Sub:米国、040831、食生活指針を巡る激しいロビー活動
<要約>
米国政府は、5年ぶりに食生活指針の見直し作業を進めている。これは現在、米国で社会問題となっている肥満や生活習慣病の解消に向けた重要な取り組みであるが、食品業界は今後の売り上げを大きく左右するものとして、大きな関心を寄せている。
<本文>
[委員会が報告書を公表]
米保健・福祉省(HHS)と農務省(USDA)が任命した科学者で構成される諮問委員会は8月27日、米国民のための食生活指針(The Dietary Guideline For Americans)の見直しに関する報告書を公表した。
食生活指針は80年に、HHSとUSDAが共同で公表し、5年ごとに改定している。現行指針の来年1月の改定に向けて、諮問委員会でこれを検討していた。報告書は米国内で社会問題となっている肥満と生活習慣病を反映して、以下の9つの提言を取り上げている。
[全粒穀物や魚の摂取を推奨]
これらの提言のうち、現行の指針と異なる主な点は、第1に現行指針では摂取目標を設定していない全粒穀物について、心臓病の予防や体重管理の観点から、1日の摂取目標を3オンス(1オンス=28.3495グラム)と設定するよう求めている。
第2に脂肪については、現行指針でも飽和脂肪酸の摂取を控えるよう求めている(摂取カロリーの10%以内)が、これに加えてマーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸の摂取も、摂取カロリーの1%以下とするよう求めている。
また、突然死や心臓病予防の観点から、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が多く含まれる魚を、1週間に8オンス摂取するよう勧めている。
第3に塩分に関して、現行指針はナトリウム摂取量の上限を明確にしていないが、今回は心臓病などの予防の観点から、1日2,300ミリグラム以下を目標にしている。
[水面下での激しいロビー活動]
今回の報告書を受けて、HHSとUSDAは8月27日から1カ月間、パブリックコメントを募集した上で、来年1月の指針改定に向けて作業を進める。指針の見直しと合わせて、USDAはHHSと協力して、フードピラミッドの見直し作業を進めている。
これは、1日に摂取すべき食品の種類と量を、ピラミッド型の図でわかりやすく示したもので、食生活指針の内容を反映したものである。92年の公表以来、学校での教材などに用いられ、多くの米国民に浸透している。
食生活指針やフードピラミッドは、米国人の食生活に大きな影響力を持っており、摂取量の目安が一つ変わるだけで、食品の売り上げは何百億ドルも変動することから、食品業界による激しいロビー活動が行われている。
今回の報告書で、牛乳・乳製品の摂取量の目安が増えていることに対し、ウォールストリート・ジャーナル紙(8月30日)は、関係団体のロビー活動の成果としつつ、「委員会の委員の中には、牛乳関連団体から研究費補助を受けている者もいる」と伝えている。
今後の指針とフードピラミッドの見直し作業のなかで、現在大きな地位を占めている穀物業界などはその地位を失わないように、また、ピラミッドに記載されていない業界や、摂取目標量が少ない食肉などの業界はより良い立場を手に入れるために、こうしたロビー活動を一層活発化すると予想される。
なお、報告書の全文等の情報は、HHSのサイトから入手可能である。
出典:http://www.health.gov/dietaryguidelines/dga2005/report/
USDA "The Food Guide Pyramid"【PDF】
記事執筆:山口潤一郎(ジェトロ シカゴセンター)
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