手塚治虫さんの漫画「ブラック・ジャック」は、天才的な腕を持つ外科医が主人公。法外な手術料を要求したりもするが、患者を救うヒューマンな姿が描かれる。
その外科医の成り手が減っているという。日本外科学会会長の兼松隆之・長崎大学大学院移植・消化器外科教授(62)は、24年間(1980~2003年)にわたる外科志望者数の変遷を調べた。
それによると、全国の大学外科教室と一般病院に年度ごとの外科志望者(入局者)数をアンケート調査した結果、ピークだった89年は1071人。しかし、90年代に入ると下降線をたどり、03年は761人になった。
「ひとつは労働環境の劣悪さです。当直の明くる日に手術をしたり、外来を診たりすることが非常に多い。雑務も多い。医療訴訟を起こされるリスクもある。楽で、ストレスの少ない方へ向かうんですね」と兼松教授。
兼松教授は05年、中学生を対象に「キッズ外科体験セミナー」という催しを開き、これが全国に広がる。子供たちが電気メスで鶏肉を切るなどして外科手術を体験するというユニークなものだ。
「テレビでは(医療事故で)白衣の医師が頭を下げる場面ばかりが映し出される。これでは志のある若者が医師を目指さなくなるのではないかと思った」のが開催の動機。セミナーを体験して外科医を志す生徒が1人でも2人でも現れてくれれば、というのが願いだ。
こうした成り手不足の悩みを抱える中、日本外科学会の定期学術集会が5月15~17日、初めて長崎市で開かれる。全国から1万人以上が集まるという大きなイベントだ。
市民向けの行事も予定されていて、5月18日には県美術館で「キッズ外科体験セミナー」もある。きつくてリスクもあるが、それでも患者と向き合う。そんなブラック・ジャックが登場してほしい。<長崎支局長・前田岳郁(たけふみ)>
〔長崎版〕
毎日新聞 2008年2月4日