茂るにまかせた枝が絡み合う。大きくえぐれた幹もある。毎年春に魅了してくれる美しいピンクの装いの裏で、これほど傷ついていたとは。
岡山市・後楽園東側の旭川左岸に連なる桜並木の治療が、昨日から始まった。一九五七年に地元住民の行政への働きかけで植えられた新鶴見橋―相生橋間のソメイヨシノ百四十二本を三年間で手当てする。今回は十八日まで、上流部の五十本を対象に剪定(せんてい)や施肥を行い、空洞や傷口の治療に取り組む。
桜並木は管理者が明確でなく、本格的な保全措置が講じられなかった。ソメイヨシノの寿命とされる約六十年が迫る中で、危機感を抱いた元後楽園事務所長の樹木医山本利幸さんの訴えに地元財界や住民らが呼応した。昨年十月に「旭川さくらみちの桜を守る会」を結成し、造園業者らの協力も得て実現した。
ソメイヨシノは江戸末期に品種改良で生まれた。「人間がつくったものは最後まで人間がかかわらないと育たない」。桜守として知られる十六代佐野藤右衛門さんの言だ。
現場には就実高校放送文化部の女子生徒たちの姿もあった。「学校が近いし、桜並木を守る大切さを伝えていきたい」と熱心に取材していた。就実高では「生徒たちが桜とかかわる活動を探りたい」という。
治療と人々の愛情をいっぱいに受けた桜並木が元気を取り戻してくれるか。春が待ち遠しい。