前回記事: ミスリードされた終末期医療の議論
後期高齢者医療制度は2006年6月に与党の強行採決で決まり、本年4月からスタートすることになっている。
参照: 後期高齢者医療制度の概要(PDF文書、厚生労働省)
記者は青森市の整形外科診療所で地域医療を担っているが、最近は高齢者から医療や介護に対する不安や負担増への不満の声を聞くことが多くなった。青森県の平均寿命は毎回全国最下位で医師不足もますます深刻になり、小児科、産婦人科だけでなく高齢者の医療も崩壊の危機に瀕している。高齢者の医療を崩壊させる「うば捨て山」制度に警鐘を鳴らしたい。
保険料は、都道府県に設置された後期高齢者医療広域連合が決定し、市区町村が保険料を徴収する。金額は所得に応じて負担する「所得割」と等しく負担する「均等割」の合計額となる。保険証は3月末に郵送され、4月上旬には保険料額が通知され、4月の年金から保険料が天引きされることになっている。
保険料は高額所得者が少ない逆進性
保険料額は天引きされて明らかになるが、各地で発表された資料によると年金生活者の保険料は増え、高額所得者の保険料が減ることになっている。練馬区議会議員の池尻成二さんのホームページ 資料1には保険料についてのデーターが掲載されている。それによれば、200万円前後の年金生活者の保険料は2倍になる人もあると予想されている(図1)。一方、高額所得の人の保険料の上限は現行の53万円から引き下げられ50万円になるため、逆進性の強い保険料負担になっている。
さらに練馬区の場合、75歳以上で705万円以上の所得の人は2,144人(3.6%)しかいないが、総所得の60%を所有し、一握りの「勝ち組」が富を総取りしていることがわかる(図2)。もし「勝ち組」の保険料を上限を設けずに徴収すれば、総額は40億円になるが、50万円という上限があるため実際には10億円しか保険料を負担していない。差額の30億円は保険料総額の約50%にも及び、後期高齢者の窓口負担を「ゼロ」にできそうな額になっている。ちなみに所得割り通りの保険料は平均年収3,000万円の人では291万円に相当し、50万円(1.7%)から241万円増えることになるが、所得の再分配を考えると保険料負担の上限額を見直す必要がありそうだ。
扶養家族の負担増
75歳以上の高齢者は全国で1,300万人、そのうち社会保険等の扶養家族は200万人となっている。扶養家族には今まで保険料負担がなかったが、2008年4月から保険料を負担することになった。同時に、扶養家族の負担増が急激なため2年間の激変緩和措置がとられたが、与党は昨年10月末に選挙をにらんで「負担の一時凍結」の追加策を打ち出した。しかし、凍結期間も半年間だけで緩和措置が終わる2010年4月からは200万人が年間平均8万4,000円を新たに負担することになる。
障害を持った人も統合
また、70−74才の前期高齢者の窓口負担も現在の1割から2割に値上げされることになっている。さらに、現在老人保険を受給している65才以上の障害を持っている人も、自動的に後期高齢者医療制度に加入することになっている。ただ、建前では申請によって抜けることもできるが、重度心身障害者医療の受給資格を失う、窓口負担が3割(70−74才は2割)となるなど「差別医療」から逃れられない仕掛けに組み込まれ、重度障害者医療費助成制度も解体されようとしている。
資料1: 区政データボックス 『後期高齢者医療制度』の説明書き(練馬区議会議員 池尻成二)
※図1および図2は、池尻成二・練馬区議会議員のHPより許可を得て転載。
※以下の図はクリックで拡大します。
(大竹進)
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おもな関連サイト
・『後期高齢者医療』来年4月から導入 75歳以上はみな保険料負担(中日新聞)
・後期高齢者医療制度のねらい(政策解説・全国保険医団体連合会)
・後期高齢者医療制度の概要(PDF・社会保障審議会資料:厚生労働省)
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