2008年2月4日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

救急医療 最前線


 急病人の病院受け入れ拒否など深刻な事態が相次いでいます。早く措置し救えと命を守る最前線で取り組んでいる救急救命活動を、群馬県太田(おおた)市と鳥取県琴浦町(ことうらちょう)からリポートします。


救命バイクで 5分の壁挑戦

群馬・太田市

地図

 赤城山から冷たい“赤城おろし”が吹きつける群馬県太田市。一秒でも早く救急患者のもとに駆けつけようと、バイクの“救急車”が活躍しています。白バイと見間違うような赤色灯やマイク、スピーカーをつけた白い四百ccの車体。名づけて救命ライダー。

全国で1つ

 全国でただ一つの太田市消防本部の救命バイクです。自動体外式除細動器(AED)や酸素ボンベ、吸引機などが積まれ、救急車と同じ救急処置ができます。

 救命ライダーの一人は「けいれんで呼吸状態が悪化し、真っ青になっている子どもに酸素吸入ができるなど、バイクで早く着く意義は大きい」と。消防本部が通報を受けて処置するまでの平均時間は六分一秒。救命ライダーは、救急車と比べると三十秒から一分、経路によっては三分も早く現場に着くことができます。救急車が通れない田畑のあぜ道の中や住宅密集地の狭い道を走ることができるのも利点です。

 現在、五台のバイクが五カ所に配備され、救急救命士の資格を持つ二十人を超える救命ライダーによって運用されています。昨年の出動件数は五百十件にのぼります。救命ライダーが発足したのは二〇〇〇年のこと。発足にかかわった青木節雄消防本部次長は「“五分の壁”に挑戦することにありました」といいます。患者に心肺蘇生(そせい)をする際、心停止から五分を過ぎると大幅に救命率が下がるとされ、その結果生まれたのが救命ライダーです。

 尾内元夫警防課主幹は「わずか一、二分の違いですが早く現場に着いたことで患者さんからお礼状が届いたこともあります」と話します。

1秒も早く

 活躍する救命バイクですが装備代を含め四百十万円と高額。尾内さんは「三人が同乗する救急車と違い、一人で現場に向かうバイクは走行中、地図を見ることも人に聞くこともできないため道を正確に把握しておく必要があり、道路知識や苦労が相当いる」と話します。転倒の危険性もあり、日中の運用に限られるなど制限もあります。

 村田優救急係長代理は「AEDが小型化しバイクに積めるようになりました。AEDを救命ライダーが使用した事例はまだありませんが、今後、一分一秒も早く使うことを考えた時にバイクの機動性は欠かせません」と話します。青木次長は「全国で搬送先のたらい回しなどが起きており、一秒でも早く医師の処置を受けさせたいと活動する私たちはもがいています。五分の壁への挑戦と地域医療を支えるため努力していきたい」と語ります。(矢野昌弘)


 自動体外式除細動器(AED) 自動的に心電図を読み取り、血流機能を失った状態の心臓に対し、電気ショックが必要か判断し処置をする医療機器です。全国の公共施設などに七万個が設置(二〇〇六年十一月現在)されています。音声案内で一般の人も操作できます。


救急車に医師 現場かけつけ

鳥取・琴浦町

地図

 昨年九月四日夜、時間雨量百三ミリという鳥取県内で観測史上最大の局地的集中豪雨が、琴浦町の立子谷(たちこたに)地区を中心に襲いました。この集中豪雨で太一垣(たいちがき)集落で土石流が発生し、十九歳の青年が胸まで土砂に埋まりましたが、懸命の救出作業の結果、一命を取りとめました。

救出中点滴

 このとき威力を発揮したのが二〇〇五年七月から町で導入した、救急車に医師が同乗する「救急医療対応事業」というシステムです。

 二次災害の危険がある緊迫した中で、現場に駆けつけた赤碕診療所の青木哲哉医師は、救出作業中に点滴を行い、救出後は救急車に同乗し、携帯超音波装置を使い搬送中に診察。内臓破裂の可能性を察知して救急病院の担当医に、その情報を知らせ事なきをえました。

 町には救急病院がありません。救急患者の出た場合、町内にある東伯消防署の二台の救急車が、主に倉吉市の救急病院に搬送します。同システムは消防署と診療所が連携をとり、心肺停止などで蘇生の可能性のある場合に、救急車に診療所の医師が同乗し車中で蘇生治療を行うというものです。

 システムが動き出して救急車に青木医師が同乗したのは十一回。うち心肺停止からの蘇生(そせい)が実現できたのは三件です。蘇生は、心肺停止から五分以内で成功率が50%といわれる中で、残念ながら五件は蘇生できませんでした。

的確な指示

 東伯消防署の山田武津男所長は「このシステムは、病院間の搬送に医師が乗る一般のドクターカーではなく、救急車に医師が同乗して患者のもとに直行するという全国的にもめずらしいものです。非常に有効なもので、国はこのような事例にもっと光を当てるべきです」と話します。六人全員が救急救命士の資格を持つ救急隊。高松伸二さんらは「医師の同乗で的確な指示があり、とても心強く、すばらしい仕組み」と評価します。

 同システムができたきっかけは、青木医師の働きかけを町が受けとめたというもので、「救急医療を何とかしたいという行政と地域医療に貢献したいという私の思いの『あうんの呼吸』」と青木医師はいいます。町はこの事業に年間五百万円を支援しています。町の支援を受けて診療所では青木医師夫妻に加え、体制を強化するために女性医師を新たにスタッフに加え、医師三人体制をつくりました。

 命を大切にし、地域の医療を充実させたいという熱意が伝わってきます。(琴浦町議・青亀壽宏)


 赤碕診療所 元は町営赤碕国保診療所。現在は指定管理で独立していますが、町、住民とは強いかかわりを持っています。


もどる
 
日本共産党ホームサイトマップ「しんぶん赤旗」著作権リンクについてメールの扱いについて
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp