耳にピアスを光らせ、紫色のカラーコンタクトを入れた無邪気な女の子も、おっぱいを飲み終え安心して眠る我が子を見れば、やさしい母の表情になる。授乳は母親としての自信を持つ第一歩になる。だが、ここでつまずく女性は少なくない。
「母乳を飲んでくれない」といった悩みは、ちょっとしたコツで解決できる。その手助けをしようと、助産師の近藤亜美さん(45)は05年12月、静岡市葵区大岩の自宅横に助産院「Ami助産院」を開いた。お産は扱わない。新米ママのサポート専門院だ。
大学卒業後に助産師を目指し、93年4月に31歳で静岡市立静岡病院の助産師になった。無事に生まれればお産は終わりと思われがちだが、現場は違っていた。これから始まる育児への不安をぬぐいきれないまま退院していく女性を何人も見送りながら、「産んだら終わり」ではないことを思い知らされた。
「産んだ後」も大切にしたいと思い、時間を見つけては出産を終えた女性に声を掛けるようにした。ただ、ローテーションが組まれる病院勤務では十分に時間が割けない。そこで、96年5月に病院を退職し、9月、同区東千代田の開業医「富松レディスクリニック」に職を得た。ここで多くの女性と接するうちに、産後ケアが重要だとの思いは確信に変わった。もっと多くの女性を支えたいと思い、自ら助産院を開いた。
出産前の健康相談から産後の精神的なケアまでさまざまなメニューの中で、最も力を入れているのは母乳のケア。上手に飲ませるコツやマッサージなど、付き合いは乳離れまで続く。
授乳を終える際、最後のケアの後に修了証を手渡す。ささやかな「卒業式」に、涙をこぼす女性も多い。母親という役割の重さと、成し遂げた仕事の大きさをかみしめているように見える。
大切なのは母親が自信を持つこと。相談や指導は手掛かりにすぎない。何人もの女性を見て、そう思う。【鈴木直】
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◇助産師
分べんを介助する「産婆」は江戸時代からあった。戦後、「助産婦」として国家資格になる。02年3月に性別による違いのない「助産師」に改められた。ただし、男性は資格を取得できない。妊娠や出産にかかわるイメージが強いが、実際には思春期や更年期など女性の一生にわたったケアを行っている。
毎日新聞 2008年2月4日