政府は年金、医療、介護など社会保障制度の抜本改革に関する「社会保障国民会議」をスタートさせた。現行の社会保障システムは、さまざまな問題を抱えている。負担と給付の在り方を検討し直さなければならない。
メンバーは十五人で、塩川正十郎元財務相、奥田碩日本経団連名誉会長、高木剛連合会長ら経済界、労働組合、医療・福祉関係の代表らが名を連ね、座長には吉川洋東大大学院教授が選ばれた。
福田康夫首相はあいさつで「世界に類を見ない少子高齢化が進んでおり、今までの社会保障制度でやっていけるか心配がある」と述べた。高齢者が増える一方、社会を支える働き盛りの人口は減り続けている。社会保障制度が今後も維持可能かどうか、首相ならずとも不安に思っている国民は多い。
国民会議は「雇用と年金」「医療と介護、福祉」「少子化対策と仕事と生活の調和(ワークライフバランス)」の三分野をテーマにした分科会を今月中に設置し議論をスタートさせる。国民会議は月一回程度のペースで開催し、六月に中間報告を取りまとめ、政府の経済財政改革の指針「骨太の方針」に反映させたい考えという。最終報告は秋の予定だ。与えられたテーマを議論するには、時間が足りないぐらいである。
とりわけ公的年金制度の立て直しは、社会保障制度の中でも緊急課題だ。福田首相は、年金改革をめぐって「税方式に転換したらどうかとの議論もある」と述べ、民主党や財界が主張している全額税方式の是非についても検討課題との認識を示した。
労働者の三分の一がパートや派遣などの非正規雇用となり、厚生年金に加入できない労働者も多い。受給世代を現役世代が支える現行の「賦課方式」へ国民が不信を強めている時だけに、過去の政策にとらわれず根本からの議論が求められよう。
医療をどう立て直すかも重要な課題だ。産科、小児科、救急などの医師不足が各地で深刻化し地域医療は崩壊寸前の状況にある。高齢化による医療費の高騰も深刻だ。介護の現場では低賃金や過酷な労働条件から人手不足が続いている。少子化対策や労働者の働き方の見直しも重要な論点となろう。
社会保障を維持するには、給付を減らすだけでは間に合わない。具体的な財源にも切り込み消費税率上げについても見解を示すことが必要だ。負担と給付の在り方を選択肢として提示することが求められる。国民会議には大胆な提言を期待したい。