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2008年1月30日 (水)

日弁連はなぜ負けたのか?(7)

「司法試験合格者数は今後5年間800名程度を限度とする」という平成6年(1994年)1221日の日弁連臨時総会決議は、ものすごい世論のバッシングを浴びた。これを受けて、平成7年(1995年)112日、日弁連は昨年の決議をあっさり撤回して、司法試験合格者1000人を容認する(なぜかこの決議は新聞報道しか資料が無く、日弁連ホームページの決議集には掲載されていない)。しかし時すでに遅く、合格者数1500人を容認していた法曹養成制度等改革協議会との乖離は埋めることができなかった。そのため、平成71113日に発表された同協議会の意見書は、1500人と1000人の両論併記に終わる。

この時点での報道を見ると、日弁連の態度を批判しつつも、なお、法曹三者協議による事態の収拾を求めていることが分かる。「国民の司法実現へ(法曹三者の)歩み寄りを」【読売新聞】「(法曹)三者は、後ろ向きの議論に時間を費やさず、なお合意を目指して努力すべきだ。」【朝日新聞社説】「国民の立場に立った具体的な司法像を描くうえで、引き続き三者の協力が求められている。」【日経】

しかし政府の対応は、このころから急転回を始めた。行革委員会規制緩和小委員会は平成7127日、「司法試験合格者数を大幅に増加することが必要。『法曹養成制度等改革協議会』の意見書の、中期的には千五百人程度を目標との意見について評価する。」として、1500人支持を明確にする。「日弁連が自治団体であることを主張するなら、自らの体質改革が前提となる。そのためには、現在の意思形成の仕組みを改めないと、駄々っ子みたいなごね得狙いの反対者の巣窟(そうくつ)と言われよう。日弁連はいま自治能力を深く疑われているという事実を悟るべきだ。」【毎日新聞】「抜本的な改革論議がもう十数年間も続いている。やっと司法試験合格者を二百人増の七百人にこぎつけたぐらいだ。一向にまとまらないのなら、第三者に任せたらどうだろう。ひとえに司法試験の合格者の数の問題から始まっている。弁護士側は少なくない、多すぎるぐらいだと言い、いつまでも堂々巡りだ。」【読売新聞】

これらの新聞報道は、実は、司法試験合格者数の決定権限を法曹三者から取り上げ、政府に委譲することを指向している。ところが、この時点での日弁連はことの重大性に思い至らず、「行革委が司法制度の根幹にかかわる法曹人口や修習問題まで取り上げることは三権分立に反する」【柳瀬康治 日弁連事務次長 毎日新聞】とか、「法曹人口は長期計画で増やせ」(大原誠三郎弁護士)【毎日新聞】「法曹人口を増やすことは、弁護士の生活や業務のあり方にかかわる面もあり、弁護士会でも見解が分かれています。」【鬼追明夫日弁連新会長 毎日新聞】といった、原理主義的な議論や、相変わらずの引き延ばし策や、のんびりムードの見解を述べている程度だ。

日弁連のこのような態度や、法曹養成制度等改革協議会の分裂による機能不全を見て、おそらく平成10年ころ、政府は法曹養成制度の決定権限を法曹三者から取り上げることを決意する。そして平成11年(1999年)25日、司法改革審議会設置法案が決定される。それ以後の経緯は、すでに述べたとおりである。新聞報道からは、日弁連の文字が急速に減った。日弁連は、法曹人口問題の当事者から降ろされたのである。

平成12112日の日本経済新聞には、次の記載がある。「人口増に反対する代表的な意見は、『競争激化で弁護士の経済的基盤が危うくなり、本来の人権擁護活動が弱まる』との考え方。これに、『これまで法曹三者で慎重に扱われていた法曹人口枠が突然拡大された』との不満が加わった。 こうした反対派の主張に共感する弁護士は少なくない。しかし、弁護士過疎地域で人権活動もままならない賛成派弁護士が総会で訴えた切実な増員の声に、こたえるような具体策を示す反対派はいなかった。 また、大幅増の案は『突然』浮上したわけではない。(中略)司法審が司法試験合格者数『年間三千人』を打ち出したのは8月。この間、現場の弁護士が意見を表明する機会はいくらでもあった。」従前、法曹三者の仲直りを求めていた頃に比べて、突き放すような書き方だ。このように、この時点で反対派は、世論から冷笑され見放されていたのである。

歴史にIFは許されないが、おそらく、日弁連が引き返せないポイントを曲がったのは、平成8年と9年の間であろう。この間、日弁連が法務省や最高裁との「コップの中の戦争」を止め、大同団結して1500人を容認し、法曹養成制度等改革協議会の機能不全を予防していれば、その後の3000人への道筋は、回避できていたかもしれない。(小林)

「日弁連はなぜ負けたのか?(1)~(8)」は小林正啓の個人的見解であり、日弁連会長候補者及びその選挙事務所の意見とは一切関係ありません。

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