中国製冷凍ギョーザによる中毒で、厚生労働省は、農薬残留のリスクが生鮮品よりも低い冷凍食品から殺虫剤が検出された事態に、強い衝撃を受けている。
輸入時の検査で、加工された食品の大半は細菌や添加物などをチェックするにとどまり、農薬の有無を調べていない。検査の「抜け穴」から健康被害が出た形で、監視体制の強化を求める声が高まりそうだ。
厚労省は、輸入食品の約5%を抜き打ちで検査し、食品衛生法違反が見つかれば、検査命令などの措置で監視を強めている。食品安全部によると、問題のギョーザと同じ製造元の冷凍ギョーザは昨年1月以降で155回(約1230トン)の輸入があり、うち8回は検疫所でサンプル検査を受けたが、違反はなかったという。
しかし、いずれも細菌や添加物の量が基準の範囲内にあるかどうかの検査で、そもそも残留基準がない農薬は対象外だ。また、サンプル検査とは別に、輸入業者は検疫所に輸入届け出書を毎回出さねばならないが、記載内容は▽原材料▽添加物▽製造方法--で、加工品の原材料に使っている農薬まで申請する必要はない。
冷凍食品などの加工品に対する農薬のチェックを厳しくする場合、野菜ごとに異なる残留基準をどう設定するかが難しく、加工度が高いと検査自体が困難になるとの指摘もある。
30日夜に会見した厚労省の道野英司・輸入食品安全対策室長は「検査体制の見直しは今後検討する」と述べるにとどまった。【清水健二、北川仁士】
◇殺虫剤、生産段階で混入か
有機リン系殺虫剤のメタミドホスは、どこで混入したのか。10人の被害者が出た千葉、兵庫両県警の調べでは、問題のギョーザの包装紙には穴などはなかった。商品の外側から注射針などを使って混入した可能性は低く、中国での生産段階で入ったと考えるのが自然だ。
推定できるのは、▽原料である野菜などにもともと残留農薬として付着していた▽工場での製造過程で入った--の2ケースだ。農林水産省によると、メタミドホスは、加熱調理することで分解され毒性も弱くなる。ギョーザは冷凍前に加熱処理されており、残留農薬の可能性は低いとみられる。
工場での製造過程での混入の可能性が高いが、厚生労働省の担当者は「限られた商品で被害が出ていることを考えると、個々の商品になる直前に混入したのではないか」とみる。両県警の捜査では、メタミドホスは商品のパッケージから検出されている。この担当者は「包装段階が最もあり得る」と話している。
◇「食の安全」再び疑問符--中国、調査開始
【北京・浦松丈二】中国政府は海外で中国産品による健康被害が相次いで報告された昨年以降、輸出食品の検査体制を強化。国家品質監督検査検疫総局の蒲長城・副局長は今月14日に記者会見し、「昨年取りざたされた『食の安全』問題は関係国と協力して解決した」と自信を示していた。それだけに日本での中毒症状は、北京五輪を半年後に控える中国の大きなイメージダウンとなりそうだ。
中毒症状について同総局は30日夜、「事態を重視している。速やかに日本の関係当局と連絡を取りながら詳細な状況を把握し、調査結果を公表する」との声明を発表した。
同総局は昨年7月、輸出食品のサンプル検査で米国向けの99・1%、日本・欧州向けの99・8%が合格だったと説明し「これらの国から中国へ輸入される食品よりも合格率が高い」と強調した。また、安全性に問題のあった国内企業の製品輸出を禁止。食品と児童用玩具を対象にしたリコール制度も導入した。
全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会は昨年末、監督体制強化や罰金の引き上げなどを明記した食品安全法案の審議に入った。だが、法律の施行後も厳格な運用までには相当の時間がかかることが一般的だ。
北京在住のジャーナリストで「中国の危ない食品」(草思社)の著者、周勍(しゅうけい)さんは「製造工程がずさんだという可能性もある。農民は栽培野菜が虫に食われて売れなくなるのを恐れ、残留農薬の濃度が高い場合がある」と指摘した。
◇中国製造元、取材応じず
【石家荘市(中国河北省)大塚卓也】冷凍ギョーザの製造元、中国河北省石家荘市にある天洋食品の工場は30日夜、正門を閉ざしたままで、一切取材に応じなかった。
3階建ての体育館ほどの大きさの工場はすでに電灯が消え、事務所からは明かりが漏れている。妻が工場で働いているという40歳代の男性は正門前で、「工場の製品の大半は日本向けと聞いている。最近、雇用契約を巡って労働争議があったばかりで、この工場で何が起きても不思議ではない」と話した。
毎日新聞 2008年1月31日 東京朝刊