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国内情勢]―「安定化」要因と「不安定化」要因がせめぎ合う北朝鮮―
北朝鮮では,「経済改革」導入(2002年7月)以降,各種の体制不安定化要因が顕在化する中,破綻状態に陥っていた食糧配給制の修復に着手したり,第4回6者協議での共同声明採択を外交的成果と強調するなどして金正日総書記の権威回復に努めるとともに,中国・韓国との経済交流活発化や援助増大による経済再建への期待などにより,体制の不安定化阻止に努めた。北朝鮮は引き続き,中国・韓国からの経済支援・投資拡大,食糧配給制の修復などの社会統制手段の回復・強化により,体制の強化を図るとみられるが,反面,中国・韓国との経済交流は更なる外部情報の流入,拝金主義や貧富の格差の拡大(「勝ち組」と「負け組」の一層の顕著化)を招く可能性があり,また,食糧配給も,その基盤は必ずしも盤石とはいえず,配給量の不均衡や再停止などの事態が生じれば,住民の不満を増幅させるおそれもある。北朝鮮では,今後,当分の間,こうした体制の「安定化」要因と「不安定化」要因のせめぎ合いが続くとみられ,その推移が注目される。 |
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6者協議]―共同声明後むしろ複雑化の様相―
北朝鮮は,こうした厳しい国内情勢を乗り切り,体制の強化を目指すためにも,6者協議や対日,対中,対韓関係など外部環境の好転に力を入れた。
このうち,核問題については,2月に「核兵器保有」を初めて公式に宣言し,核兵器の増強を示唆するなど瀬戸際戦術を展開しつつ,第4回6者協議の共同声明で核放棄を「約束」したが,軽水炉供与を核放棄履行の前提とする主張を繰り返したり,米国の「対北朝鮮金融制裁」解除に固執した。北朝鮮は,今後も共同声明をカードとして,交渉を複雑化・長期化させることで,核放棄の履行を引き延ばしつつ,中国などから最大限の援助を獲得して自国の富強化を図っていくものとみられ,さらには,インドやパキスタンのような形で核保有国としての生き残りを図ろうとすることも懸念される。また,中国は,6者協議議長国として,このような北朝鮮に核放棄を促す姿勢を取りつつも,国益上の配慮から早急な核放棄要求は行わず,むしろ同国との関係強化や6者協議枠組みの維持等に努めるとみられる。 |
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対日関係]―拉致には「過去清算」で対抗する北朝鮮―
我が国に対しては,「拉致問題は解決済み」との立場を堅持し,拉致問題に対抗して「過去清算」要求キャンペーンを展開した。11月には,約1年振りに日朝政府間協議を再開したが,従前の対日姿勢を大きく転換させるには至らなかった。北朝鮮は,小泉総理の任期中に後戻りできない国交正常化への道筋を付けるべく,朝鮮総聯などを介して,政界,経済界,マスコミ関係者らへの働き掛けを強める一方で,「過去清算」キャンペーンを活発に展開しつつ,拉致問題打開のため,何らかの対応策を提示してくる可能性も否定できない。 |
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中朝関係]―胡錦濤国家主席訪朝後本格的な緊密化へ―
中朝関係については,要人の往来が活発に行われ,6者協議への対応や経済関係強化について協議が行われた。とりわけ,胡錦濤国家主席の訪朝では,新情勢下での両国関係の発展に向けた諸般の協議・合意がなされ,中国が北朝鮮との関係発展を「戦略的方針」として位置付けたことを内外に強く印象付けた。また,北朝鮮が中国との関係強化に努める背景には,資源輸出による外貨獲得や核問題での対米交渉力を高める狙いがあり,引き続き,中国経済への接近を強めるとみられるが,反面,過度の中国依存を回避するべく,韓国やロシアからの投資引き入れや,対日関係改善を視野に入れた働き掛けを強めることも予想される。 |
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南北関係]―南北関係発展の雰囲気づくりに努める北朝鮮―
南北関係については,更なる韓国の取り込みを図るため,「我が民族同士」のスローガンの下,官・民の交流を積極的に展開した。北朝鮮は,今後,盧武鉉大統領在任中に,南北関係をできる限り緊密化することを目指して,同政権の「過去清算」の動きなども利用しつつ,韓国国民を「親北,反米・反日」の方向に誘導することに努めるとみられる。 |
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朝鮮総聯]―組織力の回復・強化に努める朝鮮総聯―
朝鮮総聯は,近年,組織の勢力や活動力が減退傾向にある中,結成50周年記念日(5月25日)を契機に,在日朝鮮人の組織への結集に取り組んだ。一方,若手活動家を対象とした思想教育に力を入れ,「先軍政治」に関する集中学習を実施し,また,北朝鮮も,前年比3倍となる多数の若手活動家を召集した上,朝鮮人民軍部隊の視察など多様な思想教育を施した。朝鮮総聯は,引き続き,忠誠心の高い若手活動家の幹部登用を進めつつ,組織勢力の拡大と思想教育に一段と力を入れるとみられる。 |