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後期高齢者医療制度は「団塊うば捨て山」 (1)なぜ75歳以上なのか
2008/02/02
 後期高齢者医療制度は2006年6月に与党の強行採決で決まり、本年4月からスタートすることになっている。

参照:後期高齢者医療制度の概要(PDF文書、厚生労働省)

 記者は青森市の整形外科診療所で地域医療を担っているが、最近は高齢者から医療や介護に対する不安や負担増への不満の声を聞くことが多くなった。青森県の平均寿命は毎回全国最下位で、医師不足もますます深刻になり、小児科、産婦人科だけでなく高齢者の医療も崩壊の危機に瀕している。高齢者の医療を崩壊させる「うば捨て山」制度に警鐘を鳴らしたい。

図1.厚生労働省のリーフレットより
後期高齢者医療制度とは?
 厚生労働省が用意したリーフレット資料1(図1)によると5つのポイントがある。

1.75歳の誕生日から、今までの保険に関係なく全員が後期高齢者医療保険に加入する。
2.今まで保険料負担がなかった扶養家族の人も、2008年4月から保険料を負担する。
3.厚労省は「高齢者にふさわしい医療」というが、75歳以上を「差別した医療内容」となる。
4.「医療と介護の一体的なサービス提供」というが、「医療が介護に吸収」される。
5.国民健康保険は市町村が保険者だったが、この制度では都道府県単位の広域連合が保険者となる。

 他に、現在老人保険に加入している65歳以上で障害を持っている人も、自動的に後期高齢者医療制度に加入することになっている。

なぜ75歳なのか?
 答えは「医療費の適正化」にある。適正化の対象項目として「高額医療費」と「終末期の入院医療費」が上げられ、2002年に9,000億円かかった終末期医療費を何とかコントロールしようとしている資料2。厚生労働省は在宅死の割合を現在の2割から2025年までに4割に引き上げることで、年間5,000億円の終末期医療費を削減することが出来ると予想している。

 2007年厚生労働白書で「将来の年齢階級別死亡者数」を推計している。それによると74歳以下は徐々に減少するが、75歳以上の死亡者数が急増し、2030年には現在の約2倍になると予想している資料3(図2、クリックで拡大します)。

 また、入院を必要とする病気と患者数についても、74歳以下は現在とあまり変わりないが、75歳以上の入院患者数は激増し、中でも脳血管障害は2030年には現在の2.5倍になると予想している(図3、クリックで拡大します)。

 このように、後期高齢者医療制度は高齢者の入院医療費、特に脳血管障害の終末期医療費をコントロールするために70歳からではなく75歳で切り分ける必要があった。

本当のねらい
 制度のしくみとして、総医療費の10%を高齢者が負担することになっていて、もし医療費が増大した場合は自動的に保険料が値上げされることになっている。いいかえると、保険料の10倍までしか医療費として使えない仕掛けだ。さらに入院医療を必要とする人が年々増え、終末期医療費も増加すれば保険料を引き上げざるをえない。

 これは、現行の介護保険と同じで、医療費を自動的に制御するシステムを目指しているといえる。しかし、高齢者と65歳以上の障害を持った人は、どちらも医療を必要とする機会が多い。ハイリスクグループだけで保険料を負担して、保険制度が継続できるとは到底思えない。

 だとすれば、ハイリスクグループの受診を抑制するための制度、高齢者、障害者いじめの制度ともいえる。

(つづく)

資料1:厚生労働省のリーフレット(PDF文書)
資料2:第17回社会保障審議会議事録および資料
資料3:2007年厚生労働白書:第4章(PDF文書)

※以下の図はクリックで拡大します。
図2.年齢階級別に見た死亡数の推移(厚生白書より)
図3.入院患者数の将来推計(厚生労働省)
(大竹進)
◇ ◇ ◇
おもな関連サイト
『後期高齢者医療』来年4月から導入 75歳以上はみな保険料負担(中日新聞)
後期高齢者医療制度のねらい(政策解説・全国保険医団体連合会)
後期高齢者医療制度の概要(PDF・社会保障審議会資料:厚生労働省)

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