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フィルタレスD級アンプ・キットの製作

秋月電子より「出力にフィルタ付けなくても直接スピーカを駆動できる」という、D級オーディオ・アンプのキットが発売されたので作ってみました。

 1W x2 ステレオ・デジタル・オーディオ・アンプ・キット
   

このキットの中身は、テキサス・インスツルメンツ社製「TPA2001D1モノラル1WフィルタレスD級アンプ」のICを使ったものです。このICを2個利用してステレオ・アンプのキットとしたものです。

今回の製作はD級アンプでも新しい技術「フィルタレス」です。これについてレポートします。

1.製作
キットの付属する基板には、表面実装のIC(16ピンTSSOP)が実装済みになっています。はんだ付けする部品は、写真のように、電解コンデンサなどです。

 

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この基板は少しはんだがのりにくい印象があります。はんだ付けが終わったあと、念のために確実にはんだ付けされているかを確認してください。また、説明には「間違って部品をはんだ付けした場合は部品の取り外しが大変」というようなことも書かれています。はんだ付けする前には、十分に部品や取りつけ位置を確認してから行いましょう。
製作はコンデンサの極性を注意する程度なので、短時間に完了します。

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アンプとして使うために、完成基板に次の部品を追加します。

 ・基板をケースを入れることを考え、付属した電源のコネクタは使わず、別のものを使用しています。
 ・電源のON/OFF対策のためシャット・ダウン端子にはスイッチをつけています。
 ・スピーカは安い3W-8Ωのものを接続しています。
 ・電源アダプタは秋月電子で販売している5Vスイッチング電源を使いました。

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メーカのトライステート社ホームページには、キット製作の説明があります。

  1Wx2ステレオ・デジタル・オーディオ・アンプ・キット
   

2.フィルタレスD級アンプとは
出力フィルタ付きのD級アンプに関しては、下記の書籍などを参照ください。この本には、アナログ・アンプのA級、B級、AB級などの説明もあります。

 書籍名 D級/ディジタル・アンプの設計と製作

この書籍によれば、D級アンプのメリットは「小型・軽量・高能率」と書かれています。その反面、デメリットには「電源変動のノイズの影響を受けやすい」、「高周波ノイズが大きい」などが書かれています。
このD級アンプの「出力ローパス・フィルタが不要」の理由は、「このD級アンプに出力フィルタが内蔵しているために、外部にフィルタが不要」ではありません。つまり、出力フィルタはこのICにも内蔵していません。

このICのデータ・シートはここにあります(英文)。

 TPA2001D1モノラル1WフィルタレスD級アンプのIC
 

D級アンプ(フィルタレス)の技術資料はほかにもあると思い探したところ、マキシム社のホームページに見つかりました。下記に日本語ドキュメントがあります。

 D級アンプ:基本動作と開発動向
 
3.波形を調べてみよう
このD級アンプはどのようなものかを知るために、低周波発振器を接続して波形を観測してみます。観測ポイントは片方のチャネルのスピーカ両端子間とこの端子とGND間です。オシロスコープを使ってこれらの波形をみてみます。ゲインのジャンパは最低レベルにしてあります。

このフィルタレスD級アンプは、入力をゼロ(無信号)とすると出力波形が”0”となるのが特徴と書いてあります。従来のフィルタ付きのD級アンプでは、無信号のときはDuty=50%のパルス波形を出力します。 

では始めましょう。まずは無信号時の出力両端はゼロ・レベルの波形を確認します。確かにゼロ・レベルですが、詳しく見ると細いパルスが出ていました。

約1kHzの信号を入力して、出力のスピーカ両端「OUT+」端子と「OUT-」間の波形を見てみます。オーディオ音の1周期を見るとこんな感じでプラスのパルス波形とマイナスのパルス波形が出ています。これはディジタル・オシロスコープPicoScope2105での観測波形です。

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そのスピーカ両端の波形について、時間軸を拡大したものを下記に示します。

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ゼロ・クロスする部分の波形は、このようにパルスの向きが変わります。

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スピーカ端子片方とGND間の波形は、このように入力信号有無に関わらず+5Vのパルスが連続で出ています。

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次は、このまま約1kHzの信号の入力レベルを変化させるとどうなるか?、出力二つの波形を観測できる2現象アナログ・オシロスコープで見てみます。

まずは、入力信号ゼロのときの二つの出力端子(OUTP,OUTN)とGND間の波形です。二つの端子は、周波数250kHzの5Vパルスが逆位相で出ています。この二つの差動出力により、無信号のとき出力が0になるようです。

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入力レベルと上げると、上の波形OUTP波形は立ち下がりが変化します。下の波形OUTN波形は立ち上がりが変化していました。これらのパルス幅(Duty比)が出力オーディオの波形の大きさ(振幅)を決めているようです。

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入力信号があるとき、この二つの信号の差となる出力パルスは250kHzの2倍の周期でパルスが出ています。

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スピーカ両端をPicoScopeを使ってスペクトラムを見ると、高調波は250kHzの倍数ではなく500kHzの倍数で出ていました。

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本来、入力信号と出力信号を比較観測すべきですが、オシロスコープのGNDを共通にできないため困りました。接続すると保護回路が働いて音が出なくなります。

以上、筆者が購入したアンプのキットはこんな結果でした。高級な測定器を使わなくても、フィルタレスD級アンプの動作は理解できました。

フィルタレスD級アンプは「出力フィルタが必要なほど、大きな電磁放射妨害(EMI)は出ません」という結論のようです。
さらにフィルタレスD級アンプにはパルスの周期(周波数)を変化させることにより、高調波成分を分散させてEMI対策する仕様もあるようです。


気になるヘッドホンの接続も含め、実際にオーディオ・アンプとして使ったレポートはほかの人にお願いすることにします。

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ヘッドホン接続については説明書第1版に対し、コンデンサを入れるよう図が変更になっています。
 

後田敏

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