが昭和40年代からというのがよほど異常だ」と指摘した。道路整備の財源不足を補うための「暫定措置」が今日まで続いているという根本的な議論は依然として深まっていない。環境税論議がその議論に代わって、盛り上がるかどうかは「ねじれ国会」の情勢次第かもしれない。

政治 | 風向計