現在位置:asahi.com>社説 社説2008年01月31日(木曜日)付 与野党合意―本当の議論はこれからだガソリンにかかる税金はなんとしても下げさせない。そんな思惑から与党が繰り出した「奇策」が、衆院本会議での採決直前に取り下げられた。 抜き差しならない対立に与党と民主党の身動きが取れなくなった中、河野衆院議長と江田参院議長が連係プレーで示したあっせんに、双方が従った。 ガソリンの暫定税率の継続などを盛り込んだ法案について年度末までに結論を出し、各党が合意するなら法案の修正もありうるという。 当たり前と言えば当たり前の内容だが、あしき前例になりかねなかった事態を、ぎりぎりのところで回避した歩み寄りは評価したい。 「衆参で多数が違うのだから、お互いの主張が100%通るわけではない」。河野議長があっせんの過程で語った言葉を、与野党はかみしめるべきだ。 仮に与党のつなぎ法案が衆院を通過していれば、国会は空転し、予算案をはじめ重要法案での実りある論議は望むべくもなかった。日銀総裁の後継人事にも影響が出かねないところだった。 第1に責めを負うべきは自民、公明の強引な姿勢である。国会の審議をすっ飛ばし、議員立法で暫定税率のとりあえずの継続を決めようとした。 衆院での再可決という宝刀を振りかざし、「数の横暴」と言われても仕方のない戦術だった。いくら国民生活の混乱を防ぐためという大義を掲げても、こんな奇策がまかり通ってはならない。 民主党にも問題はあった。なにがなんでも暫定税率の期限切れに持ち込み、福田政権を追いつめ、早期の衆院の解散・総選挙に結びつける。そんな政局の思惑ばかりが先行していなかったか。 さて、仕切り直しである。今回の合意は法案修正の可能性に触れた。与党が暫定税率をめぐる態度を軟化させたわけではなかろうが、与野党はこれを糸口に、修正案づくりを真剣に追求すべきだ。 衆院で与党が握る多数が民意に基づくように、参院での野党多数も民意に支えられている。そのふたつの民意をつき合わせ、年度末までに成案をつくってこそ、「ねじれ」に託した有権者の期待に応えることになるのではないか。 暫定税率の問題は、単にガソリンの値段を下げるかどうかの話ではない。その裏には、10年間で59兆円もの金を投入するという政府の道路整備計画がある。ガソリン税をもっぱら道路建設に使う特定財源の妥当性の問題もある。 与党が衆参両院で多数を握る時代には、そうしたことをまともに議論する環境がなかった。参院での与野党逆転でようやくその舞台が出来たことを、双方とももっと重く受け止めてもらいたい。 年度末まであと60日。与野党は自分たちの原案にこだわるばかりでなく、骨太の議論を戦わせることだ。そして衆参ねじれ時代の合意づくりのルールを探る。そんな努力を政治に求めたい。 あらたにす発足―言論の戦いを見てほしい「吾人(ごじん)は人類をして博愛の道を尽(つく)さしめんが為めに平和主義を唱道す。故に人種の区別、政体の異同を問はず、世界をあげて軍備を撤去し、戦争を禁絶せんことを期す」 1世紀以上も前のこと。軍靴の響きが高まり、日露開戦へと時代が加速する中で登場した「平民新聞」の1903年11月15日の創刊宣言である。 幸徳秋水と堺利彦が、開戦論に転じた「万朝報(よろずちょうほう)」を退社して立ち上げた。ほとんどの新聞が戦争を賛美する中、「平民新聞」は非戦論、反戦論を展開した。発行部数は数千の単位だった。 もし当時、全国の人たちが「平民新聞」と「万朝報」などの論調を読み比べることができていたら、どんな反応が起きていただろうか。 こんなことを考えたのは、きょう、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞によるインターネット共同事業「あらたにす」が始まったからだ。これは3紙の主な記事や社説を一目で比べることができ、それぞれのニュースサイトにも簡単に接続できるサービスである。 民主主義は、言論の多様さと主張の競い合いがあってこそ成り立つ。 日本のジャーナリズム史を振り返ってみると、「平民新聞」のような勇気ある事例は多くない。戦前は、朝日新聞をはじめ多くの新聞が政府の方針に沿い、戦争への道をあおってきた。昨年からの本紙の連載「新聞と戦争」が伝える通りである。 それでも、明治の自由民権や大正デモクラシーの時代には、政府寄りの新聞がある一方で、政府を厳しく批判する新聞もあって、鋭い言論や特ダネが紙面をにぎわした。そうしたあふれんばかりのエネルギーが、今も新聞の原点である。 現代の新聞の主張にも、驚くほど違っていることが少なくない。例えば、読売は自ら改憲案をつくって憲法改正の旗を振るが、朝日は現行憲法、特に9条を活用することを基本と考えている。イラク戦争、靖国問題などでも、多くの新聞がさまざまな論を張ってきた。 比べて読めば、それぞれの主張が立体的に浮かび上がる。どちらに説得力があるかは読者が判断する。 これは新聞の側にも大きな緊張感をもたらす。3紙による共同の試みを、日本の新聞がいっそう個性を磨き上げ、競い合う出発点にしたい。 「ネットの時代」といわれるが、問題はどんな情報を流すかだ。無責任で不正確な情報があふれる中では、きちんと裏付けを取った正確な情報を発信する新聞の役割がますます重要になる。そもそもネットに載るニュースも、多くは新聞社が取材したものだ。 ニュースを発掘し、取材し、それをもとに主張を展開する。そうした新聞の強みを生かす新たな場が、今回の共同ネットである。読者の期待に反しないよう、言論の活発な戦いをお見せしたい。 PR情報 |
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