前回記事: 2030年には47万人の終末期難民が出現
後期高齢者医療制度は2006年6月に与党の強行採決で決まり、本年4月からスタートすることになっている。
参照: 後期高齢者医療制度の概要(PDF文書、厚生労働省)
記者は青森市の整形外科診療所で地域医療を担っているが、最近は高齢者から医療や介護に対する不安や負担増への不満の声を聞くことが多くなった。青森県の平均寿命は毎回全国最下位で医師不足もますます深刻になり、小児科、産婦人科だけでなく高齢者の医療も崩壊の危機に瀕している。高齢者の医療を崩壊させる「うば捨て山」制度に警鐘を鳴らしたい。
2004年7月に「終末期医療に関する調査等検討会の報告書」 資料1が出された。その中で1998年と2003年に行なわれた終末期の療養場所に関するアンケート調査結果(一般人2,581人が回答)も報告され(図1)、5年後の今年も調査が予定されている。
終末期医療の類型
このアンケートではガンの終末期だけでなく脳血管疾患、認知症の終末期についても調査している。終末期といってもいくつか類型があり、いつからが終末期かわからないことも多い。終末期の定義としてガンの場合は「痛みを伴う末期状態(死期が6ヶ月程度より短い期間)」、脳血管障害と認知症の終末期は「脳血管障害や痴呆等によって日常生活が困難となり、さらに、治る見込みのない疾患に侵された場合」として質問している。
ただ、上記の脳血管疾患の終末期の定義は現実的ではない。脳血管疾患の場合は時々おこる肺炎や感染症などが悪化し命取りになる時もあれば、治療によってまたもとの生活にもどれることもあり、終末期を定義すること自体が難しいと言われている。
最後まで自宅で過ごしたい人はわずか10%
ガンの終末期を最後まで自宅で過ごしたいと答えた人は10%にすぎず、70%の人は「最後は入院したい」と答え、5年間にわたる2度の調査でも結果に違いはなかった。脳血管疾患の終末期でも、療養場所として病院を選択した人が38%で、自宅は23%に過ぎなかった。
終末期医療と「医療費適正化」
ところが、2005年7月の第17回社会保障審議会 資料2で医療費適正化が議論されたときには、終末期の療養場所として「病院以外を希望した人が6割」と報告された(図2)。そして、在宅死が2割である現状とアンケート調査結果とのギャップを強調しながら、2025年までに在宅死を2割から4割に引き上げ、医療費を毎年約5,000億円削減することが目標とされた。確かに、病院が38%なので病院外を6割と表現しても間違いではないし、ガンの場合も直前まで自宅で暮らしたいと答えた人は6割だが、最期まで自宅を希望した人が10%だったことを考えれば、あまりにも作為的といわざるを得ない。
「そんなたぐいは在宅死が一番」
その後、2006年10月から「後期高齢者医療の在り方に関する特別部会」 資料3に移り、2007年4月に発表された「今後の医療政策について〜医療構造改革の目指すもの〜」でも引用され、最終的に「後期高齢者医療の診療報酬体系の骨子」に引き継がれた。
2006年11月の第4回「後期高齢者医療の在り方に関する特別部会」では有識者から終末期医療についてのヒアリングがあった。山口昇氏は「一般死の場合は、これはまた別ですから。老衰とかです。そんなたぐいは在宅死が一番いいわけです」 資料4と「そんなたぐい」発言があり、生命の尊厳に対する畏敬の念など、全く感じられない議論が繰り返されている。
終末期医療内容はどうなる?
現在も中医協で後期高齢者保険制度の診療報酬について議論されているが、検討段階でこんなに話題になっていた終末期医療については、なぜかふれられていない。厚労省の常套手段ではあるが、4月1日になってもどのような終末期医療が提供されるのかわからないまま、医療制度がスタートすることになる。今後、厚労省があれこれ言われずに出すことのできる「通知」によってサービスの質と量を絞り込んでくることになる。
資料1: 終末期医療に関する調査等検討会の報告書(厚生労働省:審議会、研究会等)
資料2:第17回社会保障審議会 議事録および 資料
資料3: 後期高齢者医療の在り方に関する特別部会(厚生労働省関係審議会議事録等 社会保障審議会)
資料4: 後期高齢者医療の在り方に関する特別部会 平成18年11月20日議事録(厚生労働省:審議会、研究会等)
※以下の図はクリックで拡大します。
(大竹進)
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おもな関連サイト
・『後期高齢者医療』来年4月から導入 75歳以上はみな保険料負担(中日新聞)
・後期高齢者医療制度のねらい(政策解説・全国保険医団体連合会)
・後期高齢者医療制度の概要(PDF・社会保障審議会資料:厚生労働省)
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