日教組が二日から東京のホテルを会場に開催予定だった「教育研究全国集会」の全体集会を中止した。ホテル側が右翼団体による妨害行為などを理由に使用を拒否したからだ。
教研集会は、組合加入の教職員らが全国から集まり、いじめ、学力低下といった教育現場の問題や指導方法などについて報告し、改善に向けて全体集会や分科会で議論を深めている。今年は四日までの日程で、全体集会には約三千人の参加が見込まれた。
全体集会の中止は、一九五一年に始まった教研集会で初めてだ。憲法が保障する集会の自由が侵害されることになり、歴史に汚点を残したと言わざるを得ない。
全国各地で開かれた教研集会をめぐっては、これまで四回、施設側が使用を拒否した例がある。だが、いずれも日教組側の主張を認めた司法判断に基づき、予定通りに全体集会は開催された。
今回、日教組は昨年五月にホテルと使用契約を交わしたが、十一月になって突然契約破棄を通告されたという。日教組は東京地裁に施設使用を求める仮処分を申請し、今年一月十六日に認められた。ホテル側は、仮処分決定を不服とし、二十五日に東京高裁へ抗告したが、高裁は三十日棄却した。
司法判断にもかかわらず、ホテル側は「宿泊客などに影響を与え、使用は認められない」と語り、損害賠償訴訟になっても同じ主張をするとかたくなに使用拒否を貫いた。法を無視する態度は許されることではあるまい。
開催予定日が迫っていただけに、大規模集会会場を急きょ変更することは難しく、日教組は全体集会の中止に追い込まれた。森越康雄委員長が「司法の判断に従うというのは法治国家の基本。それに従う必要はないというホテルの姿勢は自由や民主主義を壊滅させる」と厳しく批判するのは当然だ。
ホテル側は「当社は『お客さまの安全・安心』を企業理念、規範、行動指針の第一に掲げている」と理解を求める。これまで会場周辺では多数の右翼団体の街宣車によって騒然となっていたのは確かだ。過去の会場は自治体や第三セクターの施設が使われ、今回が完全な民間企業の施設を利用する初のケースだったこともホテル側が警戒を強める要因であろう。
しかし、ホテルは多くの人が集まる公共的性格を持っている。日教組や警察当局と打ち合わせ、対策を十分にすれば混乱を回避できたはずだ。集会や言論の自由を守るために、今回の中止を前例にしてはならない。