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(2008年1月)
分野 事例 百選
機械 448 37
材料 209 35
化学 333 14
建設 146 20
合計 1136 106

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事例名称 三菱自動車のリコール隠し
代表図
事例発生日付 2002年01月10日
事例発生地 神奈川県横浜市瀬谷区下瀬谷3丁目
事例発生場所 県道
機器 重機運搬大型トレーラーのタイヤハブ。代表的なスーパーグレートトラクタを図2に示す。
事例概要 三菱自動車のリコール隠し発覚の発端は、トレーラーのタイヤハブの破損事故である。2002年1月10日に、重機を運ぶ大型トレーラーから走行中にタイヤがはずれて転がり、歩いていた主婦にぶつかり、死亡した。一緒に歩いていた長男と次男も軽いけがをした。
トレーラーのタイヤハブの破損が原因である。三菱自動車製の大型車のハブ破損事故は1992年以降に計57件発生し、うち51件で車輪が脱落した。三菱自動車は一貫してユーザー側の整備不良としたが、同社から商用車部門を引き継いで分社化した三菱ふそうトラック・バスは2004年3月、製造者責任を認めて国土交通省にリコールを届け出た。さらに、同年5月、関係者5名が道路運送車両法違反(虚偽報告)容疑で、関係者2名が業務上過失致死傷容疑で逮捕され、法人としての三菱自動車も道路運送車両法(虚偽報告)容疑で刑事告発される結果となった。すなわち、企業の責任が正面から問われる構図になったのである。
事象 重機を運ぶ大型トレーラーから走行中にタイヤがはずれて転がり、歩いていた神奈川県大和市上和田、主婦岡本紫穂さん(29)にぶつかった。岡本さんは間もなく死亡、一緒に歩いていた長男(4)とベビーカーに乗っていた次男(1)も軽いけがをした。
神奈川県警瀬谷署の調べでは、26本あるタイヤのうち、左最前部にあるタイヤがホイールごと外れて下り坂を約50m転がり、道路左わきの歩道を歩いていた岡本さんの背中を直撃したという。タイヤは直径1m、幅28cmで、ホイールを合わせると重さは約140kgになるという。タイヤと車軸の間には、車軸の周囲で回転するハブという部品がある。神奈川県警などの調べで、ハブ自体が壊れており、タイヤはブレーキドラムごとはずれていたことがわかった。
運転手の会社がトレーラーを買ったのは1994年である。その後、主にパワーショベルなどの重機を運んできたという。トレーラーは2001年1月に車検を受け、合格している。ただし、ハブはタイヤの内側で外から見えにくい。業者によると、車検ではハブの周辺をハンマーでたたいて点検するだけという。このトレーラーのメーカー三菱自動車によると、同型車は1986年から販売を始め、今も約750台が走っているという。これまでタイヤがはずれる事故は起きておらず、タイヤ周りの不具合でリコールしたこともないと話している。
ハブとタイヤの取付状況を図3に、ハブの断面形状を図4に示す。ハブは円筒形で、先端は円盤形(フランジ)となっている。フランジはボルトでホイールに固定される。一方、円筒形の内側には、車軸が差し込まれる。つまり、車軸と車輪(ホイールとタイヤ)のつなぎがハブの役目である。神奈川県警がはずれた車輪を分解したところ、特殊鋳鉄製で重さ22kgのハブが、円盤形と円筒形を切り離すように割れていた。ハブの円盤形の内外両面には、ホイールとブレーキドラムをはめるための隅部(切欠き)がある。車重と走行時の負荷が最も強くかかる急所である。割れは、内外面の隅部の先端を結ぶ直線のように走っていた。一方、ボルト8本は車輪に残っていた。
経過 横浜市瀬谷区で起きた三菱自動車の大型トレーラーの事故以前にも、ハブ破損によるタイヤ脱落事故が数多く起きていたことが判明した。また、本件への三菱自動車のリコール(無償回収・修理)対応は極めて悪く、事実の隠蔽と虚偽報告が繰返された。最終的には、製造者責任を認め、リコールを届け出た。しかし、関係者5名が道路運送車両法違反(虚偽報告)容疑で、関係者2名が業務上過失致死傷容疑で逮捕され、法人としての三菱自動車も道路運送車両法違反(虚偽報告)容疑で刑事告発される結果となった。すなわち、企業の責任が正面から問われる構図になったのである。
三菱自動車には、過去にも信用失墜の経験がある。2000年7月に三菱自動車で起きたクレーム隠し事件では、乗用車を中心に顧客から持ち込まれた10車種以上にのぼる不具合情報(クレーム)が社内に隠蔽され、リコール手続きにつながらなかった。
以下に、三菱自動車製大型車の車輪脱落事故からリコール、さらに刑事告発までの経過を示す。
○ 1992年6月21日
東京都内で冷凍車の左前輪脱落事故(三菱自動車が確認している最初のハブ破損事故)。
○ 1999年6月
広島県内の高速道路でバスの右前輪脱落事故。
○ 1999年7月〜8月
バスの車輪脱落で個別対策会議。旧運輸省に整備不良と報告することを決定。
○ 2002年1月10日
横浜市瀬谷区で大型トレーラーの左前輪脱落事故。はずれた車輪が母子を直撃。母親が死亡、幼児2人がけが。
三菱自動車は大型車のハブの無償点検を発表。横浜の事故原因は整備不良と結論し、リコールはせず。
○ 2002年1月17日
三菱自動車社内にマルT(通称)対策本部会議が発足し、再発防止策を検討。
○ 2002年2月1日
マルT対策本部会議がハブ破損の原因を摩耗とし、摩耗量0.8mm以上の交換基準を提示。国土交通省に報告。
○ 2002年2月
三菱自動車社内にフロントハブ強度検証ワーキンググループが発足し、ハブ強度を検討。
○ 2002年3月
フロントハブ強度検証ワーキンググループに、摩耗量にかかわらず約3割もき裂が発生するとのサンプル調査の結果が示される。
○ 2002年6月
国土交通省リコール対策室が三菱自動車トラック・バス開発本部(川崎市)を特別監査。
○ 2002年7月
フロントハブ強度検証ワーキンググループが、整備不良による摩耗がハブ破損につながるとの結論をとりまとめ、リコールを回避。
○ 2003年1月
三菱自動車のトラック・バス部門が三菱ふそうトラック・バスとして分社化。社長にダイムラークライスラー社のビルフリート・ポート氏が就任。
○ 2003年3月19日
三菱自動車の若手技術者が、ハブ破損と整備不良による摩耗との関連は少なく、重要部品の耐久強度評価の重要性を指摘するリポートを社内研修会で発表。
○ 2003年10月24日
横浜の事故で、神奈川県警が業務上過失死傷容疑で三菱自動車の本社などを家宅捜査。2004年1月にも再捜査。
○ 2004年3月11日
三菱ふそうトラック・バスが、ハブの製造者責任を認め、国土交通省にリコールを届出。
○ 2004年5月6日
横浜の事故で、神奈川県警は道路運送車両法違反(虚偽報告)容疑で元三菱自動車役員らの5人と、業務上過失致死傷容疑で元三菱自動車管理職らの2人を逮捕。国土交通省は道路運送車両法(虚偽報告)容疑で三菱自動車を刑事告発。
原因 リコールをせず、違法なヤミ改修で対応した理由として、下記が指摘されている。
○ リコールすれば莫大な費用がかかり、成績に響くので、関係部署から市場品質部にリコール回避の圧力がかかり、それに従わざるを得なくなった。
○ 製造、設計、技術部門などで不具合の原因を作った者は社内処分を受けるので、関係者はその処罰から逃れたがった。
三菱自動車は1970年に三菱重工業から独立したが、三菱グループ向けの売り上げが多い。現在は分離した商用車の三菱ふそうトラック・バスはもちろん、個人を含む乗用車でも同様である。国内販売台数は2003年度は軽自動車23万台を含む約35万8千台であり、その約半分が取引先と家族を含む広義の三菱グループの需要とみられる。日本国民の10人に1人は、三菱グループにつながっている。三菱の名のついた企業がつぶれるはずがないという過信がある。三菱自動車の場合、結果的にそれが甘えにつながり、隠蔽のコーポレートカルチャー(企業体質)になったともいえる。
三菱自動車の体質として、関係者は報道に以下を証言している。
○ 顧客に軸足を置かない企業優先の論理が、経営者(幹部)に横行している。
○ 権力、権限が経営者(幹部)に集中した縦割り組織で、指示待ち社員の集合体になっている。
また、1996年に米国現地工場でセクハラ問題、1997年には総会屋に対する利益供与事件、2000年のリコール隠し事件とコーポレートガバナンス(企業統治)を揺るがす事態が続発してイメージ低下から販売が低迷しても、三菱グループは常に三菱自動車を支えてきた。三菱ブランドの企業はつぶせないという強い思いである。それが三菱自動車自身の社会的責任の所在をあいまいにしてきた。一方、資本的にも東京三菱銀行と三菱商事から融資と投資を受ける三菱自動車は、経営上その顔色をうかがう面があった。
対処 営業を優先させ、危険を承知で製品をつくり続けることの愚を、今回の事故は浮き彫りにした。表に出にくかった自動車の欠陥をめぐる、かつてない大がかりな捜査が業界に与える影響は大きい。
今後は欠陥を知った時点で、とりうるすべての安全策を実施し、安全性にかかわる情報の公開を目前の利益に勝る優先課題にすることが、自動車メーカーに課せられる。それを実行した自動車メーカーだけが、消費者に選ばれることになる。
対策 三菱自動車は2004年5月21日、経営再建策を発表した。経営戦略づくりを、岡崎洋一郎会長兼社長(2004年4月30日就任、元三菱重工業常務)直属のクロス・ファンクショナルチームという、40歳台の中堅社員中心の約50人でつくる特別チームにゆだねる大幅な組織改編に踏み切る。新チームで、硬直化した人事組織に風穴を開けるねらいである。
同時に、検察OBなどの社外有識者を中心とする企業倫理委員会も設置し、外部監視によるコンプライアンス(法令遵守)の徹底をはかる。
しかし、この再建策では立ち直れず、2005年1月28日に、三菱自動車は新たな経営再建策を発表した。三菱重工業、三菱商事、東京三菱銀行の三菱グループ3社が計2,700億円の増資を引き受け、融資を含めた新支援額は5,400億円に達する。前の再建策の4,960億円との合計は1兆円を超え、支援企業の負担はさらに巨額に膨らむ。三菱重工業は出資比率を15%まで高め、三菱自動車を連結対象会社とし、再建支援での主導権を明確化する。三菱自動車の会長兼最高経営責任者は、西岡喬 三菱重工業会長が兼ねる。相変わらずの身内頼みの結果となった。
一方、三菱自動車で相次いだリコール隠し事件を受け、国土交通省は2005年度から、リコール調査官制度を創設することを決めた。自動車メーカー技術職OBの10人を任命し、車の構造的な欠陥が疑われる重大事故の場合は現場にも出動する。メーカーの原因究明作業を監視するとともに、独自の実験で原因を分析し、調査結果をもとに国土交通省がメーカーにリコールを勧告する。将来は体制を増強し、自動車版の事故調査委員会を目指す。2004年秋にも数人を任命して、試験運用する方針である。
しかし、事故が起きた後でのリコールでは対策が遅すぎる。根本的な対策は、安全優先のものづくりの基本の遵守と、安全が懸念される場合への素早い対応にある。これは企業と個々の技術者の両方に要求される課題である。
トレーラのタイヤハブの破損は、金属疲労が原因である。三菱ふそうトラック・バスでは、大型車用フロントハブ(前輪のハブ)の疲労強度について、抜本的な技術的検討を行った。まず、疲労強度検証の考え方と手順を見直した。次に、従来ハブからフランジ厚さと隅部半径を増大して応力集中係数を減じ、かつ材料を高強度のFCD600に変えた新型ハブに変更した。そして、新型ハブの疲労強度が恒久対策として十分であることを検証した。この報告は2004年7月に国土交通省へ提出され、また新型ハブに変更する追加リコールの届出もなされた。リヤハブ(後輪のハブ)についても、疲労強度の検証が行われている。
知識化 三菱自動車は2000年の大量のクレーム隠し発覚時に体裁ばかり重視し、対外的なジェスチャーだけで、そこから先に踏み込まなかったことに、問題は集約されている。
不祥事があるとトップが頭を下げて幕を引くのが世の常である。しかし、今回の事件は、襟を正すと口で言うだけでなく、改善の仕組みを具体的に動かさなければならないことを社会に示した点で、大きな意義がある。
問われているのは内部統制のあり方である。うそを通そうとすれば会社自体が追い込まれることを、事件は如実に示した。社会に犠牲者を出し、会社のブランドはぼろぼろになった。刑事責任が認められれば、株主代表訴訟が起こるだろう。おそらく会社のためを思って何十年も働いた結果がなぜこんなことになったのか、全社員がわからないだろう。
自分の客は離れないと考える文化の強い会社は、同じことをする可能性がある。真に会社のためになる行動とは何なのかを、企業のトップたちは改めて考えるべきである。
後日談 2004年5月20日、三菱ふそうトラック・バスのビルフリート・ポート社長は記者会見し、三菱自動車製トラックのクラッチ系統に欠陥があることを8年前に社内で把握しながら、十分な対策をとらず、死亡事故を引き起こした可能性があることを認めた。欠陥の把握後しばらくは、秘密裏に修理する違法なヤミ修理を続けたが、それも途中で止めていたという。事実関係については先週、社員から会社側に告発があり、すでに国土交通省と捜査当局に経過を報告している。
欠陥が明らかになったのは、1983年から1996年までに生産された約17万台の大型トラック「ザ・グレート」で、うち約半分は廃車になることなく今も走っている。クラッチを格納するクラッチハウジングにき裂が発生し、プロペラシャフトが振動すれば、ブレーキ系統などの車輌本体が破損する可能性がある。これまでに三菱ふそうトラック・バスと三菱自動車に報告された不具合は、把握できたものだけで約70件である。
以下に、三菱自動車製トラックのクラッチ系統の欠陥による事故からリコール、さらに刑事告発までの経過を示す。
○ 1990年6月
最初のクラッチ系統の破損事故が発生。
○ 1994年
神奈川県内で人身事故。
○ 1996年3月〜5月
社内のリコール検討会でクラッチ系統の欠陥を把握。放置すれば8〜9年で事故40件前後続発と予想したが、リコールせずヤミ改修で対応することを決定。
○ 1998年
名古屋市内で人身事故。
○ 2000年7月
三菱自動車が組織的にクレーム情報を二重管理し、リコール隠しをしていたことが発覚。約60万台のリコールを運輸省(現、国土交通省)へ届け出(以前のクレーム隠し事件)。
○ 2000年9月
運輸省が道路運送車両法違反容疑で三菱自動車を警視庁へ告発(以前のクレーム隠し事件)。
○ 2001年5月
東京簡易裁判所が三菱自動車の副社長ら4人に罰金刑の略式命令(以前のクレーム隠し事件)。
○ 2002年10月
山口県内で、クラッチ系統の欠陥が原因で冷蔵車が制御不能に陥り、運転手が死亡。
○ 2004年5月
三菱ふそうトラック・バスがクラッチ系統の欠陥を公表し、国土交通省にリコールを届け出。
○ 2004年6月10日
山口県内の死亡事故で、神奈川県警と山口県警が元三菱自動車社長ら6人を逮捕。
○ 2004年6月15日
三菱ふそうトラック・バスの工場(川崎市など)を統括する生産本部が取得していた品質管理システムの国際規格ISO 9001の認証が、クラッチ系統の欠陥隠しを理由に停止されたことが判明した。認証停止は極めて異例である。欧米ではISO 9001の認証取得を取引の条件にしているところが多く、国際競争力の低下につながる。経営への打撃が予想される。
財団法人日本ガス機器検査協会はガス機器の安全性検査のほか、ISO規格の認証事業部門JIA-QAセンターを持ち、三菱ふそうトラック・バスが分社する前の1998年から、三菱自動車のトラック・バス生産本部の品質管理システムが国際規格に適合していると認証していた。
同センターによると、クラッチハウジングの欠陥を同社が公表した5月以降、認証の停止を検討し、6月上旬、同社に認証停止を通告し、登録証の返却と印刷物などで認証取得をうたわないように求めた。現在は同社に弁解の機会を設ける登録の一時停止の状態だが、7月17日までに同社から異議申し立てがなければ取り消しになる。
同センターでは、クラッチハウジングの欠陥にかかわる事実関係を同社が認めたことを受け、以下を理由に認証を停止した。
(1) 製品の品質にはばらつきがあり、認証の条件を満たさない。
(2) ヤミ改修は、違法な行為をしないという審査契約に違反している。
(3) こうした事実が審査で示されなかった。
○ 2004年6月18日
国土交通省が1994年5月以降に届け出があったリコールのうち、人身事故、物損事故、車両火災につながった37件を調べた。国内外の17社で、計140件の事故があった。1位の三菱ふそうトラック・バスがそのうちのリコール数7件、事故数85件を占め、2位の三菱自動車のリコール数6件、事故数11件と合わせて、両者だけで全事故数の7割近くに上った。三菱ふそうトラック・バスでは、ハブの欠陥の届け出までに52件、クラッチ系統の欠陥の届け出までに21件の事故があった。死亡事故は同社の2件だけだった。
三菱ふそうトラック・バスは40件、三菱自動車は25件にのぼるリコールを、今後届け出るため、事故件数はさらに増える可能性がある。両社の事故件数が突出していることからも、対応がいかに遅きに失したかが如実にわかる。
○ 2004年10月
山口県内の死亡事故の初公判(横浜地裁)。
○ 2004年12月
三菱ふそうトラック・バスがリコール隠し問題の再発防止策を提出。国土交通省は内容が不十分として、追加報告を指示。
○ 2005年1月
三菱ふそうトラック・バスが認証を受けていない新型車2,800台を生産し、うち2,000台にリコールに該当する欠陥があったことも判明。
○ 2005年2月2日
三菱ふそうトラック・バスは、新たに41件の欠陥を公表し、調査終了を宣言。
以上のように、「トレーラのタイヤハブの破損事故」と「トラックのクラッチ系統の破損事故」のいずれもが、死亡事故に至ったので注目されたが、2000年7月に発覚した「以前のクレーム隠し事故」の一環にすぎず、根本的な問題は同じであることがわかる。
よもやま話 三菱自動車だけではなく、大企業の不祥事と犯罪が相次いでいる。日本経済団体連合会は1996年以降、三菱自動車を含む会員企業の不祥事で計39件を処分した。最近の主な企業不祥事を、以下に示す。
○ 1995年
大和銀行ニューヨーク支店の巨額損失隠しで、支店長ら逮捕。
○ 1996年
住宅金融専門会社とツムラの元社長の背任容疑。
住友商事元部長の銅取引不正を摘発。
○ 1997年
4大証券会社、第一勧業銀行、三菱グループ各社からの総会屋への利益供与を摘発。
山一証券の粉飾決算が発覚。
○ 1998年
日本興業銀行など各銀行から日本銀行と大蔵省の現旧職員らへの贈賄を摘発。
日興証券から衆院議員への利益供与を摘発。
NECグループと防衛庁幹部による国費不正収奪を摘発。
○ 2000年6月
雪印の乳製品で大規模な食中毒。
○ 2000年7月
三菱自動車で大量のクレーム隠し、リコール隠しが発覚。
○ 2002年1月
雪印食品で牛肉偽装事件が発覚。
○ 2002年7月
北方領土支援事業の入札妨害で三井物産部長を逮捕。
○ 2002年8月
日本ハムが牛肉偽装を認める。
東京電力原子力発電所のひび割れ隠しを経済産業省が発表。
○ 2002年11月
日本信販専務を総会屋への利益供与で逮捕。
○ 2003年12月
武富士の会長を盗聴関与で逮捕。
トヨタ自動車社員による整備士試験漏洩が発覚。
○ 2004年3月
西武鉄道から総会屋への利益供与を摘発。
○ 2004年5月
三菱自動車製大型車ハブの欠陥隠しで、元役員らを逮捕。
○ 2004年6月
三菱自動車製大型車クラッチ系統の欠陥隠しで、元役員らを逮捕。
企業のコンプライアンスは、単に法令遵守ではなく、業界環境、企業風土などに応じて法令遵守度を高めていくための企業活動の総体とみることができる。企業コンプライアンスの専門家は、不祥事への対処として、以下の2つを挙げている。
(1) インセンティブ(動機付け)を高める制度の必要性
日本では、賠償額は実損害に限られるので、仮に自社の車で死者が1人出たとしても1億円程度である。逆に製品のリコールに至った場合、直接費用に営業上の損失を加えると膨大な額になる。米国では懲罰的損害賠償が認められている。日本では、技術力と人的資源がありながら市場から退場を迫られかけている企業に、コンプライアンスと情報開示の徹底を条件に特別の資金調達を認める制度の設置が考えられる。
(2) 内部通報の制度と情報の見極め
最近の不祥事はほとんどが内部通報によって発覚しており、経営トップが不祥事情報を早く知ることが必要である。日本経済団体連合会では、企業倫理ヘルプライン(相談窓口)の構築を各企業に呼びかけている。ただし、経営トップには、そのなかからコンプライアンスとして重要な情報を見極める目を養うことが求められる。
以上の2つに加えて、以下を追加する。
(3) 法令の性能規定化と民間規格の活用
国の規制緩和と事業者の自主規制は、国と社会の一大方針のはずであるが、現実には進行していない。法規制のみでは社会の安全は確保できない。人は法規制の抜道を考える。法規制は必要条件にすぎないが、企業は必要十分条件と解釈する。事業者は自分たちで規格をつくり、自分たちで規格を守る。これが社会の安全の確保の王道である。
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不足、組織運営不良、運営の硬直化、理不尽な要求受入、不良行為、規則違反、リコール隠し、使用、保守・修理、部品交換せず、タイヤハブの欠陥、使用、運転・使用、トレーラー、破損、破壊・損傷、疲労、タイヤハブの破損、二次災害、損壊、タイヤ離脱、身体的被害、死亡、事故死、組織の損失、社会的損失、信用失墜
死者数 1
負傷者数 2
マルチメディアファイル 図2.代表的なスーパーグレートトラクタ
図3.ハブとタイヤの取付状況
図4.ハブの断面形状
分野 材料
データ作成者 小林 英男 (東京工業大学)



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