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手ごたえ経済

2008年02月02日

 景気の回復も一部の大企業や富裕層をさらに豊かにするだけで、多くの日本人の収入は上がらず、日本社会の経済格差を広げた。石油価格などの高騰は多くの食品や日用品の価格を上げ、家計を苦しめている。景気回復が必ずしも人々に幸福をもたらすとは限らないことを再認識した形だ。

 ところで、急激な社会の進歩はそれまでの私たちの生活の不便さや非効率さを次々に解消した。しかし家事や仕事のスピードは上がり、暮らしが楽になった半面、テクノロジーやサービスに頼ることで、私たちが直(じか)に自分の肉体を使い、自分の頭を使う機会は減った。その結果、達成した喜びを味わい、生きている実感を抱くなど、生の実感が希薄になり、それが日本人の幸福感にも影響を与えた、と言える。

 民間の研究機関が日本人の心のなかの変化欲求を調査し、日本人が向かう新しい幸福モデルと経済との関係について発表した。調査の結果、今、日本人はグローバル化などで見失った自分の根を取り戻し、深く人と関(かか)わり合い、深く生きる「根を張った生活」や、直に手を触れ、手間ひまをかける「手と身体を動かす生活」、自分の成し遂げたことの評価を楽しむ「努力と苦労の成果を味わう生活」などの三つの欲が芽生え、価値観の転換が見られた、と指摘している。そして、「生きている実感をつかまえる幸福」を求めて、日本人は「手ごたえのある生活」を目指し始めたと分析し、将来、効率と合理性を価値として消費する経済から、「手ごたえ」という価値を消費する「手ごたえ経済」に向かう、と予測している。

 さて、「手ごたえ」を求める消費行動は便利で快適な現在の日本人の生活を前提に「手ごたえ」を獲得する行動であろう。しかし「手ごたえ経済」は一方で、環境保護に逆行する一部の過剰な快適さや便利さを求める生活を抑制する可能性も秘めている。(深呼吸)

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