○須藤徹、中川伸明、矢野秀郎、岩永英之
国立病院機構肥前精神医療センター
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【緒 言】 |
統合失調症に対する精神科急性期治療の臨床現場は、この10年ほどの間に、非定型抗精神病薬の導入、
心理社会的介入技法の進歩や、クリティカルパスの導入などにより、大きく様変わりした印象がある。入院期間が短縮した印象が特に
強いが、実際にはどうなのか、またそれに付随する要因には何があるか、等に関して総括的に調査したことはなかった。今回我々は、
非定型抗精神病薬の導入前(1994〜96)、非定型抗精神病薬の導入後かつクリティカルパスの導入準備期(1999〜2002)、非定型抗精神
病薬の導入後かつクリティカルパスの運用期(2003〜2004)、のそれぞれについて、属性の類似した対象患者に関して、いくつかの臨床
指標を調査し、現状の明確化を試みた。
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【方 法】 |
各期間
A. 非定型抗精神病薬の導入前(1994〜96)、
B. 非定型抗精神病薬の導入後かつクリティカルパスの導入準備期(1999〜2002)、
C. 非定型抗精神病薬の導入後かつクリティカルパスの運用期(2003〜2004)、
のそれぞれについて、肥前精神医療センターに統合失調症の急性期症状で、保護室に強制的に入院となったあるいは個室等
に強制的に入院になり入院直後から拘束を行った、発症後入院2回目までの患者を対象として、入院カルテ記載をもとに
retrospective study を実施した。
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【結 果】 |
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A |
B |
C |
対象症例数(例) |
32 |
34 |
28 |
平均入院期間(日) |
192.4 |
93.6 |
65.0 |
入院時の主剤/非定型抗精神病薬の割合(%) |
0 |
75 |
75 |
退院時の主剤/非定型抗精神病薬の割合(%) |
0 |
74 |
75 |
力価換算値(HPD換算値)(mg) |
入 院 時 |
10.2 |
8.6 |
5.7 |
退 院 時 |
12.6 |
12.0 |
7.7 |
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併用抗精神病薬の種類も著明に減少していた。
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【考 察】 |
平均入院期間は、明らかに短縮してきている。非定型抗精神病薬も確実に臨床現場に根づいている。
パラダイムシフトは遂行され、技法的にもカバーできているのではないだろうか。このパラダイムシフトが患者の利益となっているか、
それが今後の課題であろう。
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【結 論】 |
この10年ほどの間に、入院期間の短縮、非定型抗精神病薬使用の増加、抗精神病薬投与量の減少及び
併用数の減少が進む傾向にあることをretrospectiveな調査にて確認した。
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参考文献 |
1) 須藤徹、長尾奈穂子、橋本喜次郎:統合失調症の急性期薬物療法の変化.臨床精神薬理,6:1557-1565,2003.
2) 須藤徹、長尾奈穂子、橋本喜次郎他:急性期治療の中での新規抗精神病薬の役割.精神神経学雑誌,107:54-58,2005.
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○大森寛、辻誠一、萬谷昭夫、山口博之
国立病院機構賀茂精神医療センター
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【緒 言】 |
非定型抗精神病薬は、統合失調症の慢性期例に使用されることが多く、急性増悪期患者の第一選択薬となることは
少なかったように思われる。そこで、当院における経時的な抗精神病薬の処方の変化および統合失調症の急性増悪期への処方状況の調査と、
実際にolanzapineを用いて治療した急性増悪期患者の臨床経験を基に、急性期薬物療法における非定型抗精神病薬の可能性を探った。
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【方 法】 |
当院での、非定型抗精神病薬導入前の平成7年度と導入後の平成15年度において保護室に強制的に入院させた、
あるいは個室等に強制的に入院させ入院直後から拘束を行った統合失調症圏患者を対象に入院カルテ記載をもとにretrospective study を
実施した。
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【結 果】 |
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平成7年 |
平成15年 |
対象症例数 |
4例 |
24例 |
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男性 |
3例 |
14例 |
女性 |
1例 |
10例 |
平均年齢 |
50.0±7.4歳 |
33.4±11.4歳 |
措置入院 |
− |
12例 |
医療保護入院 |
4例 |
12例 |
入院後の平均隔離日数 |
18.5日 |
8.9日 |
入院時及び入院後4週間以内に身体拘束を要した割合 |
0% |
17% |
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平均拘束日数 |
− |
4.0日 |
平均入院期間 |
110日 |
126日 |
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措置入院患者の平均入院期間 |
− |
197.9日 |
医療保護入院患者の平均入院期間 |
− |
53.5日 |
入院時の主剤 |
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HPD |
3例 |
10例 |
LP |
1例 |
− |
risperidone |
− |
7例 |
quetiapine |
− |
3例 |
非定型薬が主剤の患者(計) |
− |
10例(42%) |
CPZ換算量 |
637.5mg |
547.9mg |
入院4週後の主剤 |
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HPD |
3例 |
6例 |
LP |
1例 |
− |
risperidone |
− |
8例 |
quetiapine |
− |
3例 |
olanzapine |
− |
2例 |
perospirone |
− |
1例 |
非定型薬が主剤の患者(計) |
− |
14例(58%) |
CPZ換算量 |
637.5mg |
564.1mg |
併用薬剤数 |
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入院時 |
2.5剤 |
1.5剤 |
入院4週 |
2.3剤 |
1.5剤 |
抗パーキンソン薬の使用 |
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入院時 |
4例(100%) |
12例( 50%) |
入院4週 |
4例(100%) |
17例( 71%) |
入院時のHPD非経口投与 |
1例(25%) |
11例 〔措置7例(58%)、 医療保護4例(33%)〕 |
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【考 察】 |
対象症例数は平成7年4例、平成15年24例と増加しているが、年間入院件数が平成7年度232例、
平成15年度386例、措置入院数も平成7年1例、平成15年21例と病院がより急性期患者を受け入れるようになったことも一因と考えられた。
例数が少なく、統計上の有意差の検定は出来なかったが、次のような傾向が認められた。非定型薬の導入により入院時における主剤数も
抗パーキンソン薬使用頻度も減少し、処方の単純化が認められた。医療保護入院患者のみの比較では平均入院期間も短縮されていた。
しかし入院時のHPD非経口投与の使用頻度はむしろ高くなっていた。
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【結 論】 |
病院機能の変化により、急速鎮静化を要する患者が増加した。非定型薬の導入により、
重症統合失調症患者においても処方の単純化が認められるようになった。
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○天金秀樹、豊岡和彦、武内広盛、西沢芳子、澁谷太志、川本孝憲、伊澤寛志、森田善晴
独立行政法人国立病院機構さいがた病院
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【緒 言】 |
非定型抗精神病薬の登場以来、精神科領域における薬物療法は変化してきている。
特に統合失調症患者においては@非定型抗精神病薬の使用状況 A急性期治療においては同じく単剤療法における治療期間の
短縮化が行われつつある。そこで、急性期治療の一環として行動制限を治療上やむなく行う症例について、非定型抗精神病薬導入直後の
平成14年度とその2年後の平成16年度において薬剤治療の変遷の調査を行った。
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【方 法】 |
当院閉鎖病棟(14年度:5病棟、保護室4または平成16年度:1病棟、保護室10)での保護室に強制的に入院させた、
あるいは個室等に強制的に入院させ入院直後から拘束を行った統合失調症患者を対象とした。入院カルテ記載をもとにretrospective study を
実施した。
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【結 果】 |
対象症例数は、平成14年度9例[男8例、女1例、平均年齢27.8歳(S.D.=10.6)]、平成16年度13例[男8例、女5例、
平均年齢34.7歳(S.D.=13)]であり、そのうち入院時に身体拘束を要した割合はそれぞれ33%、15%であり、平均拘束日数は各々4.7 日と14.5 日
であった。平均入院期間は各々107日と90日であった。隔離と拘束の行動制限期間の平均は、各々23.3日と27.6日であった。
入院時の主剤は、平成14年度ではrisperidone 4例(44.4%)、olanzapine 2例(22.2%) haloperidol (HPD )1例(11.1%) 、bromperidol 2例
(22.2%)で、CPZ換算量は500mg/day、平成16年度ではrisperidone 8例(61.5%)、HPD 2例(15.4%) 、bromperidol 1例(7.7%)、 olanzapine1例
(7.7%)、perospiron 1例(7.7%)でCPZ換算量477mg/dayと、非定型薬の使用が増加している。入院後4週の主剤でも、平成14年度ではrisperidone
3例(37.5)、olanzapine 2例(22.2%) 、bromperidol 3例(33.3%) HPD 1例(11.1%)、でCPZ換算量は733mg/dayあったのが、平成16年度では
risperidone 7例(53.8%)、olanzapine 3例(23.1%) HPD 2例(15.4%) 、perospiron 1例(7.7%) でCPZ換算量は523mg/dayとなり、非定型薬3剤の
占める割合はそれぞれ5名(59.7%)と11例(84.6.%)と多くを占めるに至り相対的にHPDの使用が減少している。
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【考 察】 |
平成16年は平成14年に比較して、CPZ換算量は減少し非定型薬3剤の占める割合が増加し、
入院時及びその4週間後でもrisperidone、olanzapineの順に多く使用されて処方の単純化が認められた。この2年度の比較で入院期間が短縮し、
両年度で平均行動制限期間は4週以内であった。
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【結 論】 |
処方の単純化と非定型抗精神病薬の使用が増加した。入院期間と行動制限期間が短縮した。
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参考文献 |
1) 藤井康男:精神分裂病の薬物療法.92−94,155−157,2000.
2) 阪尾学:社会復帰を中心とした統合失調症が可能な時代.Pharma Medica,23(6);113- 118,2005.
3) Masand,Prkash S. :変化する統合失調症の治療.臨床精神薬理,6;1219-1239,2003.
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