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【土・日曜日に書く】中国総局・福島香織 中国上空にハゲタカが舞う

2008.2.3 02:59
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 ≪日本バブルの教訓≫

 昨年大ヒットしたNHK土曜ドラマ「ハゲタカ」の原作者、真山仁さんに1月中旬、北京でお会いした。

 ハゲタカとは、死に体の企業に群がる外資系ファンドの異名である。そのハゲタカファンド社長の鷲津政彦を主人公に、日本のバブル崩壊後の銀行の不良債権処理や破綻(はたん)企業の買収をめぐるスリリングな攻防と人間模様が物語の主旋律だった。

 テレビのドラマもおもしろかったが、原作は90年代から21世紀初めに至る「失われた10年」の日本の金融機関の無策ぶりや失敗を振り返る、一種の内省的歴史小説としても読み応えがある。真山さんは続編の『ハゲタカIII』に向けた取材で北京に来ていた。

 一ファンとして雑談に応じてもらっただけなのだが、「『ハゲタカ』の中国語翻訳版が年内にも出版される」という話は公にしてもいいだろう。中国側から翻訳出版の申し出があったそうだ。

 「すでに中国の雑誌メディアが取材にきました。中国経済もバブルだとか言われているので、日本のバブル崩壊後の経験に興味があるそうです。そういう意味で、この小説は確かに良いテキストになりうる」

 ≪経済植民地化への懸念≫

 じつは中国でも最近、外資ハゲタカ論が台頭している。「中国の上空に二羽の禿鷹(ハゲタカ)が舞っている。一羽は外資系産業、もう一羽は外資系金融…」。昨年11月に上海で開かれたある講演会で、香港中文大学財務学部の郎咸平教授はこう発言した。

 郎教授は続けた。「中国の製造業は血を流して死にかけている。そのにおいをかぎつけてハゲタカが飛来してきた。われわれは青島ビールが国有企業だと思っているが、国有株はわずか30%、米アンハイザー・ブッシュ所有株は27%。アンハイザーがあと4%の香港H株を買い足せば、青島ビールは外資系企業になる…」

 さらに、中国政府の米ファンド・ブラックストーンへの30億ドルの投資が巨額損失を出した一方で、ゴールドマン・サックスやスイスのUBSが中国建設銀行や工商銀行の上場で大もうけした例を引き合いに出し、「外資との金融戦争が始まっているが、中国の金融レベルを考えると、まるで刀と鉄砲で戦っているようなものだ」「外資が中国の銀行に上場を迫ったのは、支配するには、それが最も手早い方法だからだ」と指摘し、「外資に経済植民地化されるのではないか」との懸念を示した。

 郎教授は、経済学者としては非主流派である。彼の説を日系金融関係者などに話すと、「中国は100年に2、3度しかないような奇跡的な好景気のただ中にある。ハゲタカがついばむには、中国経済は元気が良すぎる」と一笑に付す人が多い。中国はむしろ、うまく外資を導入して企業や銀行の活性化、健全化をすすめ、香港や上海での上場を実現する一方で、基幹産業は資本規制によってがっちり守ってきたのだという。

 だが、中国側には、外貨脅威論に同調する人が少なくない。それは、高度成長といわれながら、庶民には豊かになったという実感が薄く、「得をしているのは外資か」と矛先が外に向く傾向があるからだ。

 ≪主戦場で勝つために≫

 80年代当時、アメリカを買い占めるといわれたほどの勢いだった日本の好景気を、誰も異常だと指摘できなかったのだから、今の中国の高度成長がミラクルなのか、トリックなのか、自信をもって言い切れる人はいまい。確かに中国は驚異的な5年連続2ケタ成長を記録し、あれほど問題視されていた銀行の不良債権も資産価値上昇で目立たなくなった。米サブプライム問題では悪影響より、むしろ欧米金融機関の株価下落が中国資本側の買収機会を増やすのではないか、といわれている。

 果たして、中国の好景気は本物か。その中で外資は、利益をほしいままにむさぼるハゲタカなのか。中国経済にはびこる寄生虫を一掃し、体力強化に寄与する益鳥なのか。議論をしているうち、新登場の中国政府系メガファンドが世界に飛翔するハゲタカに化ける可能性もないとはいえまい。

 ひとつだけ言えるのは、今後の世界経済の主戦場はやはり中国だということだ。そして中国には、その戦いに勝ち抜くために、日本の高度経済成長期とバブル後の経験を必死に学ぼうという姿勢の人が結構いる。

 日本側には、過去の失敗や屈辱を糧に、欧米ファンドや中国当局の思惑が入り乱れるこの巨大戦場で、彼らと互角にわたりあう覚悟や備えはあるのだろうか。

 「ハゲタカ」の原作を読み返してみよう、と思った。(ふくしま かおり)

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