所 長 ご 挨 拶 | |
第97回 (2月 2008年) 先日、ある小さな会合で興味ある数字を聞きました。それは中国の経済成長を明確に示す数値でした。中国ではケ小平が唱えた開放・改革路線への転換で、経済が大きく成長して、ついに年収が1000万円を超える層が7パーセントを超えたそうです。人口では何と9000万人の中国人が年収1000万円を超えたことになります。中国国内では都市や農村の格差などがいろいろいわれていますが、日本の隣国に年収1000万円超が9000万人いる国というのは間違いない現実なのです。 さらに今年4月からは、日本で中国人の個人旅行が解禁されます。今まで中国人が日本国内を観光旅行するのは、団体ツアーに限られていました。団体ツアーで来日した中国人観光客が、ツアー中に逃亡して日本で違法就業させないためです。中国の旅行会社にそれなりの責任を負わせていたのです。それがいよいよ4月に解禁されるのです。 そういえば私が初めて海外(ヨーロッパ)に行ったのは30年前ですが、出発までに銀行で預金の残高証明を発行してもらい、違法就業しないことを証明する必要がありました。そのために親戚や友人にお金を借り、一旦銀行に預金して残高証明を発行してもらい、すぐにその預金を下ろしてお金を返した思い出があります。要するに「見せ金」だったのです。それくらい日本でも海外旅行が厳しい時代でした。 当時、日本の貧しい若者が世界一周を企むと、まず船や飛行機でアメリカの西海岸に向かい、米国には観光ビザで入国し、ニューヨークなどの大都市で1年程度を日本料理店で皿洗いのバイト(違法就労)をして、お金を貯めるのが一般的でした。日本で土木・建設などキツいバイトをしても、月5万円を貯めるのに必死です。でも、アメリカなら昼・夜の皿洗いで月に20万円が貯まるといわれていました。それでアメリカに住めば英語に慣れる時間も取れました。今の海外旅行事情とは雲泥の差があります。 これから中国人に日本での個人旅行が解禁されれば、それで来日する中国人は激増すると思います。むろん合法的な観光ツアー以外に、日本での不法就労が目的の者も少なくないと思います。中国人は今までのような日本密入国を”蛇頭”などのマフィアに頼む必要がなくなったという意味です。 私が子どもの頃の外国人は、まず周囲では在日の韓国人や朝鮮人でした。その後、フィリピンやタイ、中国やパキスタンなどから、日本に出稼ぎに来る外国人が多くなりました。しかしこれからの日本では中国人が最も多い外国人になることは確かです。日本は中国といかに付き合うか。これは日本の大きな課題になると思います。 1月30日に発覚した農薬(毒薬)が混入した冷凍食品事件のように、食品に限らず中国のあらゆる製品は日本人の生活にきめ細かく入り込んでいます。すでに日本から排除することは不可能だと思います。中国を世界の工場と見る時代は終わりました。中国は日本の食料供給地の役割を負っているのです。仮に、もし今回の冷凍食品への毒物混入事件が日本に反感を持つ者たちの毒薬テロだとすれば、日本に大変な事態を引き起こす可能性があることが証明されました。 そのような新しい時代の日本と中国の安全保障はいかにあるべきか。いくら中国が軍事力が強化しても、単に中国の軍事脅威を強調しても、米ソ冷戦時代のように中国を封じ込めることはできません。中国には日本と軍事的に対決(競争)しても、中国にとって無駄であり、かつ不利益だということを理解させることしかないでしょう。すなわち新しい時代の安全保障論を作り上げることが必要です。 日本は中国だけに片寄ることもできません。インドや東南アジア、ブラジル、ロシアといった地域とも協調する努力が求められます。軍事環境は過去の米ソ冷戦とはまったく逆の国際協調が求められる時代と思います。 そんな新しい時代の日本の安全保障を考えたいと願っています。危機を煽るだけの軍事論ではなく、戦争を回避し、平和で安定した繁栄を築くための安全保障論です。決して不可能ではないと思います。
2月2日 つづく |
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以前の所長挨拶はファイル(文書倉庫)にあります。 |
著書紹介
面白いほどよくわかる 『世界の軍隊と兵器』 05年1月30日 発売 日本文芸社刊 1400円(税別) |
この本を私の著書と呼ぶことはできない。大部分は軍事ジャーナリストの芦川 淳さんと、軍事フォト・ジャーナリストの菊池雅之さんが書いた本である。二人とも、将来は日本を代表する軍事通になる素質を持っている人である。。
この本で私の担当は、監修と第7章の「新しい日本の防衛政策」を書いた。私としては高校生レベルの軍事入門書として読んで頂きたいと考えていた。しかし意外なことだが、若い新聞記者やテレビ関係の報道ディレクターが読んでいた。私のところに取材に来る前に、この本を読んできましたと話す人が多くいた。今までは、軍事とは関係のないところに生き、仕事柄、初めて軍事の世界に触れる人には都合のいい本だったようだ。 出版社に聞けば、やはり売れているようで、早々と半年で軍事本では珍しい重版になった。ともすれば私たちは軍事の専門家として、高度な内容の本を書きたがる傾向がある。社会に自分を認めて欲しいという欲求があるからだと思う。しかし世の中が求めているのは、確かな基礎知識に基づいた初級クラスの軍事解説本も忘れてはいけないと気が付いた。 これから軍事を勉強してみたいと興味を持った方にお勧めしたい1冊である。 |
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『戦争の科学』(監修) 03年9月10日 発売 主婦の友社刊 3000円 (税別) |
5月のある日、主婦の友社の編集者が訪ねてきて、「この本を翻訳して、日本でも出版したいと思います。ぜひ協力してください」と話した。原題は『SCIENCE GOES TO WAR』である。すでに下訳ができていて、読んでみると戦争というより兵器の歴史書だった。まずは日本語訳の間違いを訂正するために原書と突合せながら読んでみた。するとこの和訳が実に上手い。いやむしろ上手すぎると思った。言葉を訂正するどころか、逆に、言葉の使い方に感心しながら読んだ。翻訳はまったく問題がなかった。ところが原書には、今の時代では必須のRMA(軍事革命)の記述がなかった。そこで、「この本のタイトルでRMAの項目がなければ欠陥品になります」と編集者に話した。そこで最後の解説の部分として、RMAを書き加えることになった。それを私が担当することになった。 「高校生にわかるように書きます」と言って、もっともわかり易いRMAの解説を書いた。それから原書にはないイラストを友人の長谷川正治氏を紹介した。ぜひとも図説のイラストが必要と思ったからだ。これで8月末に完成した。訳者の茂木健さんに脱帽した。 |
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『北朝鮮 消滅』 03年3月1日 発売。 イースト・プレス社刊 1500円(税別) |
北朝鮮という国を軍事的な視点で見ると、今までは異常な体制支配で隠された部分から、真の姿が浮かび上がってきた。なぜアメリカは北朝鮮を軍事攻撃できないのか。韓国の太陽政策はなぜ生まれたのか。日本と北朝鮮の国交正常化はなぜ進展しないのか。 そもそも北朝鮮の軍事力とはどうなのか。テポドンやノドンが日本に飛来する可能性はあるのか。そして、北朝鮮をめぐる中国やロシアの対応に隠された真意はどこにあるのか。 イラク戦争でフセイン独裁体制が米英の軍事力で倒された今こそ、この本が解き明かす北朝鮮の真実が近未来を予測します。 この本は1500円で、2003年3月1日が発行日です。 |
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『北朝鮮 対日 潜入工作』 共著 別冊宝島宝島 038 宝島社刊 1200円(税別) |
私が担当したのは、「生物・化学兵器の原料流出のみを警戒せよ!」です。何だか変なタイトルですが、もう北朝鮮の兵器は脅威ではない。エンジンのかからない戦車、飛ばない戦闘機(飛ばせないパイロット)、潜航せきない潜水艦の数を数えて怖がっててもしかたがない。しかし生物・化学兵器だけは怖い。これに対する警戒は必要と書いたら、このようなタイトルになりました。 原稿を書いたのが02年の7月、本が出たのが8月、そして9月から小泉訪朝と拉致事件被害者の帰国と、日本で北朝鮮関連のことで大騒動になりました。そのためか、何度かこの本が増刷され、こんど宝島文庫にもなるそうです。 北朝鮮は怖くなければ北朝鮮ではない。怖い北朝鮮が大好きという方には、この本は絶対のお勧めです。金正日の危険度を知る上では面白い本です。 |
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「裸の自衛隊」 神浦元彰 監修 宝島文庫社 ¥533(税別) |
歴史的な名著として話題になった自衛隊本。ベストセラーの初版から9年たっての文庫本なのに、初版〔文庫〕で10万部を刷ったという驚異の本。この「裸の自衛隊〔文庫〕」では、記事中以外に、「INTRODUCTIN」と「あとがき」を担当しています。他の著名な執筆者の鋭い取材や分析には、軍事の専門家でない方が、むしろ自衛隊を正確に見ていると脱帽しました。自衛隊の本当の姿を知りたい人にはお勧めです。現職や元自衛官には圧倒的な人気でしたが、防衛庁高官や自衛隊の偉さんたちにはヒンシュクをかいました。 | |
「北朝鮮最後の謀略」 神浦元彰 著 二見書房 ¥825(税別) |
神浦所長が最初に挑戦した「軍事小説」。本当はこれで直木賞を狙っていたが、候補どころか話題にもなりませんでした。〔もちろん冗談〕 小説の話しの内容は、ロシアの犯罪組織から核爆弾を密かに買った北朝鮮の指導者が、横須賀港に寄港している米原子力空母の船底に核爆弾を仕掛け、関東一帯を「チェルノブイリにする」という計画が発覚。それを阻止すべき自衛隊の特殊部隊が投入された。北朝鮮軍工作員指揮官の許少佐の謀略に翻弄される日本。その間にも、核爆弾は改装された貨物船で東京湾に運ばれ、水中から原子力空母の船底にセットされた。(裏話・この小説はアメリカの高官が、「北朝鮮が1〜2発の核爆弾を持っていても、1万発以上の核弾頭を持っているアメリカの脅威にはならない」と言った事に頭にきて書いたのがもともとの動機です) | |
「北朝鮮『最終戦争』」 神浦元彰 著 二見文庫 ¥495(税別) |
北朝鮮がテポドンを発射実験して、日本政府やマスコミのあまりの動揺ぶりに「ビビルな日本、北朝鮮は怖くない」と、科学的な軍事分析してみせた本がこれ。内容はノンフィクションですが、軍事常識や理論を勉強するには最適の本です。各所に具体例を挙げながら、理論的な説明をしておきました。この本は一部の朝鮮半島の専門家には高い評価をして頂きましたが、「北朝鮮が攻めてくる」と危機感を煽ってなんぼの人には敵視されました。しかし北朝鮮がいくら全体主義の国でも、国民の大多数が飢えているのに、大きな戦争を始める余裕はないでしょう。(裏話・この本で言いたいのは、本当に怖いのは北朝鮮ではなく、その背後にいる中国で、その将来の日中関係によっては、深刻な事態になると警告をしたかった。新たな冷戦を生まないために、中国と日本と米国が軍事対立をしないことが大事) | |
「アジア有事
七つの戦争」 神浦元彰 他(共著) 二見書房 \1748(税別) |
「何か面白い本を書こうよ」と、軍事評論家の野木恵一さんと話していたら、これからのアジアの10年間を、軍事情勢から分析し予測してみようと企画したのがこの本。そしていつもすごい記事を書くなと関心をしていた、河津幸英〔軍事研究誌 論説委員〕さんと、航空ジャーナリストの石川潤一さんにも加わって頂いて、4人の共著で出版しました。
本当は4人で酒でも飲みながら、ワイワイガヤガヤとやりながら、進行していこうとぐらいに考えていました。ところが、野木さんは昔から酒を飲まないことを知っていましたが、河津さんも酒を飲みませんでした。石川さんもほんの付き合い程度しか酒を飲まないと聞いて大ショック。大酒飲みの私としては、極めてまじめに企画から、執筆まで真剣に取り組んだ本です。出版後にA新聞社の有名軍事編集委員から電話を頂き、よく書けているとお褒めの言葉を頂きました。4人が大酒のみだったら、どんな本が出来たのでしょうか。 |
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「日本の最も危険な日」 神浦元彰著 青春出版社 絶版 発行1978年6月 | 22年前の本です。「神浦さん、将来、大物になる人は20代で本を出しています。書いてみませんか」と、私が29歳の春に青春出版社編集部の行本さん(当時、現在は文化創作出版社)に言われ、中高生を読者対象にして、わかりやすく軍事常識の解説書を書いたのがこれ。日本や日本周辺で考えられる軍事問題を99項目とりあげて解説をしました。たとえば、「なぜ中国は台湾を攻めないのか」「小さな地域紛争(人種、宗教、国境など)から、人類を滅ぼす全面核戦争までの戦争分類法」「米ソ、戦略核兵器の種類と核戦略」「北海道脅威論のいい加減さ」「開発中の精密誘導兵器の恐怖」などなど、いろいろな項目で書きました。たしか30歳の7月の誕生日にぎりぎり間に合ったと記憶しています。この本を出したのを機会に、テレビなどマスコミに軍事問題で出るようになりました。そのころ週刊ポストで最も若い記者だった二木啓孝氏(現、日刊ゲンダイの編集部長)と、この本が縁で知り合い、同じ年ということで仲良くなり今も付き合っています。私の肩書きの「軍事ジャーナリスト」というのも、二木氏が20代で軍事評論家はないだろうと命名しました。この本で私の本格的な軍事人生(取材・研究・発表)が始まったようなものです。それが今、私の書斎の本箱を見たら、なんと1冊もないんです。びっくりしました。私と同じ頃に青春出版社から「天中殺」の本が出て、歴史的なほど爆発的に売れました。そして日本中で占いブームが起きたときは驚きました。まだ藤本義一氏が日本テレビで11PMの司会をやていた頃の話です。その11PMにも何度か出演させて頂きました。 |