「医療費が際限なく上がっていく痛みを自分の感覚で感じ取っていただくことにした」―。今年4月から始まる後期高齢者医療制度の準備を進める厚生労働省の担当者は、75歳以上の高齢者を国民健康保険などから切り離して独立の保険に組み入れる同制度の創設趣旨について、石川県であったフォーラムでこのように語った。会場にいた石川県社会保障推進協議会の事務局長・寺越博之氏はこれに対して「保険料を下げるのか、保険給付を下げるのかを迫る悪魔の選択でしかない」と抗議している。フォーラムでの厚労省の担当者の発言を振り返りながら、寺越氏にその問題点を聞いた。(金子俊介)
同制度では、75歳以上のすべての人を現在加入している国保や健保から脱退させ、後期高齢者だけを対象にした独立保険を創設。都道府県ごとに設置された後期高齢者広域連合が制度の運営に当たり、地域に暮らしている高齢者の人数や高齢者が使った医療費が保険料額に反映されるため、保険料は都道府県によって異なる仕組み。保険料は原則として年金から天引きされる。
フォーラムは1月18日、石川県金沢市で開催。県内市町村の職員や老人会から約1,000人の参加者が集まった。
その中で、「後期高齢者医療制度の創設とねらい」と題して、厚生労働省の高齢者医療制度施行準備室で室長補佐を務める土佐和男氏が基調講演した。
土佐氏は、まず、現在の国民1人当たりの医療費が、75歳以上の後期高齢者は75万円、65歳〜74歳の前期高齢者は35万円、65歳未満は15万円となっていることなどを説明。高齢者の増加に伴って、医療費は将来60兆円に上ることを示した。その上で、新制度の仕組みを「月25回の通院を20回に減らすことで医療費が下がり保険料は上がるようになっている」と紹介。「医療費が際限なく上がっていく痛みを、後期高齢者が自分の感覚で感じ取っていただくことにした」と、独立型保険を創設した理由を明言した。
寺越氏はこの発言に対して「保険料を引き上げるのか、それとも保険給付を下げるのかという二者択一を迫る悪魔の選択でしかない」と厳しく批判。その上で寺越氏は「医療費は高齢者の増加や医療技術の向上に伴い増えていくのが自然。医療費が増えていくことはなぜ悪いのか。厚労省の総量規制の考え方こそ問題」と憤る。
また、土佐氏は、新制度の保険料の4割を75歳未満の世代が負い、その金額が医療費の高低によって左右されることに言及。「助け合いや予防活動などで保険料が下がり、誰のために保険料が上がったのか、誰が努力して保険料が下がったのかがはっきりみえる形になった」と語った。
これについて寺越氏は「世代間対立をあおる問題発言だ」と意見。「医療費が上がっても公費や企業の負担を増やすことで保険料を上げない選択肢もあるのに、制度はその道を閉ざして国民を分断する。その先には確実に地域医療の崩壊が待っている」と疑問を投げかける。
さらに、保険料の滞納者に資格証明書を発行し、滞納者の医療費を全額自己負担にすることも新制度の特徴といえる。土佐氏はこれについて「現状の国保では保険料徴収と給付は別々になっていたが、一本化することでできるようになった」と説いたほか、「後期高齢者の人たちは現在きちんと保険料を納めている人が多いので、滞納者になるのは悪質な人である」と主張。資格証明書の正当性に胸を張った。
しかし、寺越氏はこれらの発言に大きな間違いがあると指摘する。寺越氏によれば、老人保健法対象者がそもそも国保で資格証明書交付の対象ではなかったのは、病気を持つことが多い後期高齢者には医療機関への受診が不可欠だからだという。また、「滞納者は悪質」とする発言に対しては、新制度が、月15,000円以下の無年金・低年金の全国約260万人の後期高齢者にさえも発行することを挙げて次のように抗議する。「そもそも他の先進国と異なり、日本に最低生活保障制度がなく、無年金・低年金の高齢者がいること自体が問題だが、その上高額な保険料まで徴収しようというのか。資格証明書の発行は、滞納者を悪質な人と決め付け、低年金・無年金の人の命を奪うものだ」。そして寺越氏はこう訴える。「これは憲法違反以外のなにものでもない」。
後期高齢者医療制度をめぐっては、今年1月22日現在、13府県議会をはじめ、487の自治体議会が同制度の見直しなどを求める意見書を採択している。
更新:2008/02/01 キャリアブレイン
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08/01/25配信
高次脳機能障害に向き合う 医師・ノンフィクションライター山田規畝子
医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。