前回記事:
なぜ75歳以上なのか
後期高齢者医療制度は2006年6月に与党の強行採決で決まり、本年4月からスタートすることになっている。
参照:
後期高齢者医療制度の概要(PDF文書、厚生労働省)
記者は青森市の整形外科診療所で地域医療を担っているが、最近は高齢者から医療や介護に対する不安や負担増への不満の声を聞くことが多くなった。青森県の平均寿命は毎回全国最下位で医師不足もますます深刻になり、小児科、産婦人科だけでなく高齢者の医療も崩壊の危機に瀕している。高齢者の医療を崩壊させる「うば捨て山」制度に警鐘を鳴らしたい。
後期高齢者医療制度は75歳以上の高齢者に加えて65歳以上の障害を持ったハイリスクグループだけで保険料を負担する。当然、医療費は年々増加し、保険料を値上げせざるを得なくなる。
堤修三氏(大阪大学教授)は「高齢者は保険料負担に余裕はなく、保険料はすぐ天井に突き当たり、その結果、医療内容も制限され十分な治療を受けられなくなり、うば捨て山化する」と述べている。
一方、厚生労働省は「看取りの場所」についても予想している。それによると、介護施設数を現在の2倍に整備し在宅死も1.5倍に増えた場合でも、入院ベッド数を増やさない方針なので、2030年には1年間で47万人の「終末期難民」が出ると予想され、選択肢がない難民は在宅死が強いられることになる(図2、クリックで拡大します)。
ちなみに、2030年に死亡する人とは、男性は今年58才、女性は64才の人が該当し(2005年完全生命表の平均余命から計算)、まさに団塊の世代が当事者となり、中でも脳血管障害の終末期医療が問題にされている。
保険料滞納で新たに資格証が発行
国民健康保険の場合、1年間保険料を滞納すると保険証が取り上げられ、被保険者資格証(窓口で10割負担)が交付されるが、75才以上は対象外で保険証が取り上げられることはなかった。しかし、後期高齢者医療制度では、75才以上にも資格証が交付される予定だ。つまり、高齢者にとって保険料の滞納=資格証交付は、医療を受けることなく終末期を迎えることを意味する。
75歳以上の滞納世帯数
このように高齢者の保険料滞納状況は高齢者の終末期医療を大きく変える要因となるが、広域連合をはじめ、都道府県も国も正確な数値を把握できないまま作業を進めている。
そこで、青森県保険医協会は県内40自治体に対し、75歳以上世帯の国保保険料滞納状況についてアンケート調査を実施した。「集計できない」、「回答不能」という自治体もあったが、2007年12月末の集計では18自治体から回答があり、青森県内で8,000世帯、1万人以上が滞納していると推定された。青森市の場合、国保の滞納世帯が1,183世帯、介護保険料の滞納人数は1,039人となっている。青森県の人口は147万人、そのうち後期高齢者数は16万人、介護保険料の普通徴収の収納率は75%で、国保料を滞納している人は介護保険料も滞納していると推定されている(図2、クリックで拡大します)。
介護保険料は年金から天引きされ、きちんと支払っているにもかかわらず手元に現金がないために、介護サービスを利用できない人も徐々に増えている。高齢者保険料と介護保険料を滞納した脳血管障害の人が寝たきりとなり、医療も介護サービスも受けることなく自宅で死ぬようになれば、年間5,000億円の医療費が削減され、まさしく「うば捨て山制度」が完成する。早ければ、2009年4月から犠牲者が増加すると予想されている。
(つづく)
※図1は07年10月21日に青森市で開催された第16回青森県老人保険研究会の特別講演で配布された資料より。
※以下の図はクリックで拡大します。