養殖のクロマグロは、天然ものより、体内に水銀が蓄積されにくいことが近畿大学農学部(奈良市)と近大の水産研究所大島実験場(串本町)の共同研究で分かった。餌に水銀の蓄積が少ない小魚を使用しているためで、この養殖法の特許を申請している。世界初の完全養殖マグロ成功に加え、安全性でも「近大マグロ」のブランド力を発揮したい考えだ。 水銀は大気中や海中など自然界に含まれる。人体にも金属の水銀と、アミノ酸と結合したメチル水銀がある。毒性が強く人体に危険をもたらすのが後者で、魚介類の場合、総水銀の約9割がメチル水銀とされている。 通常の食生活では人体への影響はないとされるが、マグロなど大型魚は含有量が多い。厚生労働省の「魚介類の水銀の暫定的規制値」で濃度を0・4ppmとしているが、マグロ類(マグロやカジキ、カツオ)には適用していない。 研究グループは4年前から調査に着手。近大水産研究所で人工ふ化した養殖クロマグロ約100匹を分析したところ、通常は成長するほど増す水銀濃度が、10キロ以上に成長しても約0・6ppmで一定していることが判明した。天然物はばらつきはあるが、1ppmを越える場合がある。 水銀は、プランクトン―小魚―大型魚―の食物連鎖で蓄積が進む。天然マグロも大きくなると、水銀の濃縮が進んだカツオを食べることが多い。一方で養殖マグロの餌はサバ。研究グループの安藤正史准教授は「餌の違いが水銀の差につながっている」と指摘する。 研究グループは分析結果を基に小魚のイカナゴ、マアジを与え、出荷サイズになっても、水銀濃度を0・2ppmに抑えたマグロの養殖に成功。サバよりコストがかかる難点もあるが、肉質や脂分への影響がないまま、安全性を高められる養殖法で、申請中の特許は近く認可の見込みという。 大西洋マグロ類保存国際委員会は今年1月、日本のクロマグロ漁獲枠をこれまでの年間3万2000トンから、2010年には23%減の2万5500トンに削減すると決めた。今後も規制は避けられないだけに、安全な養殖マグロへの期待は高まっている。 安藤准教授は「飼育環境が制御できる養殖魚は安全・安心な食を提供する手段。マグロは例外的に生き餌を与えているが、適した配合飼料を開発し、より安全な養殖マグロを開発したい」と話している。