見終わった後に、登場人物の誰か一人を抱きしめてあげてください、と言われたら誰を抱きしめますか?
誰を信じるか、何を信じるか。共感する人はいるか。同情する人は誰か。
2003年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞にノミネートされていた作品 Capturing The Friedmans を見ました。
フリードマン家は、閑静な住宅地に住む、典型的な中流階級のユダヤ人一家です。夫婦と息子3人。元教師の父親は引退後、自宅で近所の子供達にコンピューターを教えていました。傍目には、何の問題もない平均的な家族に見え、実際に一家は平凡な生活を送っていました。父親と末の息子が、男児への性的虐待で逮捕されるその日までは。父親のアーノルドがヨーロッパから取り寄せていた男児のポルノ雑誌が警察の捜査にひっかかったことが事の発端でした。家宅捜査の結果、同様の卑猥な雑誌が多数見つかり、アーノルドが幼児性愛者であると判明したことから、コンピューター教室に通う子供達への大がかりなインタビューが行われました。そして、感謝祭の前夜、警察はフリードマン家に突入。手錠をかけられた父息子が家の外に連れ出されると、テレビカメラが家を囲んでいました。
このドキュメンタリーが面白いのは(interesting の意味で)、家族をとらえるカメラが2層であることです。フリードマン家は自己愛に満ちたホーム・ムービー・フリークだったのです。このドキュメンタリーには、家族の許可を得て、それらのビデオが大量に使われています。そして、長男は、アーノルドとジェシー(末息子)の逮捕後もカメラを回し続け、家族がバラバラになっていく様子を映し出しています。
以下は、あらすじに触れています。
ドキュメンタリーの前半は、妻エレーン、長男デイヴィッド、アーノルドの弟ハワード、捜査に当たった警察官、精神科医、被害者のインタビューが中心です。それぞれの証言から、一見ノーマルな家庭のショッキングな実態が次々と暴かれていきます。そして、後半は裁判の模様が中心となり、見る者は別の視点−怪しいけど、無罪かもしれない、ジェシーは被害者なのかもしれない−を抱くようになります。人は信じたいことを語り、10回の嘘は「真実」になってしまう。幼児性愛者というのは、断罪されるべき社会の敵です。警察や精神分析医はやっきになって、子供達に誘導尋問的なインタビューを行い、保守的で閉鎖的なコミュニティー、結論に飛びつくメディア、食わせ者ぽい弁護士、偏狭そうな裁判官でさえ、つまりは集団ヒステリーがジェシーを追いつめていったように見えます。陪審員制度ゆえ、無罪を主張し公正な裁判を受けることすら命取りになってしまう法のシステム・・・
ドキュメンタリーは、無罪を声高に主張することなく、疑問を抱かせる事実を淡々と積み重ねていきます。いろいろ考えさせられる映画でした。心理学的なところでは、記憶の植え付けに興味を持ちました。いろんな人の感想を聞きたいので、早く日本でも劇場公開されるといいなと思います。NYでこのDVDを買ったのですが、2時間を超える特典の方も見応え十分でした。
ジェシーのホームページ Jess Friedman's Web Site