大学生らをメンバーとする10~12の振り込め詐欺グループを統括し、約20億円を荒稼ぎしていた男が警視庁と埼玉県警に逮捕されていたことが分かった。仲間内で「キング」と呼ばれ、約10億円の上納金を得ていたという。複数の振り込め詐欺グループを統括する首謀者が逮捕されるのは極めて異例。不正に得た金の一部が暴力団へ流れた疑いもあり、グループの全容解明を急ぐ。【石丸整、鳴海崇、浅野翔太郎】
男は東京都府中市宮町1、無職、戸田雅樹被告(29)=詐欺罪と組織犯罪処罰法違反で起訴。警視庁捜査2課が昨年4月、詐欺未遂容疑で逮捕した私立大学生、守谷勇輝被告(23)ら3人=詐欺罪などで起訴=を捜査する過程で、グループの頂点にいる戸田被告の存在が浮かんだ。
さらに、世田谷区太子堂の無職、佐井宏彰容疑者(26)が、複数のグループに携帯電話や銀行口座を与え、だましの文言などを指南する仕切り役だったことも判明した。昨年4月から行方をくらましていたが、捜査2課は14日、富山県の男性会社員(45)からアダルトサイトの利用料名目で、現金約140万円を詐取した疑いで逮捕した。
戸田被告の関係先からは、過去3年分にわたる収益金を記載した帳簿が見つかった。これらの分析から、10~12のグループが3年間に得た金は約20億円に達していることが分かった。
金は佐井容疑者が集め、半分の約10億円が戸田被告に上納されていたという。
振り込め詐欺を巡っては、昨年1~11月に全国で約222億円の被害が発生している。警察当局は摘発を続けているが、これまでは末端メンバーの逮捕にとどまっており、首謀者らの逮捕が課題になっていた。
◇脅し交え13回700万円 宮城の主婦、亡夫の退職金工面し
昨年3月24日。宮城県内に住む40歳代の主婦宅に「電子消費者契約通信未納利用料請求督促状」と書かれた息子あての1枚のはがきが届いた。「息子さんに有料アダルトサイトの未納がある」。2日後の正午すぎ、若い男の声で電話があった。「若げの至り。何とかしてあげたい」。主婦は2時間後には、指定された口座に現金を振り込んでいた。
4月になっても電話は続いた。「登録データを消すため」「取り立て屋が行くよ」。脅しも交えた文言にだまされ、主婦は13回にわたって計718万2580円を振り込んだ。
がんで他界した夫の退職金を息子と娘名義の定期預金にしていたものを充てた。自分のアルバイト収入は手取り月20万円。だまされたと分かった後は、食事ものどを通らなかった。相談に行った警察署で倒れ、救急車で病院に運ばれた。
一連の事件で、警視庁と埼玉県警はこれまでに6人を逮捕。被害は関東だけでなく東北や北陸、関西にまで広がっている。
毎日新聞 2008年1月17日 東京朝刊