昔から棍は「棍為芸中魁首」と呼ばれ、武芸(ぶじゅつ)のさきがけつまり武術に先行して「棍術」が
有ったとされています。実は格闘(戦争)の歴史を調べていくと分かることですが、原始の戦ではすで
に人々は石や棍棒を持ち、打ちあっていました、素手の戦い方の体系以前に、武器の戦いの体系があっ
たと思われます。その武器の中で、単なる一本の棒である「棍」はとても基本的な武器と言うわけです、武術で有名なあ
の少林寺も、最初から「少林拳」があったのではなく「始まりは少林棍にあり」とされるほどです。
一般の棍は柳の一種である「白蝋」と呼ばれる木材が使われていますが「猿棍」などでは套路中に「棍」
によじ登るというユーモラスな動作もあるため「猿棍」は金属製の物を使います、また「大刀」などの
「長器械」の柄には、軽くて強い「籐・ラタン」がよく使われるようです。一般の「棍」は先が細く、根元に向かって太くなっていきますが、同じ太さの「棍」の両端の先だけ削
り尖らせた「双頭棍」もあります。
「槍」と言えば、競技用の器械対練でよくおこなわれる組み合わせに「朴刀対槍」があります、一見、
大きな刃を持つ「朴刀」を持った人の方が強そうで「槍」を持つ者をいたぶるように思ってしまうので
すが、「槍」のもなかなか強くて負けていません。「槍」はその他にも対打でよく使われ「百兵の王」と呼ばれます。私が思うに、状況にもよりますが
「長器械・短器械」を含めた「器械」の中で、「槍」が最強と言ってもいいのではないでしょうか。
「槍」は単純な器械です「棍」の先に小さな「剣」をつけただけの物です。「槍先」の根本には赤い
「槍嬰」が付いています「槍嬰」とは馬の毛で出来た房で返り血を受けるためとの説明があります。「槍」のかたち自体は単純ですが、使い方は複雑で高度です「槍」には「(手闌)・拿」など、纏糸
勁を用いた用法が沢山あります。
私の好きな「三国志」の「子龍趙雲」は「槍」の名手として有名ですね。
「大刀」は長器械の代表的な器械で、刀把の先に大きな刃が付いています、「大刀」には多くの別名
があり「青龍偃月刀」「青龍刀」「春秋刀」「関刀」とも呼ばれ「三国志の関羽」が持っていたこと
で有名です、もっとも関羽が活躍した時代には「大刀」はまだなかったという説もあります。「大刀」タイプの器械は数多くあり「朴刀」「双手刀」「鷹頭刀」「象鼻刀」などがあります、その
中でやはり「大刀」が一番重量があり、自在に扱うにはかなりの「功夫(実力)」が必要でしょう。
「大刀」を扱うには「大刀看定手」と言う言葉があります、定手とは「護手盤」の下側を持つ手の事
で、その部分をうまく使うことが「大刀」を扱うポイントであるということでしょう。刀刃は長さ約56センチで大きく湾曲し、最大幅が約25センチと大きな刃です、また刀背の部分に鈎
鎌(鎌状の角)があり刀穂が付く事もあります。全長約は1.9メートルで、刃と逆の方には把尖(槍先
のようなもの)か「環刀」の刀首と同じ鉄の環がつきます。
中国の昔話には有名な「蛇足の話」や「矛盾の話」などがあります、その「矛盾」の話です。
昔々、楚の国に「矛・ほこ」と「盾・たて」を売る商人がいました。商人はこの「矛」は強力でどん
な「盾」をも打ち破ることができる、そして私の「盾」はとても丈夫なのでどんな「矛」で突かれて
も防ぐことができると自慢していました。
ところが、それを聞いていた見物人が「その矛でお前の盾を突いたらどうなるのだ」と突っ込まれて
なにも答えられず、こそこそと逃げ帰ったというお話です。[韓非子難一]「盾」については「防守器械」なので後にゆずるとして、ここで登場する「矛」とはどんなものだっ
たのでしょうか。「矛」は別名「刺兵」とも呼ばれ「槍」よりもさらに長い刃が先端に付いています。
そして「蛇矛」ですが、「三国志」の英雄「燕人張飛」の獲物「丈八蛇矛」が有名です。
その長さは丈八尺と言うことですから、現代の長さにすれば約4メートルで、これを馬上で振り回した
というのですが、現実的ではありません。さて、その形ですが「短器械の剣」で紹介した「蛇剣」によく似た少し小振りの「矛先・ほこさき」が
「棍・棒」の先に付いていると思って下さい。「矛」の仲間には「棍」の両端に同じ「蛇矛の先」が付
いた「双頭蛇矛」があります。蛇足ですが日本で「ほこ」と言えば「鋒・戟・槍・桙」とも書き、鎌倉時代以降に「薙刀・なぎなた」
に変化していきました。
「西遊記」の沙悟浄が持っていた器械と言えば分かりやすいでしょう。
月牙铲)は、「禅杖」とも「錫杖」とも呼ばれ、もともと仏教の僧が使う仏具(河南省少林寺系)
で全長180センチほどの長器械です、そう言えば、沙悟浄も袈裟を着て僧の格好をしていますね。片端に三日月形の刃が着き、もう一方には平らなスコップの先が付いていると思ってください。その刃
の所々に金属の輪が付いていて振ると、ガシャンという音が鳴ります。昔々戦火の激しい中国では、遺
体があちこちに転がっていたそうです、それを見た少林寺の僧が凍てついた地面を月牙産で堀って墓穴
を作ったと言う話です。土を掘るわけですから、もともとは農器具だという説もあります「鍬・鋤」?日本の大会では、京都のYさんが全日本大会などでみごとな表演をされています。
「戟」の種類には「単戟・青龍戟」「双戟・方天戟」「蛇戟」などがあります。
「方天戟」は先に紹介した「矛」の両側に「月牙」が付いた「長器械」で三国志の「国士無双・呂布」
の獲物で有名です。
技術的には、先端の「矛・刺兵」の部分で突き刺す、サイドの「月牙」で切り裂く振り払う、というよ
うに「大刀」系と同じような攻撃法ですが、「月牙」は両サイドに付いているため多角的な攻撃力がで
きます、また「大刀」に比べ、重量はかなり軽いため自在な取り扱いが可能となります。私が思うに、中国武術の器械発達の典型の一つがこの「方天戟」ではないかと思います。それは「矛」
という器械がまず初めにあり、その刃の部分に「月牙護手」を付ければ戦闘力が上がるのではないか、
と考えた人がいて「月牙」を一つ付けて「単戟」が出来ました、そして、それを使ってみると、とても
使いやすく強力だったのです。つぎの人が「月牙」を二つ付けて「双戟」が生まれました、また次ぎの
人が真ん中の「矛」の部分に曲がった「蛇矛」を取り付け「方天戟」が完成しました。・・・中国武術の器械にはこのように順に器械を並べていくと、その器械の変化発達してきた歴史が一目でわ
かるように思えます。
「九環刀」は「刀把=棍棒」が付いた「長兵器の九環刀」と普通の「柄」がついた「短器械の九環刀」が
あります。「柳葉刀」や「朴刀」の刀背の部分に穴が九つ並んであき、金属のリングが九つ付いています
「九環刀」は振るとそのリングが「ガチャガチャ」と音を立てる騒がしい刀ですが、例えば騎馬戦の場合
相手の馬の耳元で、突然「九環刀」で「ガシャン」と大きな音を立てて相手の馬を驚かし、その隙に敵を
攻撃するというものです。
でも、その時に自分の馬が驚いては何にもならないわけですから、戦いの訓練の時に自分の愛馬の耳元で
「九環刀」をガチャガチャと鳴らして訓練をしている、武将の姿があったのでしょうね。
刀の基本的な形は片刃ですが、この「三尖両刃刀」は刀の一種ですが両刃になっています、また名前の
通り形も「山」の字に似ていて先端が三つに分かれています。「三尖両刃刀」の技法は「槍術」「大刀術」と共通した部分が沢山あります。
「三尖両刃刀」は西遊記の中ので「二郎真君」が持っていた器械でもあるので「二郎刀」とも呼ばれて
います。また「水滸伝」の「九紋竜の史進」の獲物でもあります。
ほとんど「大刀」と同じ物です、本によれば「大刀」の項目にこの「象鼻刀」のイラストを載せている
場合もあります。象の鼻と言っても、長い鼻の形をしているわけではなく、象が鼻を丸めた形をしています。それにして
も誰がどんな目的でこんなものを作るのでしょうか。
この器械も「大刀」と同じようなものですが、刀を立てたときに、刃が鷹の頭部の形になっています。
刃の部分に嘴や目それに翼などが彫ってあります。「鷹頭刀」もそうですが「象鼻刀」などは、鷹好きそして象好きの権力者がおもしろがって作らせた
のですが使ってみると案外いいぞとなって、現在に受け継がれているのではないでしょうか。
「三叉」は一目で農器具から発展してきた器械と分かります。
先端がフォーク状に三つに分かれて、農器具のわ藁をすくいとる道具の「三つ又」そのままの器械と
言えます。
「叉」の仲間には、三本の刃の外側の部分が少し広がった「河叉」、同じところが内側に向いている
「牛頭叉」、髭のように波打って広がっている「龍髭叉」などがあります。
「大斧・だいふ」 斧は昔からいろいろな用途で使われてきた器械です。
もともと、斧は森林を切り開いたり、兵舎を作ったりする、工作用の道具から兵器に応用されて来た
ものです。斧が使われだした初期の頃は、城壁を壊したり堀を掘ったりする戦闘補助器械として使わ
れてきたのですが、しだいに儀仗用に装飾された「金斧」(池から女神が持って浮かんでくる物では
なく・黄鉞とも呼ぶ)などが出現してきます。さらに時代が進み、「刀」や「矛」「弓」では、刃が立たない重装備の甲冑の出現で破壊力の大きな
「大斧」の再登場となり、金属製の装甲の上から、叩きつぶすように振り下ろしダメージを与えると
いう攻撃が可能になりました、そして小型の銃火器の登場まで戦闘の主役の一つとして活躍します。一般に「大斧」は2m前後の柄を使っていますが、5mの柄を持つ物もあるとされています。
「鉞・えつ」には単に「斧」の大きな物を指す場合と装飾を施した儀仗用の「斧」の事を指す場合が
あります。
狼牙棒は打撃器械で「錘」の一種と言っていいでしょう、木製か金
属製の土台に狼の牙のような鋭い金属製の棘を植え付け、それに木製の柄を取り付けた物です。この器械も刀や剣では刃の立たない鎧を着た兵士に対し鎧の上から打ち付けダメージを与える物です。
錘などの重さだけで打ち付けたときと違い、たくさんの「狼牙」が有るためより大きなダメージを与
えることが出来ます。水滸伝の中では霹靂火(へきれきか)の秦明(しんめい)が狼牙棒の使い手としています。
また、西洋の武器ではモーニングスターが狼牙棒と同じ種類の物と言えます。
この武器は片方に月牙産の铲、もう一方は龍髭叉に似た鎲が付いています。
大きく幅があり重量も有るこの武器は大刀と同様、体格の良い力のある物が使っていたと思われます。
排耙木は雑器械の内の一つで、農具から武器に転じたものです。
古代の雑兵器の一つです。鉄製。翼似たものに鳳翅鎲があります。
中心に長い矛状の物があり、その横にギザギザの歯の付いた翼状の刃が付いています。
全長は約2メートル、用法には刺、挂、扎、鋸、架、蓋、挑などがあります。
長器械の一つ。別名「南方大扒」とも呼ばれ、北方では「鋼叉」と呼ばれています、明代では「钗钯」
といろいろな名前で呼ばれていました。
【少林武当考】この中では「扒」粤人(広東と広西)は「大钯」或いは「三指钯」大钯は、钯尖、上
把段、中段、下段、把尖。大钯の技法には圧、撩、拍、吐く、鎖、舞花などがあります、钯尖を多く
使い刺、撩、拍などを多く使います。
钯の一種、钯頭には九個の小さい歯が有ります
元々は農機具や路を造ったりする工具でだった物です、この武器は西遊記の登場人物(妖怪?)で
ある猪八戒の持つ武器です、猪八戒の武器は九の歯ですが七個や十一個のはの付いた钯も有ります。
用法には擂撃、撞撃、筑撃、反撃、格、架、挑、撥等です。
中国の物語で一番有名かも知れない「西遊記」玄奘三蔵が猿の孫悟空、河童の沙悟浄、豚の猪八戒を
引き連れて、天竺までありがたい教典をもらいに行く、その途中で妖怪などの悪者を退治して行くと
いう、勧善懲悪の物語です、京劇などでも定番になっている話で、日本でも少し前にテレビドラマで
やっていましたね。
中国が舞台だけにその主人公が持つ武器も中国武術の武器です。三蔵法師の持つ物は「錫杖」または
「禅丈」と呼ばれる物で、托鉢に出る僧が持っている杖です、ただ武器になると形がデフォルメされ
まるでキッチン用品の泡立て器のような形です。孫悟空(孫之行者)はもちろん「棍」、悟空の持つ
物は自在に伸び縮みする物です。猪八戒は「九歯钯」、沙悟浄は「月牙铲」です、
「月牙铲」は別名「禅丈」とも呼ばれますが、三蔵のもつ「禅丈」とは区別されます。