大学受験から三十年近くもたつのに、この季節になると、いまだに身が引き締まる思いがする。
試験日が迫るにつれて高まるストレスとプレッシャー。答案用紙の配布を待つ時間の重苦しさ。発表までの心せく思い。そして、一つ落ち、また一つ落ちていく度に深まる焦燥感と絶望感…。
自分で何かを決め目標に到達するには最後は自力しかないが、その自分が信用できずに身一つを持て余す―後に受験に限ったことではないといやでも知らされる道程の、最初の関門だった。
<頭のいい人は言わば足の早い旅人のようなもの>と物理学者で随筆家の寺田寅彦は「科学者とあたま」に書いている。
<人より先に人のまだ行かない所へ行き着くこともできる代わりに、途中の道ばたあるいはちょっとしたわき道にある肝心なものを見落とす恐れがある>と。
目から鼻に抜ける要領の良さもうらやましいが、つまずいて初めて見えてくるものもある、と知ることも悪くはない。
大学受験も今では遠い昔のエピソードにすぎないが、当時は振り子が急に止まった感じで、家族や周囲の気遣いにも思いが至らなかった。
人物重視のAO入試や推薦入試の広がりで既に受験を終えた生徒も多いようだが、入試はこれから胸突き八丁。受験生たちには息の詰まるような日々が続くだろう。
冬と春との結び目である節分の夜が明けて、きょうは立春。春は名のみとはいえ、延びる日脚やほころぶ梅に「光の春」がかすかに匂(にお)うようでもある。踏ん張りどころの季節。頑張れ、受験生。
(編集委員・国定啓人)