制度化された不正腐敗…あきれた'2つの顔'

[ランコフコラム] 不正腐敗が'自由化'を呼ぶ?
[2008-01-09 19:01 ]  
▲ 昨年5月、大韓赤十字社のマークがついている肥料を船から荷役するために、労働者たちが船に上っている. c。デイリーNK
しばらく前に筆者は、1980年代からビジネスのために北朝鮮を訪問してきた外国人と会い、面白い話を聞いた。

その事業家は北朝鮮から輸入しようとした商品に問題が生じて北朝鮮の職員を訪ねたが、職員が"関税担当の幹部にお金を少し与えれば、すべての問題が簡単に解決できる"と言ったという。

その外国人事業家は驚いた。北朝鮮の公務員がわいろを要求するのは常識的なことだが、元々外国人にはわいろを直接要求しなかったという。

既に広く知られていることだが、金日成の死後、北朝鮮社会の不正腐敗は非常に深刻だった。不正腐敗の水準をはっきりと測る方法はないが、北朝鮮の不正腐敗は中東やアフリカ国家をしのいだと言っても過言ではない。

もちろん、金日成時代にも不正腐敗があった。だが、当時の不正腐敗は直接お金を取り交わす方法よりも、まず人脈を活用した。力が強い人々は大学の入学や外国への出張、特別な商品の購買などで人脈を通じて'物々交換'のようにお金を渡して解決した。だが、最近のように直接お金をわいろとして与えて解決することは広く通用していなかった。

常識的に見れば、不正腐敗は無条件に悪い社会現象だ。だが、北朝鮮の場合、不正腐敗に'2つの顔'がある。逆説的だが、北朝鮮では不正腐敗が庶民をかえって'救済'する社会現象として見られるということだ。

1990年代の初頭から、劣悪な食料事情にもかかわらず北朝鮮政府は食糧問題を解決した中国やベトナムの経験に従って、これに習わないことを決めた。むしろ、北朝鮮の当局者は住民に対する統制を強化することに努めた。北朝鮮の法律によれば、庶民は個人の商売をしてはならず、居住地域から旅行証なしに出ることもできずに、個人の農業もほとんどできない。

もし、こうした政策が法律どおりに実施され続けたら、もっと多くの住民が飢え死にしたはずだ。しかし、不正腐敗が深まり、庶民に脱出口を開いてくれた。食糧難の時の幹部も生活がとても困難だったため、不正腐敗行為を自らの生存手段にした。金日成の時代に、国家の統制と監視が前にも後にもなく深刻だった北朝鮮社会は、一瞬にしてお金さえあればできないことがない社会になってしまった。

法律どおりにすれば飢え死にする可能性があった北朝鮮の住民は、不正腐敗のために生き残った。幹部にわいろさえ与えれば'殺人的な' 法律を違反して商売をして暮らすことができた。庶民は故郷で死を待つよりも、食糧がある地域や中国に行くこともできたし、国営経済から出ない所得の代りに、多様な個人事業を通じて生計を立て始めた。このような活動は幹部がわいろをもらわなければ不可能だった。

'脱金時代'にも不正腐敗が頭を悩ます

不正腐敗には、北朝鮮社会の'自発的な自由化'の側面もある。

最近、北朝鮮の人たちがこっそりと韓国のドラマを見て、外国の放送を聞いて中国に行って来るため、外国の生活について昔よりもよく分かるようになり、自らの体制をもう少し批判的に考えるようになった。こうした行為は不正腐敗のために可能になったのだ。

最近、人民班長(人民班: 30世帯程度を1つの人民班に組織し、政府が監視・統制する制度)に外国のタバコ一箱を与えれば、家に短波ラジオがあるという事実を知らない振りをしてくれて、国境の警備員に中国の貨幣を与えれば、南朝鮮のテープを密輸入することもできる。最近では、大金を与えれば政治犯収容所にいる政治犯も釈放することができるという。

だが、不正腐敗にもう1つの'顔'があるという事実を忘れてはいけない。短期的に見れば、不正腐敗は北朝鮮の住民の生存条件の1つだが、長期的に見れば不正腐敗が北朝鮮の開発の道を妨げる障害物になる。

この15年間で、北朝鮮の幹部はわいろをもらうことにあまりに慣れた。北朝鮮の人々の常識では、わいろを要求しない幹部や警察は、この世の中にありえないという。食糧難を経験した北朝鮮の住民にとって、不正腐敗は“普遍的行為”、“力が強い人は誰も自然にすること”となってしまった。

金正日体制が崩壊した場合、教育と行政の経験をほとんど独占した幹部階層が、'脱金時代'にも北朝鮮という地で重要な政治、社会的役割を果すしかないだろう。

良くも悪くも、エリートになることができる人才が幹部階層以外にほとんどいないからだ。朝鮮民主主義人民共和国が'大韓民国の北側'になる場合も、親中衛星政権が君臨する地域になる場合も、または北朝鮮がそのまま分断国家として残る場合も、脱金時代の統治エリートたちは、圧倒的に労働党、人民軍、保衛部の幹部出身で構成されるだろう。

だが、そのような人々は自分の昔の習慣を容易に捨てることができないだろう。'脱金北朝鮮'で、たとえ彼らの年俸が数億ウォンになっても、幹部出身には不正腐敗行為が習慣のように残るだろう。

金父子政権の崩壊がもたらす価値観の危機も、彼らの冷笑主義と利己主義を一層強化するだろう。彼らは投資を濫用して、外国の援助物品を盗み、自分にわいろを捧げた人々に特権を与え続けるだろう。こうした行為のため、以北地域の経済の成長と社会の安定は、大きな被害を被るに違いない。

私たちは不正腐敗が開発途上国家の経済の成長と近代化の展望を破壊させる要素の1つであることをよく知っている。残念だが北朝鮮でも、こうした問題が深刻になる可能性がある条件は作られるだろう。不正腐敗は短期的に見れば薬のように見えるが、長期的に見れば毒になるだろう。
[アンドレイ・ランコフ]

旧ソ連レニングラード生まれ(1963)/レニングラード国立大入学/金日成総合大学留学(朝鮮語文学科 1986年卒業)/レニングラード大博士(韓国史)/オーストラリア国立大学韓国史教授(1996)/著書 <北朝鮮現代政治史>(1995) <スターリンから金日成へ>(From Stalin to Kim Il Sung 2002) <北朝鮮の危機>(Crisis in North Korea 2004)
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