◎輪島まちづくり計画 「伝建」選定を復興の原動力に
能登半島地震の被災地復興へ向け、輪島市が五地区で策定する「復興まちづくり計画」
は、黒島地区の国重要伝統的建造物群保存地区の選定を目指す取り組みをその象徴にしたい。被災地を伝建地区にすることで復興させる試みは全国でも例がなく、たとえ困難が多くても、夢が膨らみ、やりがいのある取り組みである。実現すれば能登の復興と魅力を全国に発信する大きな力になりうる。
黒島地区は藩政期、北前船の寄港地として栄え、重厚な黒瓦屋根と下見板張りの家並み
が特徴である。能登半島地震では全世帯の四割に当たる住宅約八十戸が全半壊し、北前船時代の船問屋の建築様式を伝える「角海家」(県文化財)も深刻な被害を受けた。
住民の多くが高齢者で、町並みを元通りにするだけでも困難が伴うが、国の伝建地区選
定という大きな目標は、住民が思いを一つにし、自分たちの住む町並みの価値の高さを再認識するきっかけとなる。そうした地域への誇りが復興を支える原動力になるはずである。
国の伝建地区は市町村が決定した伝建地区の中から、特に価値の高い地区が選定される
。現在は全国で八十地区が選ばれている。地域の整備事業で調整が必要となる一方、地区内では税の優遇措置が受けられる。防災対策の充実も大事な要素となり、震災復興とは重なる部分がある。
黒島地区は住民が主体的に町並みを守ってきた歴史がある。船大工の流れをくむ大工が
昔ながらの町並みを維持し、被災した後も区長や地元の大工が伝統的な工法で家を再建するよう働きかけている。そうした住民の熱意が黒島の強みである。
すでに文化庁の調査官も現地を視察し、町並みの価値を評価している。輪島市も国伝建
地区の前提となる市の地区決定へ向け、保存条例や保存計画策定などの準備を着実に進めてもらいたい。
輪島市が「復興まちづくり計画」を策定するのは、黒島をはじめ、河井、鳳至、總持寺
周辺、道下・鹿磯の五地区となる。輪島塗の職人が多い鳳至なら漆が感じられる町、總持寺周辺なら禅文化、黒島なら北前船とそれぞれの地域の個性を生かす。うまくいけば歴史や文化を活用した被災地復興モデルとなるだろう。
◎学校と塾の連携 頭から拒否してよいのか
東京・杉並区の区立中学校で、保護者らでつくるボランティア団体「地域本部」が主催
し、都内の進学塾と提携した有料の特別授業が始まった。放課後とはいえ、公立学校でいわゆる“できる子”を対象に塾の講師による授業を行うとあって賛否両論がおき、都の教育委員会が一時待ったを掛けたことで話題になり、発案者である民間出身の校長が考えを曲げなかったため発足できたという曲折があった。
報道によると、「上位層を伸ばすことに公立学校は関心が薄かったが、教師に何もかも
求めるのはムリ。だから塾の力を借りる」というのがその校長の考えだ。好きにやらせるのではなく、教材づくりに学校も関与するという。中学校だから当然、受験対策であろうと考えられる。が、そうだとしても、教師が授業以外の業務に忙殺され、授業研究も十分にできないとの嘆きさえ聞かれるのが公立学校の現状ではないか。それを考慮すると、公立学校が私塾の力を借りるのは絶対に許されないといえるだろうか。
児童生徒を競わせることを否定し、授業についていかれない子を居残りさせるのが「よ
いこと」であり、できる子をさらに伸ばそうとするのは「よくないこと」とするのはタテマエ主義だ。校長はそのタテマエ主義にホンネをぶつけたのだ。
反対論は「生徒を分断することになる」「私塾の営利活動に公立学校が加担するものだ
。学校の否定につながる」「教職員や保護者に批判があるのに、校長が独断で決めた。裁量権の暴走だ」などである。一方、賛成論は校長の考え方に加え、「地域の実情に合わせて民間を活用するのは面白い。公立学校の可能性を広げる第一歩だ」「授業一コマ五百円と格安であり、塾側にほとんど利益はない」等々である。
この問題がきっかけとなって、私塾との連携をすでに行っているケースがいろいろ分か
ってきた。私塾が引き揚げて行ったため、村が「公営の塾」を開いたところまであるようだ。公立学校が地域の事情にそくして民間の力を活用することがあってよい。子供のためといいながら、教師が自らのためにするようなことこそ批判されねばなるまい。