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2008年02月03日(日曜日)付

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公務員制度―改革の動きを止めるな

 不祥事が相次ぎ、制度疲労が目立ってきた公務員制度をどうするか。昨夏から議論を続けてきた首相の私的懇談会が、報告書をまとめた。

 「官民人材交流センター」を設けることが決まった天下り問題とは別に、公務員制度全体の改革をめざしたものだ。政府はこれを受け、いまの国会に改革の基本法案を出す予定だ。

 大きな柱は二つある。人事を内閣で一元管理することと、「政官接触」を制限することだ。前者には各省の縦割りやキャリア制度の弊害をなくすねらいがある。後者の目的は、政治家と官僚との癒着を断ち、政治主導を確立することだ。

 人事管理では、「内閣人事庁」を設け、幹部公務員の採用や各省への配属を一括して扱う。再配置や中途採用を積極的に進め、本省管理職の半分を幹部候補以外から登用することをめざす。

 採用時に昇進の道筋をほぼ固定してしまうキャリア制度の枠組みを完全になくすものではない。だが、「省あって国なし」といわれる現状を、人事の一元化で打ち破ろうという姿勢は評価したい。

 人事の一元化に比べると、「政官接触」の制限は微妙な問題をはらむ。

 懇談会は当初、閣僚ら特定の幹部以外の公務員が国会議員と接触するのは原則禁止としていた。だが、与党が反発し、首相も疑問を呈したため、最終的には「厳格なルール」をつくって管理することに変えた。

 官僚の政治家回りが「ご説明」の域を超えた働きかけになる一方、政治家の口利きや圧力を招いている。これを改めようというねらいはまちがっていない。

 だが、やり方によっては、役所が情報をいっそう管理することになりかねない。議員がなかなか官僚に会えないとなると、年金記録のずさんな管理のような情報を引き出すことはむずかしくなる。野党議員ならなおさらだ。

 これはメディアにとっても同じだ。報告書は守秘義務違反を「重大性に応じて処罰する」と書いている。処罰をいたずらに強調すれば、過度の情報管理や内部告発の抑制につながる恐れがある。

 このように報告書には疑問もあるし、たった半年でまとめた粗さも目立つ。

 だが、相次ぐ不祥事や、優秀な人材が集まりにくくなったという現状を見れば、戦後の発展を支えた官僚制が曲がり角にあるのはまちがいない。

 問われているのは、政治の側が今回の報告書の長所と短所をにらみながら、どのように改革を進めていくかだ。長く続いてきた制度を改めるには相当な力業が必要になる。公務員改革を進めれば、それに応じた政治改革にも手をつけざるをえない。

 懇談会は安倍前首相が立ち上げたこともあって、福田首相がこの問題に熱心とは思えない。この際、民主党も独自の案を示し、政府の背中を押すかたちで改革を競ってもらいたい。

冤罪を防ぐ―弁護士は頼りになるのか

 やってもいない犯罪で逮捕されたとき、頼りになるのは弁護士だ。そうした信頼を揺るがす報告が出た。

 強姦(ごうかん)と強姦未遂の容疑で富山県警に逮捕され、実刑判決を受けた男性の冤罪問題を日本弁護士連合会が調べた。

 報告書は「捜査当局がうその自白を強要し、男性に有利な証拠を無視したことが原因だ」と結論づけている。

 捜査側の問題点は、すでに最高検などの検証で明らかになっている。日弁連の調査で注目されたのは、弁護士は何をしていたのか、との疑問への答えだった。

 逮捕された男性は、逮捕直後に弁護士会から派遣された当番弁護士と接見し、犯行を否認したが、その後、自白した。国費でつけられる国選弁護人は当番弁護士とは異なる弁護士が担当することが多いが、この事件では、たまたま同じ弁護士が国選弁護人になった。

 ところが、この弁護士は自白に転じた理由を男性に尋ねなかった。「自白が正しく、否認がうそと考えた。否認した理由を詳しく聞くと、容疑者を追いつめることになると考えた」と日弁連に説明した。このとき詳しく問いただしていたら、男性が自白を強要されていたことに気づいたのではないか。

 驚くのは、弁護士が男性に接見したのは、逮捕から公判までの半年間に4回、計1時間半ほどしかなかったことだ。

 この事件では、男性にアリバイがあり、事件現場に残された靴跡のサイズも男性のものとは異なっていたにもかかわらず、裏付け捜査はほとんどされていなかった。弁護士が証拠などをきちんと調べていれば、ずさんな捜査を暴いて無罪判決を得ることもできたはずだが、そうした調査もしていなかった。

 なぜなのか。報告書は「男性との意思疎通が不十分なまま、起訴事実を認めていると判断した」と分析している。しかし、その見方は甘い。どう見ても、手を抜いているとしか考えられない。

 権力からの独立をうたう「弁護士自治」をいうからには、こうした弁護士はきちんと自ら処分すべきだろう。

 この弁護士に限らず、容疑者が自白している事件では、手抜きが珍しくないのではないか。埋もれた冤罪はまだあるかもしれない。

 報告書は「張りつめた感覚で弁護活動を」と弁護士全員に呼びかけ、弁護活動のマニュアルを用意するといった対策を提言している。

 しかし、それだけで改善されるとは思えない。背景には、欧米に比べて極端に少ない弁護士の数がある。まして、来年からは、起訴前の容疑者へも国選弁護人を付ける対象の事件が拡大され、いまの10倍以上に急増する見通しだ。

 弁護士は容疑者や被告の権利を守るために最善の弁護に努める、と弁護士職務基本規程に定められている。それを実践できるだけの質量ともに十分な弁護士を早く備えなければならない。

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