全国で医療崩壊が進む中、地域の実情を知ってもらい、医療体制の充実につなげていこうと、県保険医協会紀南支部は2日、田辺市新屋敷町の市医師会館で「紀南地方の地域医療を考える学習懇談会」を開いた。田辺市内で働く医師や看護師らが、医師不足や超過勤務などの現状や問題点を訴えた。 進行は同支部世話人で水本内科クリニックの水本博章医師。パネリストとして紀南病院の山本忠生院長、同病院助産師の竹田育子さん、南和歌山医療センター外科の岡正巳医師が参加した。 山本院長は、医師不足に陥る全国の病院事例を挙げ、最近はリスクの大きい病院の勤務医を辞めて、負担の少ない病院に行ったり、開業医になったりする傾向が出ていると説明。また、紀南病院の医師数は過去と変わらないが、患者数が2倍になっていると報告した。 竹田さんは、南和歌山医療センターと紀南病院の産科の統合で、分娩数が倍増したと報告。産婦人科医は他県からの派遣でいなくなる可能性があり、助産師も20代が大半で結婚や出産で退職の可能性もあるとして「先を見据えた人材育成と確保をお願いしたい」と求めた。 岡医師は地域連携室が中心となって診療所や他の病院との連携がスムーズにいっていると報告する一方で「救急患者が増えるのに対し勤務医は少しずつ減り、当直回数や超過勤務の増加で過労傾向にある。寝不足もあるが、田辺西牟婁の患者が安心して救急医療が受けられるよう努めている」と厳しさをにじませた。 立会人の南和歌山医療センターの中井国雄院長は、県内の入院患者の動向を示しながら、田辺保健医療圏から他の医療圏への入院患者の流れは少ないとし「他の地域に比べると医療施設は充実している。圏内の病院が頑張っている」と説明した。 参加者からは「若い医師の確保には、指導者の存在が大切。医師が開業せず指導者になる環境を整えてほしい」という要望や、「安心して暮らせるよう、県内の医師数の南北格差をなくし、バランスの取れた医療体制にできないか」という切実な声が出た。 水本医師は「いまは何とか持ちこたえているが勤務医が減少すればいつまで続くか分からない。医療関係者だけではどうにもならない。多くの人の知恵と努力が必要だ」と訴えた。