中国製冷凍ギョーザによる中毒事件で、日本生活協同組合連合会(東京都渋谷区)は5日、中国「天洋食品」が製造した冷凍ギョーザ「CO・OP手作り餃子」(07年6月3日製)1袋から新たに高濃度の有機リン系殺虫剤「ジクロルボス」を検出したと発表した。一連の事件で「メタミドホス」以外の殺虫剤が検出されたのは初めて。
メタミドホス中毒を出した千葉県の同商品(同10月20日製)と兵庫県高砂市の「中華deごちそう ひとくち餃子」(同10月1日製)と製造日も異なっており、天洋食品の工場内の袋詰め前の段階で複数の殺虫剤が混入した可能性が強まった。
厚生労働省は、都道府県などに対し、ジクロルボスについても回収品の検査をするよう指示した。
同連合会によると、昨年11月11日、福島県喜多方市の「コープあいづぷらざ」の職員から「オイルのようなにおいがきつくて食べられない」との苦情が同連合会に寄せられた。今回の中毒事件を受けて、この商品を検査したところ、ギョーザの皮から110ppm、具材から0.42ppmのジクロルボスを検出した。残留農薬の基準を大きく上回っていた。
苦情が出た11月当時にも袋の検査を実施し、トルエン、キシレン、ベンゼンを検出していたが、内容物の検査はしていなかった。
同じ昨年6月3日製の手作り餃子を巡っては、同10月5日にも、宮城県富谷(とみや)町の「みやぎ生協富谷生鮮セットセンター」で5袋の外側に異臭がしたと同連合会に連絡があった。同31日にも、みやぎ生協の組合員から「焼いて食べようとしたら薬品のような味がした」との苦情を受けたという。
この時点でも輸入元の「ジェイティフーズ」(品川区)が天洋食品を訪問し、問題の製造日の製造記録やサンプルを調査したが異常はなかった。また、東北だけの苦情で、「段ボールに油染みがあった」との情報があったことから、流通経路での外的要因とみて調査を終了していた。
同連合会によると、天洋食品では、ジクロルボスの購入・使用はなかったという。
6月3日製手作り餃子は、736ケース(1ケースは12袋入り)が輸入された。6月15日に横浜港に到着し生協に納品された。地域別ケース数では、▽東北111▽首都圏207▽東海25▽中国・四国4▽九州388▽廃棄1--で、北海道、近畿を除く全国各地のコープに配送されている。
◇「故意」の疑い強まる
「食べればすぐに症状が出る量だ」。東京農業大の宮本徹教授(農薬化学)は驚く。「故意か過失か分からないが、原液に(ギョーザを)何度も漬けたぐらいの量」だという。
日本生活協同組合連合会は、ギョーザ2個で50キロの人の1日の許容摂取量を超えると説明。症状としては嘔吐(おうと)や下痢が考えられる。
警察当局は、ジクロルボスが袋内のギョーザの皮から高濃度で検出されたことから、人為的に袋詰め前に混入されたとの疑いを強めている。工場では、ジクロルボスもメタミドホスも購入・使用していないことから、外部から持ち込まれた可能性が高い。千葉、兵庫県警は、「故意」の疑いもあるとして、殺人未遂容疑での共同捜査本部を設置した。
しかし、メタミドホスが混入した製品の製造が昨年10月だったのに対し、今回は4カ月前の同6月の製造。時期が違い、殺虫剤の種類も違っている。故意に持ち込んだとすると、工場などに反感を持つ者が複数回にわたり、出入りし投入したことになる。
「過失」とすると、工場側が「使用していない」と説明する薬物が持ち込まれ、ずさんな形で保管されていることになる。
◇ジクロルボス 有機リン系殺虫剤の一種。茶殺虫剤として広く使用され、薬事法の劇薬、毒劇物取締法の劇物に指定されている。ヒトに吸収されても通常はほとんど排せつされる。ジクロルボスの殺虫剤を体重1キロあたり6~12ミリグラム飲んだ患者には、重度の貧血による衰弱、神経への影響が報告されている。
中国では「敵敵畏」の名前で知られ、即効性の高い殺虫剤として、野菜やタバコの葉など作物の害虫駆除に使われている。日本の食品衛生法上、加工していない農産物の残留農薬基準は0.1~0.5ppm。
毎日新聞 2008年2月5日 21時09分 (最終更新時間 2月6日 0時06分)