社説

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社説:会場使用拒否 言論の自由にかかわる問題だ

 2日から3日間の日程で東京で開催される日本教職員組合の教育研究全国集会の全体集会が開けなくなった。いったん会場使用の契約を結んだ港区のグランドプリンスホテル新高輪が「顧客や周辺住民に迷惑になるから」と、一転して使用を断ったためだ。

 ホテル側は、使用を認める裁判所の決定が出ても拒否を変えず、日教組は1日、参加教員全体の集会を断念した。テーマ別分科会は分散会場で開かれるが、基調報告や記念講演に充てる全体の集まりは2000人規模の大会場が必要で、代わりがなかった。

 教研集会は毎年全国各地で開催し、今回で57回を数える。教科学習の改善工夫やいじめ、非行問題対策など学校現場の実践例を報告、意見交換、討論をする。毎回、会場周辺に日教組運動に反対する右翼団体が集まり、街宣車で批判する。

 この騒ぎと交通渋滞などから会場提供をしぶる施設は少なくない。今回のように、いったん受けた後で拒否した例は過去にもあるが、日教組側が裁判所に使用容認の仮処分を申請して決定を得るなど、司法の判断で解決してきた。

 今回のホテル側は、実際に起こる影響の大きさについて日教組から説明がなく、従業員を前回会場の大分・別府に派遣して調べ、初めて知ったと主張する。

 大分県警は他府県警の応援も含め1300人態勢で警備、交通規制をしたが、大きなトラブルや事故はなく、集会は予定通りに行われている。

 今回の仮処分決定で東京地裁は、日教組がホテル側に対し、前回街宣車が来て警察が警備した事実を述べており、説明義務違反はないと認定。またホテル側の抗告を退けた東京高裁も、日教組が警察庁、警視庁に警備要請して了解を得ており、ホテル側は十分な打ち合わせをすることで心配するような混乱は防止できるという判断を示した。つまり、受忍できないような大きな混乱、騒ぎは避けられるという見方だ。

 しかし、ホテル側はそうした司法判断に従わない。

 自由に集会し、自由に意見を交わす場が騒ぎと警備に囲まれ、会場確保のために裁判所の判断を仰がなければならないというのは、本来あってはならないことだ。しかし、集会や言論の自由という最低限の基本的権利はそれで守られる。それを越え、どうであれ会場(機会)は与えないという事態は到底看過できぬ権利侵害といわざるをえない。

 それが日教組の集会であれ、逆に反日教組の集会であれ、保障されるべきは同じである。今回の「全体会取りやめ」は今後、日教組にとどまらず、集会や言論、表現の会場使用をめぐる問題に「前例」として重くのしかかるおそれがある。

 そうしないための問題認識や気構えが必要だ。

毎日新聞 2008年2月2日 0時17分

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