偽札づくりに従事する“エリート”たち
さて、ここで偽札を鑑別するポイントをお話ししよう。前回、偽造犯たちは偽と分かるように微細な「暗号」を仕込むと述べたが、この暗号を見つけることは容易ではない。
何しろ、スーパーMクラスでも99.9%は本物と同じといっていい。特殊インクや透かし、磁気インクによる印刷パターンなど米国財務省が施したあらゆる偽造防止策をクリアしており、紙に混入されている特殊な繊維までほぼ同じだ。だから手触り感も変わりない。
どこに暗号が隠されているのか。すべてをここに書くわけにはいかないが、その一部をお教えすると、スーパーMでは、裏側に印刷されている建物の時計の長針が文字盤の円に収まっていた。本物はこの円からわずかに長針が飛び出している。
スーパーXでは、裏側に印刷された100ドルの「1」という文字の先端がわずかに角張っていた。本物は丸みを帯びている。実にわずかな違いで、顕微鏡で徹底的にチェックを重ねなければ見つけることはできない。
偽造犯たちは100%本物と同じ偽札を作ることができるだろう。だが、自分たちで偽をつかむわけにいかないから暗号を入れるのだ。それも1カ所だけでは破れたり、汚れたりすることもあるので、何カ所かに入れている。
そして、わたしは暗号を入れる技術者チームが複数あって、お互いにどこに暗号を仕込んだのか分からないように管理しているのではないかと推測している。
スーパーM以上になると、印刷以外にも工夫を施している。例えば、スーパーZには「ピン札」はない。大量にピン札ばかりだと偽と怪しまれるからだ。そのため、印刷後に偽札をもんだり折ったり、こすったりして、汚れやヨレ具合を本物らしくしている。
こういう作業には多くの人手を要するはずだから、ちょっとした偽造グループではとうてい対応できない。
日本から拉致された印刷技術者が偽札作りに関与したというウワサもあったが、それはあり得ないと断言できる。偽札づくりは高度な忠誠心を必要とする。一人でも裏切り者が出たら台無しになる。
洗脳でもされていない限り、外国人に偽札づくりを担当させないだろう。わたしは偽札工場で働く技術者や職人たちは選ばれたエリートとして優遇もされているし、本人たちは栄誉と喜びに包まれているだろうと思う。罪悪感などはかけらもないだろう。敵である米国をやっつける愛国運動の一環なのだ。
正直、彼らの力量は大したものだと思う。不謹慎な話だが、時代が変わって彼らと会うことができたら、同じ技術者としてビールでもいっしょに飲みながら話をしてみたいとも思っている。
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