連載コラム エコ 環境問題【環境戦略の新時代】Vol.7
相変わらず新聞紙上では地球温暖化問題が大変な盛り上がりを見せているが、実はその影でわが国の財政支出の見直しとともに環境関連の補助政策は次々と縮小の憂き目に遭っている。
例えば日本は150万kW以上の出力を誇る太陽光発電の先進国だが、これは主な設置先である家庭に対して、普及当初から通産省(現経済産業省)がNEDOを通じて行なった最大50%補助という大胆な施策に後ろ押しされたものであった。しかしながら近年の補助金見直しの一貫としてこの補助金は徐々に率を下げられ、2005年度で打ち切りとなっている。同じ傾向は利用側技術にもあり、代表的なCO2削減技術であるヒートポンプ給湯器(エコキュート)の設置に対する補助金も、2008年度から徐々に縮小の方向が打ち出されている。
財務当局の思いもわからないではなく、確かに全ての歳出を見直し、特に政治的必要性の大きな社会インフラ整備も圧縮している中で、個人にバラまくタイプである新エネ・省エネへの補助を続けることは理解を得られにくい。特に太陽光発電やエコキュートを導入する消費者の多くは富裕層であり、一定の市場性を持ってきている上に公的資金を注ぎ続けることになるからだ。さらに当然ながら多くの人々に恩恵がある話でもないので選挙上有利になるわけでもない。その点は、政治上の都合から電気料金を大幅に引き上げ、それを原資として国民の人気が高い太陽光・風力に莫大な補助を続けているドイツとは事情が違う。
しかしながら、より長期のポスト京都を見据えた対応としてどうすべきかと考えると少し状況は違ってくる。仮に日本がポスト京都で削減義務国に残り続け、▲6%を上回る厳しい目標を課せられた場合、結局は国際排出権市場から国民の税金か製品・サービス価格に転嫁された消費者の支出で不足分を買い入れることになる。しかも今後厳しくなる削減目標下で排出権の売り手となりうる国はほぼロシアに限られるので、日本は温室効果ガス削減策を大幅に加速しない限り、「独占者から言い値で大量に排出権を買わされる」という極めて不利な立場に立つ。
こうしたケースについて、排出権の買い取り量と価格に正の相関(たくさん買うと高く買わなければならない)がある前提で最近学習院大学経済学部の南部鶴彦教授が作ったモデルによると、今の発電コストや機器コストに比べてn倍のコストがかかるCO2フリー技術に対する最適な補助率は(2n-1)/3nと計算できるという。2倍のコストの技術で50%の補助、5倍でも60%補助が適当だという極端な結果だが、どんな割高な技術でも導入されれば排出権の購入価格を引き下げるのであれば、ある程度合理的でもある。温暖化防止は企業と個人の努力と言われがちだし、それは間違いではないのだが、最適な補助、政策のあり方についてももう一段の議論が必要ではないだろうか。
大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。
1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』(2001年度エネルギーフォーラム賞受賞)『電力自由化完全ガイド』『検証エンロン破綻』『電力のマーケティングとブランド戦略』『エナジー・エコノミクス』『にっぽん電化史』など多数。