BREAKTHROUGH POINT 〜つきぬけた瞬間
ロングインタビュー
Vol.173 - Page2
武田篤典(steam)=文
text ATSUNORI TAKEDA
稲田 平=写真
photography PEY INADA
吉田栄作ロングインタビュー
型ではなく本質。
真面目な役作りの話
唐突に自衛官の話になったのは、映画『ミッドナイトイーグル』で役を演じたからだ。北アルプス山中に墜落したアメリカのステルス戦闘機“ミッドナイトイーグル”を捜索する陸上自衛官である。搭載された特殊兵器を回収するという使命を帯び、山中で報道写真家の西崎(大沢たかお)と新聞記者の落合(玉木宏)と遭遇。マイナス30℃、猛吹雪のなか、兵器の起動を企む某国の工作員と死闘を繰り広げる。
今年1月からの撮影のため、昨年の後半以降ほぼ、この佐伯昭彦三等陸佐というキャラクターと付き合ってきた。
「自衛隊の駐屯地に見学に行ったり、松本市の山岳隊に体験入隊をしました。今回の作品にかかわらず、演じる役に職業があるならば、必ず本職の方に何人かお会いすることにしています。そのとき、全然関係のないことも伺うんですよ。“朝は何を食べますか?”“何時ごろに寝ますか?”とか。家族構成や観ているテレビ番組まで。今回は3日間体験入隊したんで、実際に経験できたことが大きかったですね」
しかし何より大きかったのは、入隊最終日に上官からされた質問。
“吉田さん、自衛官にとって一番大切なスキルは何だと思う?”。
「体力か、頭脳か、仲間を思う気持ちか…そのどれでもなかったんですが」
もっとも心を打たれたのと同じ問いを、彼はわれわれに向けたわけだ。
「答えは“使命感”なんです。対テロ工作で仲間と組んで敵陣に突入するという設定のトレーニングがあったんです。そのとき後ろから突然、“○○一曹が撃たれました”って声がして、フッと僕は振り向いた…そこは振り向いちゃいけなかったんです。“彼が死のうがどうしようが、前に進まなくてはいけない”と言われました。“振り向いたら、次は君が死ぬんだ”と。まず指令があって、ターゲットに向かっていく以上、それだけに貪欲であらねばならない」
まず使命感。体力も頭脳も思いやりも、それを全うするために必要なだけ。「劇中で、3年間行動をともにした部下の死体を見つけるシーンがあるんですが、西崎と落合が感傷的になるなか、僕は敬礼をしたら、彼の装備を探る。使える武器は全部自分のものにして先を急ごうとする。あれがまさにそう」
どう演じるかではない。見据えるのは“本当のところ”である。自衛官ならそのときどうするのか。型ではなく精神を会得することで、ごく自然に本物のように動けるというわけだ。こんなふうに役を作りたいから、1作にじっくりと時間をかけて取り組むという。「だから終わったときには泣きたくなりますよ(笑)。役と別れるわけだから。大河ドラマとかは大変ですね。キャラクターと長く付き合えば付き合うほど、まるでもう会えない友だちと別れるような感情になるんですよね」
役に対しての取り組み方が変わったのは、98年ごろのこと。それは吉田栄作が3年間のアメリカ武者修業を終えて帰国した年と一致する。