rodeoさんへの回答+伊賀市の住民税減免の件
テーマ:政治伊賀市での事件について、何か勘違いして、”いわゆる”在日特権だと言っている人たちがいるので、書いておく。
直接的にはrodeoさんの以下の質問が発端。
>在日外国人の住民税は日本人より少ないのですか?
回答:基本的には同額です。
ただし、地方税法に従って、生活保護を受けているなどの場合は、課税されません(第295条)。
さて、問題の事件は毎日新聞の報道によると以下のようになっています。
http://mainichi.jp/area/mie/news/20071113ddlk24010355000c.html
伊賀市:「戦争補償」と住民税減免 在日韓国・朝鮮人の一部 昨年度末に廃止 /三重
伊賀市が市内在住の在日韓国・朝鮮人の一部を対象に、住民税を最大半額減免する措置を独自に設けていたことが12日、分かった。この措置は昨年度末で廃止されたものの、市民からは「他国籍の在住外国人も大勢いるなか、不適切な優遇では」との批判も出ている。
市税務課などによると、この措置が始まった詳しい経緯は不明だが、60年代以降、市内の在日本大韓民国民団(民団)や在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)側との交渉で始まったとみられる。市は「両国に対する戦争補償の一環や戦後期の所得格差の解消」などを理由に容認していた。市は05年11月、格差解消などを理由に廃止を決めた。
市では、必要に応じて税を減免できる市市税条例に基づき、両団体からの申請を基に減額対象者を決定。06年度に減額されたのは、在日韓国・朝鮮人のごく一部の計約50人で、例年同程度の規模で推移していたとみられる。
市税務課は「当時の市長の政治判断で始まったのだろう。今の時代には役割を終えたと考え、廃止した」としている。【傳田賢史】
〔伊賀版〕
毎日新聞 2007年11月13日
「在日韓国・朝鮮人の一部を対象に、住民税を最大半額減免する措置を独自に設けていた」
どうもこれが、ネトウヨのいう在日特権だそうですが(最大半額を「住民税半減」とかすり替えたり)、「この措置が始まった詳しい経緯は不明」というあたり、非難するには脇が甘すぎます。
また、「在日韓国・朝鮮人のごく一部の計約50人」であることも無視してますね。
さて、上記で、住民税は基本的に日本人も在日外国人も同額と私は答えてますが、では何故このような減免措置があるのでしょうか。
「この措置が始まった詳しい経緯は不明」なため、断言は出来ませんが、以下推測してみます。
ポイントは「生活保護」です。
本来、経済的に困窮している国民に対しては生活保護が適用され、これに伴い地方税である住民税が免除されます。
ところが在日韓国人・朝鮮人の場合、如何に経済的に困窮しても生活保護を受けれませんでした。なぜなら生活保護法第1条には「国が生活に困窮するすべての国民に対し、」とあり、国民とは日本国籍を有する者という解釈があったためです(1950年制定)。
日本国籍を有しない在日韓国朝鮮人には生活保護が適用されず、その結果、生活保護対象者に対する住民税減免措置も受けることは出来なかったわけです。
さすがに日本政府も現に困窮している在日外国人を、人道上見捨てるわけには行かず対応します。しかし法律の改正などの根本的な対策を採ったわけではなく、厚生省通知(382号通知)という場当たり的な対策にとどまりました。これが1954年のことです。通知の内容は「(定住・非定住に係わらず)生活に困窮する外国人登録をしている外国人に一般国民に準じて生活保護を適用しても構わない」というものです。http://homepage3.nifty.com/amdack/case/case38-1.html
しかし、法律ではなく厚生省通知であるため、実際の適用は地方自治体の窓口担当者の意向に大きく左右されることになったのは間違いないでしょう。
ちなみに帰化申請の例だが、役所に人種差別的偏見をもった担当者が昔は多くいたようです。
http://www.tazawa-jp.com/office/naturalization.htm
現実問題として、1954年の厚生省通知後も、在日韓国朝鮮人は生活に困窮しても容易に生活保護を受けられなかったと考えられます。その場合、当の在日韓国朝鮮人にとって頼れるのは、民団や総連しかありません。民団や総連が表に立って役所と交渉することは別に不思議でも何でもありません。
これが、
「60年代以降、市内の在日本大韓民国民団(民団)や在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)側との交渉で始まったとみられる。」
の部分につながるのでしょう。
地方によっては、厚生省通知後に在日韓国朝鮮人に生活保護を適用した例もあったでしょうし、適用を認めずに民団・総連などの組織ともめたところもあったでしょう。
伊賀市の場合は、生活保護は適用せず代わりに住民税を最大半減と言う措置をとったと思われます。ひょっとすると税務課と人権政策課あたりが対立したのかもしれませんね。
さて、以上のような事情であった場合、普通は特権とは言いませんね。
「在日特権だ」と馬鹿の一つ覚えみたいに連呼している人は、少なくとも「この措置が始まった詳しい経緯」を調べるべきでしょうが、多分絶対にやらないでしょうな。
■無題
中日新聞の別の記事に経緯の推測の一つが書かれています。http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2007111302063852.html
>伊賀市の減額措置は、昭和30年代から40年代にかけ、当時の上野市(現伊賀市)が、地元の在日本大韓民国民団(民団)や在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)との交渉を経て開始。市長が特例で認めたという。当時は納付しない人も多く、半額でも徴収したい、と始めたらしい。
中日の記事には「個人事業主を中心に」と書かれていますので、対象は主に特別徴収ではない普通徴収の人であることが推測できます。普通徴収の住民税の徴収は、市町村税務担当課が今も昔も抱えている課題の一つです。僅かでも徴収額を増やそうとして、各団体との交渉の結果、納付が困難な人に半額だけでも納付してくださいと市の裁量で策を講じたのだとしても、それ自体は裁量の範囲内であると考えられます("最近10年は一律に半額"の部分が個人的には気になりますけど)。
生活保護にしろ住民税普通徴収にしろ、役所ごとに対応が非常にまちまちですし、またお役所は何かと動作が機敏でないので、過去の措置を前例踏襲で引きずってきて、ここへきて漸く「役割を終えたと考え」た、という一連の流れがあったとしても、無理からぬ所かと思います。
scopedogさんのように生活保護に着目した推論も納得のいくところです。生活保護と住民税との額的なバータとか「当時の市長の政治判断」も検討しどころでしょうが、いずれにせよこの問題は過程・背景を考えた上でなければ一面的な議論になるでしょうね。