三月末で期限切れとなる揮発油税などの暫定税率維持を盛り込んだ税制改正法案をめぐる与野党の対立で、衆参両院議長が三十日、「年度内に一定の結論を得る」とのあっせん案を提示し、与野党は受け入れで合意した。
与党が懸念していたのは、法案の衆院通過が遅れて参院に送ると野党が多数を握る参院が審議を引き延ばして採決しなかったら、参院送付後六十日経過による憲法の「みなし否決」規定を適用しても、成立は四月以降になりかねないからだ。暫定税率が期限切れで失効する。議長あっせんで年度内に結論が得られるとなれば、法案が否決されても、与党が三分の二を占める衆院で再議決すれば法案は三月末までに可決できる。
議長あっせん前に与党は衆院財務金融、総務両委員会で、暫定税率を五月末まで二カ月延長する「つなぎ法案」を賛成多数で可決し、三十日中に参院へ送付する予定だった。衆院再議決で成立させ、暫定税率が期限切れで失効するのを防ぐ狙いがあった。
つなぎ法案の例は、戦後四回あるが、いずれも衆院解散により法案の審議時間が確保できなかったことを理由に政府が提出していた。今回は与野党対立で追いつめられた与党が初の議員立法で提出した。議員立法であれば、福田内閣は関係ないとの体裁をつくることができ、野党が問責決議案で首相の責任を問うのは難しくなるとの考えもあったとされる。福田康夫首相も、法案の中身については知らないとの態度を貫き、野党は反発を強めていた。
議長あっせん案の受け入れで、与党はつなぎ法案を取り下げる。与野党対立が続いていた国会が正常化するのは評価できよう。
暫定税率をめぐっては、民主党は今国会を「ガソリン値下げ国会」と位置付け、暫定税率の廃止でガソリンの場合、一リットル当たり約二十五円下がると強調する。与党は、暫定税率を廃止すれば巨額の税収に穴があき、国民生活に大きな影響が出ると訴える。自治体などからも暫定税率の維持を求める声は強い。
国会は言論の府であり、与野党の説得力ある主張が重要だ。合意づくりも問われる。ところが、民主党の小沢一郎代表は政府、与党側との協議に応じないとの考えを繰り返した。対決ありきの姿勢では、与党も強硬になろう。
議長あっせん案には、法案は公聴会などを含む徹底審議を行い、税法に関し各党間で合意が得られれば修正することなどが盛り込まれている。与党は野党の主張に柔軟に対応しなければならない。
日本マクドナルドの店長が「権限のない店長を管理職扱いし残業代を払わないのは不当」とした訴訟で、東京地裁は請求を認め、同社に過去二年分の残業代など約七百五十五万円の支払いを命じた。
管理職の幅を広げて実質的に残業代ゼロを進める「名ばかり管理職」が増えている。判決は安易な経営側の姿勢に警告を発したといえよう。
争点は店長が「管理監督者」かどうかだった。もしそうなら労働基準法は「監督や管理の地位にある者は労働時間や休憩、休日に関する法の規定を適用しない」としており残業や休日勤務の割増賃金の対象外になる。しかし、それは役職名ではなく、経営や労務管理について経営者と一体的かどうかなど職務や待遇に基づいて判断されることだ。
地裁は判決理由で、店長の権限について「アルバイト採用など店舗運営で重要な職務を負うが、営業時間や料金は決められず、社員の採用権限もない」と分析した上で「会社が提供する営業戦略やマニュアルに従う店舗責任者にとどまる」とし管理監督者に当たらないと明確に判断した。判決はまた「一部の店長は部下の年収を下回り、待遇も不十分」と店長が置かれた驚くべき現状を指摘した。
この店長は忙しい時期は午前六時に出勤、午後十一時の閉店まで働き、残業は過労死の危険ラインを超え月百時間をオーバー、二カ月間休みがなかったという。
人件費削減の大号令、成果主義の導入で外食だけでなく流通、小売業などにも権限、裁量の伴わない名ばかり管理職が広がっている。この流れを断ち、人間らしい働き方を取り戻すにはどうすればよいのか。今春闘で労使が協議すべき重要テーマの一つだ。
(2008年1月31日掲載)