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2005年07月31日

「ノー・グッド・シングス」(No Good Deed)

「映画のなかの このシーン、このフレーズ」(1)
「ノー・グッド・シングス」(No Good Deed)

アメリカのハードボイルド作家ダシール・ハメット原作『ターク通りの家』(1924)を映画化した「ノー・グッド・シングス」(No Good Deed 2002年 監督:ボブ・ラフェルソン 脚本:スティーヴ・バランシック)。
アメリカ東部のある町に住むジャック・フライア(サミュエル・L・ジャクソン)は、余暇にはチェロを弾き、孤独を愛する刑事です。休暇をとって練習を重ねたブラームスの小曲をたずさえ、音楽祭へ出掛けようとしたそのとき、隣人に懇願され、家出娘コニーの捜索をする羽目になってしまいます。ジャックは、コニーのボーイフレンドが住んでいるターク通りを巡回するうちに、折から降り出した雨で自宅の階段で足を滑らした老婦人を助けます。雨から逃れて家のなかへ入った老婦人は、ジャックに夫を紹介します。

Who is it you're looking for, Jack? A friend?
「ジャック、探していらっしゃるのは、お友だち?」

MRS. QUARRE: Thomas, dear. This is...
JACK: Jack. Jack Friar.
MRS. QUARRE: This is Mr. Quarre, I'm Mrs. Quarre. Who is it you're looking for, Jack? A friend?
JACK: No, suspect, well, not a suspect really. A young man.
THOMAS: Yes.
MRS. QUARRE: You're a police man.
JACK: I really should be going.
MRS. QUARRE: Oh, dear, don't go. I'll put on some water for tea.

「トーマス、あなた、こちらは」
「ジャック、ジャック・フライアーです」
「こちらはミスター クアー、私はミセス クアーです。
ジャック、探していらっしゃるのは、お友だち?」
「いいえ、容疑者、いや、容疑者というわけではなく、若い男です」
「なるほど」
「あなたは刑事なの」
「私はこれで失礼します」
「どうぞ、行かないで。お茶を入れますわ」

自然で平和で他愛のない会話です。ところが、その背後には、まったく正反対の局面が潜んでいました。その家は悪事をはたらく一味の隠れ家だったのです。やがて、首謀のタイロン(ステラン・スカルスゲールド)と子分のフープ(タグ・ハッチソン)、それに魅惑的な女性エリン(ミラ・ジョヴォヴィッチ)が現れます。彼らはジャックを捜査にやってきた刑事だと勘違いし、ジャックを動けぬように椅子に縛り付けます。そして、タイロンとフープは、エリンにジャックを銃で監視させ、銀行を襲う計画を実行するため出発します。
家に残されたのは、犯罪の片棒をかつぐエリンと真面目な刑事のジャック。そこには、相容れない二人であっても、ある人間のふれあいを感じさせる何かがありました。エリンは傍らのピアノを弾きます。確かな音色を聞いて、エリンの才能に驚くジャック。

He said he saw my potential. I flattered myself that he meant my music.
「彼は、私には才能があるって。音楽の才能だと思って、よろこんだんだけど」

JACK: Did I hear what I just heard?
ERIN: I was a state-sponsored prodigy until Moscow collapsed. My peers became prostitutes, musically or otherwise. I met a man in a bar. He said he saw my potential. I flattered myself that he meant my music.
JACK: So you guys are robbing a bank, Right? How?

「今聞いたのはなんだろう」
「ソ連が崩壊するまで、私、政府の特待生だったの。仲間は音楽を続けるため体を売ったり、いろいろしていたわ。それで、私はバーである男に会ったら、私には才能があるって言われたの。音楽の才能だと思って、よろこんだんだけど」
「それで、銀行を襲うんだね?どういうふうに?」

 あきらかに、タイロンはエリンに魔性を見たのです。美貌ゆえに、彼女は悪の道にはまり込んだのです。一方、銀行に着いたタイロンたちは、電源装置を操作して、館内の電気を切って銀行側を混乱させ、計画通り、1、000万ドルの送金を実行させます。あとは、車でカナダ国境を越え、逃走するだけです。ここで、エリンとジャックの会話を聞きましょう。

Only you don't know it.
「あなたは気がついていないだけだ」

JACK: You have a way of me feel really good, when you want something.
ERIN: It's not like that.
JACK: Oh, but it is. Only you don't know it.

「ほしいものがあると、あなたは人をその気にさせてしまう」
「そんなことないわ」
「いや、そうなんだ。あなたは気がついていないだけだ」

物語の展開や前後の状況は、ここでは触れません。エリンは魔性の女だったのでしょうか?ジャックは冷静な男だったのでしょうか?作者は、才能ある魅力的な女が遭遇する複雑で不思議な宿命を描こうとしているのでしょう。
 ボブ・ラフェルソン監督は「これはスリラーというジャンルのなかのラブストーリーでもある。サミュエルは堂々とした品格とほんの少しの弱さを兼ね備えたキャラクターを見事に演じてくれた。ミラは、とても妖艶で知性溢れる女性だが、彼女にとっては、はじめて力を抜いてすべてをさらけ出すことを学んだと思う」と語っています。

(原島一男 はらしま かずお)

初出:NHKテキスト「100語でスタート英会話」2003年4月号 NHK出版
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2005年07月30日

「メイド・イン・マンハッタン」(Maid In Manhattan)

映画のなかの このシーン、このフレーズ」(3)
メイド・イン・マンハッタン」(Maid In Manhattan)

ホテルのメイドとして毎日を懸命に生きるマリサ(ジェニファー・ロペス)にとって、恋はあこがれ以外の何ものでもなく、夢のまた夢です。「メイド・イン・マンハッタン」(Maid In Manhattan 2002年 監督:ウェイン・ワン 脚本:ケヴィン・ウェイド)の『メイド』はmaid と made の両方をかけており、ジェニファー・ロペスの思いがけない恋の経過を探るラブ・コメディです。ニューヨークのブロンクスに住むシングル・マザーのマリサは、小学生のタイ(タイラ−・ガルシア・ボジー)を小学校へ送り届けたあと、地下鉄でマンハッタンの五つ星ホテルへ通う毎日を過ごしています。今日も同僚のステファニー(マリサ・メイトロン)と一緒にスイート・ルームの清掃に行くのですが、その部屋の宿泊客から買ったばかりのドレスをブティックへ返却するよう頼まれます。マリサとステファニーの会話。

Feel how the other half feels!
「お金持ちの気持ちを感じなさい!」

STEPH: Feel the material! I mean, it's like butter!
MARISA: Oh, God! This stuff is $5,000!
STEPH: For one white outfit? Marisa Ave Maria Ventura.. when will you or I ever get to try on a $5,000 anything? Come on, feel how the other half feels!

・Marisa Ave Maria Ventura はマリサのフルネームで最大級の強調
・the other half = お金持ちの人びとを指すコロキュアルな言い方

「この生地をさわってみて、ほら、バターのように気持ちがいいわ!」
「あら、これって5、000ドルよ!」
「一着の白いドレスだけで?マリサ・アベ・マリア・ヴェンチュラ。あなたか私が5、000ドルの品物を着ることってあるかしら? ねえ、お金持ちの気持ちを感じなさい」

ここで、二人が考えたことは、どうせ返品するのだから、ちょっと試着してみよう、という‘いたずら心’だったのです。ところが、偶然が偶然を呼んで、そこへ上院議員候補のクリス・マーシャル(レイフ・ファインズ)が入ってくるという運命のいたずらが起こります。メイドが宿泊客のドレスを勝手に着ていることが知られたら、大変なことになる!せっぱ詰まったマリサは宿泊客になりすまし、言われるままにクリスと散歩に出掛けます。クリスはクリスで、美しいマリサに惹かれて、つぎつぎと質問します。

Sometimes I feel like I live there.
「時々、このホテルに住んでいるような気がします」

CHRIS: So, how long are you in town for?
MARISA: Not sure.
CHRIS: You always stay at the Beresford?
MARISA: Sometimes I feel like I live there.
CHRIS: So, what brings you here?
MARISA: Work.

「それで、ニューヨークにはどれ位いるのですか?」
「わかりません」
「いつもベレスフォード・ホテルにお泊まりで?」
「時々、このホテルに住んでいるような気がします」
「それで、今回は何の目的で?」
「仕事です」

「ベレスフォード・ホテルにお泊まりですか?」と聞かれて、マリサは「住んでいるような気がします」と答えています。これは「いつも泊まっているので自分の家のようだ」と「長い時間を働いているので、住んでいるような気がしている」の両方の意味です。
クリスは政界の名門一家の出身で、将来の大統領候補とうわさされる人物。今は、出馬したばかりの上院議員選のため、ニューヨークに滞在して、選挙運動を展開中です。マリサはクリスから誘われるままにパーティなどへ出かけます。しかし、これまでのいきさつや身分の違いを考えると、積極的に行動するわけにも行きません。その上、マリサの試着事件が明るみに出て、彼女はますます落ち込んで行くのでした。悩みを抱える母親を見たタイは、自分のできることはないかと、クリスの記者会見の会場へ行きます。そこで、タイはクリスに質問します。

Nobody's perfect.
「完全な人間はいない」

TY: Well...I know everyone makes mistakes. And it's a sign of character to give a person a second chance, right?
CHRIS: Right. I'm with you.
TY: Even if someone lied, they should be forgiven. And she made a mistake. Do you think she should get a second chance? I mean, nobody's perfect, right?
CHRIS: No. Nobody's perfect.

・ sign of character =人格ある大人の行動
・ second chance =弁明や訂正などの機会

「あの、誰でも間違いを犯しますが、そのとき、人格ある大人なら、その人にもう一度チャンスを与えますね」
「そうだね。きみのいうことは分かるよ」
「だれかがウソをついたとしても許されますね。彼女が間違いを犯したとしたら、もう一度チャンスを与えられますか?完全な人間はいませんから」
「そう、完全な人間はいない」

タイの言葉に何らかのヒントを得たクリス。一方、失意のどん底のマリサ。二人はどうなるのでしょうか?
Nobody's perfect. は、往年の映画「お熱いのがお好き」(Some Like It Hot 1959 ビリー・ワイルダ−監督)の名セリフです。結婚を申し込まれた相手に女装した男性がかつらを外して、「私は男だから結婚できない」と告白すると、このセリフがあって、映画が終ります。

(原島一男 はらしま かずお)
初出:NHK英語教育番組テキスト「100語でスタート英会話
2003年6月号 NHK出版
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2005年07月29日

「暗くなるまで待って」(Wait Until Dark)

オードリー・ヘプバーン映画のオシャレな会話(12) 
「暗くなるまで待って」(Wait Until Dark) 

「いつも2人で」によって新しい境地を開いたオードリー・ヘプバーンは、続いて、ユニークなサスペンス映画に挑戦します。ブロードウエイ・ドラマを映画化した「暗くなるまで待って」(Wait Until Dark 1967年 テレンス・ヤング監督)は、それまでのヘプバーン映画とは大きく異なります。 
 目の全く見えない主婦スージー・ヘンドリクスを演じるオードリーは、麻薬がからんだギャング闘争に、期せずして、巻き込まれ、自己の命をかけます。登場人物が全部で10人以下、場所がニューヨークのグリニチ・ビレージ地下アパートのリビング・キチンという極めて限定された設定です。オードリーは目が見えない人独特の感受性と勘を働かせながら、文字通り‘見えない’敵と戦い、犯人を追い詰めます。彼女自身にとっても、観客にとっても、何が起こるかわからない恐怖が積み重なっていきます。これは、カメラマンの夫、サムとの愛情あふれる会話。
 
I don't ever want you to be anything but Susy.  
「ぼくが求めているのはスージーそのものだけだ」

SUSY: Do I have to be the world's champion blind lady?
SAM: Yes.                   
SUSY; Then, I will be...I'll be whatever you want me to be. Tell me what you want and then that's what I'll be. I mean it.                  
SAM: Susy... Shh...Shh... I don't ever want you to be anything but Susy.. Because that's the way I love you.        
SUSY: Do you? Do you?
 
・ I don't ever want you to be anything but Susy.
= スージー以外のなにものにもなってほしくない。
・That's the way I love you. = そういう形で君を愛している。

「私が盲婦人世界チャンピオンになるべきなの?」
「そうだ」
「それなら、なるわ。あなたが望むのなら何でも。何になって欲しいか言って。それになるわよ。本気で」
「スージー、いいんだ。いいんだ。 ぼくが求めているのはスージーそのものだけだ。そのままのきみを愛しているんだから」
「本当?本当に?」

 こんなに仲むつまじい二人の生活に、ある日、大きな不幸が襲いかかってきます。 サムは空港で見知らぬ女性から麻薬が隠された人形を渡され、これが発端で、スージーは、3人の悪党たちの人形探しに巻き込まれてしまうのです。サムが留守のときに、悪党たちが入れ替わり立ち替わりスージーの部屋へやって来て交す会話を聞いて、目が見えない彼女は、恐怖におののきます。ところが、聡明なスージーは、彼らがブラインドを開け閉めすると、その直後に必ず電話がかかってくることに気付いたり、彼らの履いている靴のきしむ音から彼らの言葉のうそを見破ったりします。そして、彼女は手伝いの少女グロリアと組んで、何が起こっているかを逆探知します。

Don't take your eyes off it for a second.
「ちょっとの間でも目を離しちゃだめよ」

SUSY: Can you see the phone booth from upstairs?   
GLORIA: From mother's bedroom, I think.         
SUSY: Good. Go upstairs and watch that phone booth. Don't take your eyes off it for a second. Now, if anyone from the truck goes in and makes a call, phone me as soon as they come out. Got it?  
GLORIA: Got it.
SUSY: And just let the phone ring twice and then hang up. Remember -- twice.              
GLORIA: I know... like a signal.

・take your eyes off it = 目を離す(反対はkeep your eyes on it.)
・ Let the phone ring twice. = 電話を2回鳴らす

「上から公衆電話ボックスが見えるでしょう?」
「ええ、母の寝室から」
「よかった。上へ行って、その公衆電話ボックスを見張って!ちょっとの間でも目を離しちゃだめよ。それで、誰かがトラックから降りて電話をかけて、出てきたら、すぐに私に電話して。 わかった?」
「わかったわ」
「そのとき、電話のベルを2回鳴らして切るのよ。2回よ」
「わかったわ。合図のようにね」

 こうして、スージーは、彼女のところへ来た男たち全員が共謀していることをつきとめます。サムの旧友を装ったマイクの親切に騙され、信頼まで寄せていたスージーは、大きな失望と同時に、危険で冷酷な現実に立ち向かわなければならないことを知るのです。彼女はマイクに「人形はサムの写真スタジオにある」と誤った情報を与え、危機から逃れようとします。

I'm saving my husband's life, aren't I, Mike?    
「マイク、主人の命がかかっているんじゃない?」

SUSY: It's in the left-hand drawer...the doll. Gloria said so.                 
MIKE: Susy, I'm going to ask you once more...this is no time for mistakes. Are you sure the little girl saw the doll there? Are you sure this is all true?          
SUSY: I'm saving my husband's life, aren't I, Mike?  
 
「左側の引き出しにあるわ。ーー人形が。グロリアがそう言ったわ」
「スージー、もう一度、聞く。間違いは許されないのだよ。確かにその娘はそこで人形を見たんだね?本当に確かなんだね?」
「マイク、主人の命がかかっているんじゃない?」

 マイクが人形を探しに行っている間に、警察に助けを求めようとしたスージーの計画は、電話線が切られていることで、完全に崩れ去ってしまいます。目の見えないスージーは、目の見える悪党たちと戦う覚悟を決め、室内のあらゆる電球を叩き割って、暗闇という状況を作り出します。その暗闇で、悪党のひとりとスージーが対決するところが映画のクライマックスです。真っ暗な部屋の中へ駆けつけたサムと警官が照らすフラッシュライトが交錯します。
 
(原島一男 はらしま かずお)

初出:NHK英語教育番組テキスト「3か月英会話」1998年3月号 NHK出版
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2005年07月28日

「ダイヤルMを廻せ!」(Dial M for Murder)

ヒチコック映画のスリルな会話 (2)
「ダイヤルMを廻せ!」(Dial M for Murder)

 1950年代の前半には新人女優だったグレース・ケリーは、アルフレッド・ヒッチコックの映画「ダイアルMを廻せ!」(1954年)、「裏窓」(1954年)、「泥棒成金」(1955年)と続けて出演、その後モナコ王妃となったことはご存知の通り。
 ヒッチコックはグレースを’雪をかぶった噴火山’と呼びました。これは、彼女の外見はクールながら内に秘める情熱が激しいという意味で、この持ち味を、彼は一連の映画の中で見事に描き出しました。
 「ダイアルMを廻せ!」(Dial M for Murder)はブロードウェイドラマの映画化です。グレースはで人妻のマーゴを演じます。舞台はロンドンのアパートの一室。彼女の夫はウインブルドンでも優勝したことのあるテニス・プレーヤーのトニー・ウエンデイス(レイ・ミランド)。ところが、マーゴはアメリカの推理作家マーク・ハリデイ (ロバート・カミングス)と恋に落ちます。妻の不倫に気付いたトニーはマーゴを殺すことを知り合いのスワン・レズゲイトに頼みます。手はずは、トニーの留守の間に、スワンがアパートへ忍び込み、マーゴが電話へ出たところを、後から襲うというものでした。
 ロンドンへ来たマークは、ウエンデイス夫妻を自宅へ訪ねます。

I doubt if I could carry it out.          
「実行できるかどうか分からない」

MARGO: Do you really believe in "the perfect murder"?    
MARK: Yes, absolutely. On paper, that is.. And I think I could plan one better than most people, but I doubt if I could carry it out.           
TONY: Oh...Why not?                 
MARK: Well, because in stories, things usually turn out the way the author wants them to, but in real life, they don't, always.          

「’完全殺人’ってあり得るかしら?」
「あると思う。ただ文章の上でね。ぼくは、殺人を誰よりもうまく計画できると思うけど、実行できるかどうか分からない」
「ほう、何故だい?」
「物語では、作家の望む通り行くんだが、実際には、いつも、その通り行くとはかぎらないから」

 そのあと、トニーは計画通りマーゴの殺害を実行に移します。
 ところが、マークが話したように、物事は筋書き通りには進みません。首を締められたマーゴは、必死にもがきながら手に触れた裁縫ハサミでスワンの背中を刺し、危機を脱します。深夜の密室の事件の成り行きを知っているのは、殺されたスワンとマーゴ、それにトニーだけでした。
 陪審員は、スワンに脅迫されて不倫が発覚することを恐れたマーゴが殺人を犯したと判断し、彼女に死刑を宣告します。しかし、捜査を担当したハバード警部は、この結果に不審を感じ、推理と捜査を積み重ねて、真実を説き明かして行きます。マーゴを助けたいマークが懸命に協力したことは言うまでもありません。二人は、事件の前後のトニーの行動に注目します。

How long have you known this?   
「いつから、それに気付いたのですか?」

HUBBARD: We strongly suspect that your husband had planned to murder you.     
MARK: Tony arranged for Swann to come here that night and kill you.               
MARGO: How long have you known this?   
MARK: Did you suspect it yourself?    
MARGO; No.. never...and yet.. What's the matter with me, Mark? I don't seem to feel anything. Shouldn't I break down or something?   

・ How long have you known this? =「いつから、それに気付いたのですか?」
・ Shouldn't I break down?「泣き崩れるはずなのに?」

「われわれはご主人があなたを殺そうとしたと疑っています」
「トニーがあの夜スワンをここへ呼んで、あなたを殺すように仕組んだのです」
「いつから、それに気付いたのですか?」
「殺されることを自分で疑ったことは?」
「一度もないわ。でも、私ってどうしたのかしら、マーク。何も感じないみたい。泣き崩れるかなにかのはずなのに?」

 捜査はその男がどのように侵入したか、に絞られました。 トニーとマーゴが一つずつ持っていた入口の鍵がどう使われたのか?マーゴが自分で入口を開けたことも考えられます。
 ハバード警部は、マークの意見を参考にしながら、推理を働かせ、ある結論を得てから、マーゴを現場へ呼び出します。

"Suppose I had known...?" "You didn't!"         
「私が知っていたとすれば?」「あなたは知らなかった!」

MARGO: Why did you bring me here?
HUBBARD: Because you would be the only person who could possibly have left the key outside. And I had to find out whether you knew it was there. 
MARGO: Suppose I had known...?           
HUBBARD: You didn't!                 

「何故、私をここへ?」
「それは、あなたが外側へ鍵を置くことができる唯一の人だったからです。私は、鍵のありかをあなたが知っているかどうか確かめたかった」
「私が知っていたとすれば?」
「あなたは知らなかった!」

  こうして、 ハバード警部はマーゴ自身からその回答を引き出したのです。すべての事実が明らかになりつつあるとき、帰宅してきたトニーは、ハバード警部とマークが予想した通り、持っているはずのない鍵を使って入口を開けます。階段のカーペットの下に隠されていた鍵。その鍵のありかを知っていたのは、殺されたスワン以外には殺人計画を立てたトニーにほかなりません。トニーは、自らの罪を証明してしまうのです。

 ヒッチコックは、舞台の映画化にあたり、すべてのドラマを舞台の枠のなかに留め、セットや登場人物を限定して、カメラはほとんどそこから出ないという手法を用いました。マーゴが死刑の宣告を受けるところも、彼女のクローズアップ・カットの積み重ねと背景カラーを変化させるだけで処理しています。また、マーゴのドレスも、最初は華やかな明るいものを着せ、物語が進行するに従い、暗い地味なものへ変えていくことで彼女の心の内側を表現したと、ヒッチコックは語っています。
なお、「暗くなるまで待って」(Wait Until Dark 1967年 テレンス・ヤング監督)も、ブロードウエイの舞台劇で、撮影場所や登場人物を限定したところなど多くの共通点があります。原作者は、同じイギリスの劇作家フレデリック・ノットでした。

(原島一男 はらしまかずお)

初出:NHK英語教育番組テキスト「3か月英会話」1998年5月号 NHK出版
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2005年07月27日

「見知らぬ乗客」(Strangers on a Train)

ヒッチコック映画のスリルな会話 (1)
「見知らぬ乗客」(Strangers on a Train)
 
 サスベンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコック。イギリス生まれの彼は、ハリウッドへ来るまでの20年間に23本、その後1980年に亡くなるまでに30本の合わせて53本の長編映画を作りました。そのほとんどは、日常生活で誰もが経験し得る間違いや偶然が、いかに主人公の人生を狂わせるかを見せています。筋の運びやカメラ手法が独特であるばかりか、使われている会話も極めて洗練されています。
 パトリシア・ハイスミス原作の「見知らぬ乗客」(Strangers on a Train 1951)は、プロテニスのスター・プレーヤー、ガイ・ヘインズ(ファリー・グレンジャー)が、ニューヨークからワシントンに向かう列車のなかで、ブルーノ・アントニー(ロバート・ウォーカー)から声を掛けられるのが、話の発端です。ガイは遊び好きの妻ミリアムに愛想をつかしており、上院議員の娘アン・モートン(ルース・ローマン)と付き合っています。ブルーノはガイのことをよく知っており、自分がミリアムを殺す代わりに、ガイが自分の父親を殺す、という交換殺人の計画を持ちかけます。

And what would trip you up? The motive!
「どうして捕まるのか? 動機があるからです!」

BRUNO: You'd be afraid to kill her. You know why - you'd get caught. And what would trip you up? The motive! Now, here's my idea...           
GUY: I don't have time to listen...
BRUNO: No, listen! It's so simple, too. Two fellows meet accidentally, like you and me. No connection between them at all...they never saw each other before. Each one has somebody that he'd like to get rid of. So, they swap murders.            

・trip up =(階段などで)足を踏み外す、失敗する。

「彼女を殺すのがこわいんでしょ。なぜか。捕まるからです。どうして、捕まるのか? 動機があるからです!そこで、僕の考えですが、、、」
「聞いてる時間はない」
「いや、聞いてください。とても簡単です。二人が偶然会う。 今のあなたと僕のように、二人には何の関係もない。お互いに会ったこともない。それぞれに消したい人がいる。それで、交換殺人をするんです」
 
 この突拍子もない申し出に、ガイは当惑しながら列車から降りて行きますが、自分のイニシャルが入ったライターテーブルの上に置き忘れます。ブルーノはそれを手にとって、じっと見る。そして、このライターは、その後、重要な役割を果たすことになるのです。
 ブルーノは、男友達二人と遊びに行くミリアムのあとを尾け、遊園地の中で首をしめて彼女を殺します。殺人計画を実行したのです。この結果、ガイは、ミリアムの夫ゆえに殺人の動機があると判断され、警察から尋問されることになります。幸い、アンの父親や妹のバーバラは、ガイを全面的に信用しており、ガイにこう言います。

"She was a tramp." "She was a human being."             
「彼女はふしだらよ」「彼女も人間だ」

BARBARA: She was a tramp.              
MORTON: She was a human being. Let me remind you that even the most unworthy of us has a right to life and the pursuit of happiness.... 
BARBARA: From what I hear, she pursued it in all directions.

 the pursuit of happiness =しあわせの追及。アメリカの「独立宣言」などで用いられている表現で、政治家言葉のひとつ。
pursue it in all directions = 全ての方向(あちこち)で追及する。 (バーバラは、この pursuit を皮肉っぽく使っている)

「彼女はふしだらよ」
「彼女も人間だ。どんなに我々にとって価値がなくとも、人間は生きることとしあわせを追及する権利は持っているのだよ」
「聞いたんだけど、彼女はあちこちで(男を)追及したのよ」

 このバーバラに扮したのは、ヒチコック監督の一人娘です。彼女は女優として、このほかの映画にも出演しています。
 さて、殺人の時刻に列車に乗っていたというガイのアリバイは、証人がいたにもかかわらず、証言拒否で成立せず、警察はガイへの容疑を固めます。ブルーノは、ガイの身辺に頻繁に現れては、父親殺しの実行を促します。ガイが、これに応ずる気がないことを知ったブルーノは、殺人の現場へライターを置き、ガイを犯人に仕立てようと企てます。
 そこで、ガイは、ブルーノからライターを取り戻すため、ブルーノの後を追います。遊園地へ急ぐブルーノ、追いかけるガイ、ガイを尾行する刑事の動きを、カメラはめまぐるしく追い続けます。そして、回転木場の上で対決するガイとブルーノ。そのとき、刑事の撃ったピストルの弾が誤って回転木場のオペレーターに当たり、コントロールを失った回転木場は猛烈なスピードで回りはじめます。泣き叫ぶ子供たちと子供の母親たちの悲鳴。やがで、群衆と警官隊が呆然と見守るなか、回転木場が崩れ落ち、その衝撃で、瀕死の重傷を負ったブルーノのところへガイが駆け寄ります。

Bruno, don't keep it up. Not at a time like this.
「ブルーノ、この場に至っても、まだ、そんなことを」

GUY: Bruno, can you talk a little? Can you tell the Chief that you have my lighter?   
BRUNO: I haven't got it. It's on the island where you left it.  
GUY: Bruno, don't keep it up. Not at a time like this. You know that..                 
BRUNO: I'm sorry, Guy, I want to help you...but I don't know what I can do...

・the island = 遊園地の中の「魔法の島」(Magic Isle)。 
・keep it up =(前の態度を)続ける。 
         
「ブルーノ、少しでも話せるか?」チーフにぼくのライターを持っていると言ってくれ」
「持っていないよ。君が置いた場所(島)にある」
「ブルーノ、この場に至っても、まだ、そんなことを。分かっているだろう」
「残念だが、ガイ、君を助けたいが、どうすればいいか分からないんだ」

 と言って、ブルーノは息をひきとります。そして、カメラは開いたブルーノの手のひらに近づく。そこにあったのは、事件の鍵をにぎる問題のライターでした。彼の死が、そのライターのありかを示すことになったのです。これで、ガイの無実が証明されました。
 次の朝、ガイがアンと列車のなかにいると、となりに座っていた見知らぬ乗客が話しかけてきます。
「失礼ですが、ガイ・ヘインズさんですね?」
(I beg your pardon -- Aren't you Guy Haynes?)
これは、正にブルーノがガイにはじめて会ったときの言葉です。ぞっとしたガイは、アンと一緒に何も言わずにその場を離れるのでした。 
         
(原島一男 はらしま かずお)

初出:NHK英語教育番組「3か月英会話」1998年4月号 NHK出版
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2005年07月26日

「トレジャー・プラネット」(Treasure Planet)

映画のなかの このシーン、このフレーズ」(5)
トレジャープラネット」(Treasure Planet)

イギリスの作家R.L.スティーブンソンが1883年に発表した冒険小説「宝島」の現代版「トレジャー・プラネット」(Treasure Planet 2002年 監督:ジョン・マスカー/ロン・クレメンツ、脚本:ジョン・マスカー/ロン・クレメンツ&ロブ・エドワ−ズ 原作:R.L.スティーブンソン)は、原作の味わいと興奮を残しながら、未来を感じさせるSF宇宙ファンタジーです。母親の経営するベンボー提督亭という宿屋で暮らしていた15歳のジムは、ある日、不時着した小型宇宙船の乗員を助け、金色の金属球を手に入れます。これこそ、海賊のフリント船長がトレジャー・プラネットに隠した財宝を見つけだす地図。ジムは、宇宙物理学者ドップラー博士が調達した宇宙船レガシー号へ乗り込みます。ここで、女性のアメリア船長とドップラー博士の話を聞きましょう。

A ludicrous parcel of driveling galoots.
「全く教養のない不作法な人たちの変な集団」

AMELIA: Let me make this as monosyllabic as possible. I don't much care for this crew you hired. They are, eh, how did I describe them, Arrow? I said something rather good this morning before coffee.
ARROW: A ludicrous parcel of driveling galoots, ma'am.
AMELIA: There you go. Poetry.

「単刀直入に言わせていただくと、あなたが雇った乗組員は気に入りません。私、何と言いましたっけ、今朝のコーヒーの前にうまく説明したでしょう、アロー」
「全く教養のない不作法な人たちの変な集団」
「そのとおり。詩的でしょ」

・galoot = 不作法な/粗野な/洗練されていない人のことを指すスラング

 このセリフの最初の部分は原作をうまく取り入れています。船長は、よくもこんなならず者たちを乗務員に雇ったものだ、と言っているのですが、原作の中の人物や会話が、形を変えては、随所に現れます。アローというのは副船長(一等航海士)の名前です。アローはドップラー博士とジムを料理番のジョン・シルバーに紹介します。シルバーはサイボーグで右腕と右足が機械で出来ており、右目にはレーザー・スキャナーが入っています。

Don't be too put off by this hunk of hardware.
「このハードウエアに驚かないでください」

ARROW: May I introduce Docter Doppler, the financier of our voyage?
SILVER: Love the outfit, Doc.
DOPPLER: Thank you. Um...love the eye. Uh, this young lad is Jim Hawkins.
SILVER: Jimbo! Ah, now, don't be too put off by this hunk of hardware. These gears have been tough getting used to, but they do come in mighty handy from time to time.
「こちらはドップラー博士、この航海のスポンサーです」
「すてきな宇宙服で、博士」
「それはどうも。すてきな眼をお持ちで。こちらの若者はジム・ホ−キンスです」
「ジンボー!このハードウエアに驚かないでください。ギアに慣れるのは大変だが、時には、使いやすくて便利なんだ」

・ Jimbo = Jimのニックネーム/愛称
・ put off = 不快感を抱く/困惑する

シルバーはギアのついた右腕を器用に使って料理を作っています。シルバーはジムを気に入り、荒くれ者の乗務員からジムを守るだけでなく、生き抜くための知恵をジムに授けます。
シルバーはジムにこう言います。

You got the makings of greatness in you, but you got to take the helm and chart your own course. Stick to it, no matter the squalls!
「お前はすげえことをする力を秘めている。しかし、自分で舵を握り、進路を決めるんだ。何があってもやり抜くんだ」

そういいながらも、シルバーは他の乗務員たちと組んで財宝を独り占めしようとしているのです。これを知ったジムは大いに失望しますが、そうしたなかで、ジムたちはトレジャー・プラネットへ着陸します。その昔、ヒスパニオラ号が「宝島」へ到着したように。そこには、‘置きざりの刑’に服しているベン・ガンが住んでいました。ここでは、Bio-Electronic Navigatorというロボットになっています。ベンとジムの会話です。

Treasure! Lots of treasure! Buried in the centroid of the mechanism.
「財宝!財宝の山!この星のメカニズム(機械)の中に埋められているよ」

JIM: I got to find a place to hide, and there's pirates chasing me.
BEN: Oh, pirates! I remember Captain Flint.
JIM: Wait, wait, wait. You knew Captain Flint? Well, but then you got to know...about the treasure.
BEN: Treasure! Lots of treasure! Buried in the centroid of the mechanism.

「隠れる場所を見付けなきゃ。海賊に追われているんだ」
「海賊だって!フリント船長を思い出したよ」
「待て、待て、待て。フリント船長を知ってたのか?それじゃ、きみは財宝のことも知っているだろう」
「財宝!財宝の山!この星のメカニズム(機械)の中心に埋められているよ」

・ the centroid of the mechanism 
 =トレジャー・プラネット全体が機械で造られており、その中心部分のこと

ジムはベンと話しているうちに、トレジャー・プラネットは大きな機械のメカニズムであり、その中心に財宝が隠されていることが分かります。
さて、ジムはその財宝を見つけることができるのでしょうか?見つけたとしても、持ち帰ることができるのでしょうか?また、シルバー一味とは和解できるのでしょうか?
さまざまな困難を前にして、ジムの真の能力が問われます!

原島一男(はらしま かずお)

初出;NHK英語教育番組テキスト「100語でスタート英会話」2003年8月号 NHK出版
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2005年07月25日

「アバウト・シュミット」(About Schmidt)

「映画のなかの このシーン、このフレーズ」(4)
「アバウト・シュミット」(About Schmidt)

大企業に勤め、幸福な家庭を築いてきたウォーレン・シュミット(ジャック・ニコルソン)の一生は、自他ともに、誇るべきものでした。その彼が66歳になったとき、人生でいつかは味わう3つの出来ごとー退職、妻との別れ、娘の結婚ムに襲われたのです。生涯をかけて築き、いつくしんできたものが消えて行くのを目のあたりにして、シュミットは何を感じたのでしょう? シュミットはどう行動したのでしょう? 「アバウト・シュミット」(About Schmidt 2002年 監督:アレクサンダ−・ペイン、脚本:アレクサンダ−・ペイン&ジム・テイラ− 原作:ルイス・ビグレー「アバウト・シュミット」)は、それまでとは大きく変わったウォーレンの毎日をたんたんと描写して行きます。退職ディナーパーティーで親友のレイの言葉。

What really means something, Warren, is the knowledge that you devoted your life to something meaningful. At the end of his career, if a man can look back, and say "I did it. I did my job...then he can retire in glory...
「本当に意味があるのは、ウォーレン、生涯をかけてなにかを成し遂げることだ。人が仕事の終りに、“満足だった”と振り返れるのなら、それは栄光の引退だ」

そうであったとしても、残されたのは何もすることのない毎日です。会社を訪ねてみても居場所はなく、時間を持て余すばかり。そこで、ウォーレンはテレビで見かけたチャリティ団体の求めに応じてアフリカの恵まれない子供への援助を始めます。タンザニアに住むンドウグという子供のフォスター・ファーザーになり、毎月22ドル(約2700円)の小切手を贈るほか、ンドウグへ個人的な手紙を書くことになりました。その手紙を投函して帰宅すると、妻のヘレンが倒れていました。葬式を終え、ヘレンがいなくなった家の中を整理していると、親友から彼女へ宛てた熱烈なラブレターが出てきて、ウォーレンはショックを受けます。更に、一人娘のジーニ−(ホープ・デイヴィス)が、ウォーレンから見て、ろくでもない男と結婚すると言い出し、気持ちの休まる毎日というわけには行きません。気を取り直して生きるウォーレンでしたが、ヘレンにこう呼び掛けます。

I know I wasn't always the king of kings. I let you down.
「私は最高の男ではなかった。あなたの期待に添えなかった」

WARREN: Helen...what did you think of me...deep in your heart? Was I really the man you wanted to be with? Was I? Or were you disappointed? I know I wasn't always the king of kings. I let you down.

「ヘレン、本当は私をどう思っていたの。心の奥では?本当に一緒にいたかった男だったか?
どうだい?失望したかい?私は最高の男ではなかったよ。あなたの期待に添えなかった」

・ the king of kings. = the nicest man

ヘレンを失った今、はじめて、ウォーレンは彼女への愛情を確認しました。その後、ウォーレンはキャンピング・カーで自分の生まれた家や卒業した大学を訪ねたり、人生を振り返る旅に出ます。その旅で、それなりに自分自身を見つめ、それなりに納得しました。しかし、どうしても気になるのは娘ジーニ−の結婚。結婚式をひかえたジーニ−にウォーレンはもう一度結婚を考え直せとせまります。この忠告を聞いたジーニ−の返事。

All of a sudden you're taking an interest in what I do?
「突然、私のしていることが気になるの?」

JEANNIE: All of a sudden you're taking an interest in what I do? You have an opinion about my life now? Okay, you listen to me. I am getting married the day after tomorrow...and you are going to come to my wedding. And you are going to sit there and enjoy it and support meノor else you can just turn right around right now and go back to Omaha.

「突然、私のしていることが気になるの?私の生き方に口をはさむわけ?そう、じゃ、聞いて。私はあさって結婚するわ。それで、結婚式に出席して楽しんで。それで、私に逆らわないで。それができないんなら、今、すぐ、ここから、オマハに帰って」

それは、自立して自分の道を歩いている娘の姿でした。ウォーレンの前にいるのは、成長したジーニ−です。ウォーレンが溺愛していたジーニ−ではなく、これから人生を切り開こうとしている一人の女性です。ウォーレンはンドウグに手紙を書きます。

What difference has my life made to anyone?
「私はだれかに影響を与えただろうか?」

WARREN: Once I am dead, and everyone who knew me dies too...it will be as though I never even existed. What difference has my life made to anyone? None that I can think of. None at all.

「私が死んだら、私を知る人たちも死んでしまう。ちょうど、私は存在しなかったようなものだ。私はだれかに影響を与えただろうか?なにも与えない。一度たりとも」

平静を装いながらも、人生最大の焦燥感、挫折、孤独を感じているウォーレンのもとに、タンザニアから一通の手紙が届きます。

この映画でアカデミー主演男優賞にノミネートされたジャック・ニコルソンはこう語ります。
「コメディは演じるのが楽しいから大好きだけど、実際に演じるのはコメディではなく現実で、この映画で演じたのは時に圧倒されるほど哀れな男だった。彼はずっと孤独だった。けれど、『誰かを幸せにしたい』と願い続けたオプティミストなんだ」

原島一男(はらしま かずお)

初出:NHK英語教育番組テキスト「100語でスタート英会話」
2003年7月号 NHK出版
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2005年07月24日

「ブロンドライフ」(Life Or Something Like It)

「映画のなかの このシーン、このフレーズ」(7)
「ブロンドライフ」(Life Or Something Like It)

もし、あなたがあと一週間しか生きられないとしたら?
「ブロンドライフ」(Life Or Something Like It 2002 監督:スティーヴン・ヘレク 脚本/原案:ジョン・スコット・シェパード)は、シアトルのローカル局のテレビ・リポーター、レイニー・ケリガン(アンジェリーナ・ジョリー)の運命を追います。レイニーの夢はニューヨークの全国向けテレビ局のキャスターです。彼女はこの目標に向かって、日々の努力を怠りません。仕事をきっちりこなし、ジムへ通って身体をシェープアップし、花形ベースポール・プレーヤーと婚約もしました。レイニーにとって、すべては完璧な人生そのものでした。同僚のアンドリア(メリッサ・エリコ)との会話。

I can honestly say at this moment, my life is perfect... Great job, great friends...
「今、正直に言えることは人生は完璧っていうこと。仕事も友だちも」

LANIE: No matter how you'd like to define it, I can honestly say at this moment, my life is perfect... Great job, great friends...
ANDREA: Thank you.
LANIE: Great man, great apartment...
ANDREA: Great hair, great body.
LANIE: Thank you.

「あなたがどう言おうと、今、正直に言えることは人生は完璧っていうことね。仕事も友だちも」
「どうもありがとう」
「男性も住むところも」
「髪の毛も身体も」
「どうもありがとう」

そんなレイニーでしたが、ホームレスの預言者ジャック(トニー・シャロープ)を取材したときから状況が変わります。神の声を聞くことができると自認する話題の人物で、彼はその夜のシーホークスの勝利と翌朝のひょうを予測、さらにテレビの生中継で、レイニーのインタビューに答えて、意外なことを口走ったのです。

And next Thursday you're going to die.
「それから、次の木曜日にあなたは死ぬ」

JACK: I hear it. I hear it loud and clear.
LANIE: Okay. Well, you heard him, forks. The Seahawks are gonna win and tomorrow it's gonna hail.
JACK: And next Thursday you're going to die. I'm sorry.

「わたしは神の声を大きく、はっきりと聞きました」
「わかりました。皆さん、お聞きになりましたね。シーホークスが勝ち、明日はひょうが降るそうです」
「それから、次の木曜日にあなたは死ぬ。残念ですが」

驚いたのはレイニー本人であることはいうまでもありません。どうせ、預言者のいうことだから、信憑性は今ひとつと思ったものの、彼の言う通りシーホークスが勝ち、次の朝、ひょうが降るのを見て、レイニーは居ても立ってもいられない気持ちに追い込まれます。病院で健康状態をチェックしても異常はなく、フィアンセに話しても、らちがあきません。思いあまったレイニーは、テレビ局のカメラマンのピート(エドワーズ・バーンズ)に相談します。ピートはレイニーの価値観に対し常に批判的な態度で接し、仕事の上では犬猿の仲でしたが、そのときの彼女にとっては、わらにもすがる思いだったのです。

If you change the path you're currently on, the outcome is gonna be different.
「もし、きみが今の生き方を変えたら、結果は違ってくるはずだ」

PETE: Let's just say that Prophet Jack was right...you do in fact die next Thursday. But maybe if you change the path you're currently on, he outcome is gonna be different.
LANIE: But I've worked so hard on this one.
PETE: Well, you know what? Maybe that's your problem.

「預言者ジャックの言うことが正しくて、きみは次の木曜日に死ぬとしよう。でも、もしかして、きみが今の生き方を変えたら、結果は違ってくるはずだ」
「でも、わたしはそれに賭けてきたのよ」
「わかるか?それが問題なのかもしれない」

ピートはレイニーに人生には仕事より大切なものがあると説きます。そんなに張り切って仕事に励まずに‘何もしない一日を過ごしてはどう?’と、レイニーを誘って、別れた妻との小学生の息子と遊園地やレコード店へ行ったりします。そんな一日を過ごして、生き方を考え直したレイニー。それ以来、これまでの優等生的な振る舞いをやめ、自由で遊びのある型破りなレポートに徹します。ところが、皮肉なことに、それが世間の注目を浴び、ニューヨークのネットワーク局から声がかかります。仕事はメイン・キャスター。どうやら彼女の求めた完璧な人生は計画通りに進んでいたのです。

Glad you dressed for the occasion. We're doing a story on a homeless guy, and you wear a designer suit.
「この取材にそんな服装で。ホームレスの話を聞くのにデザイナー・ブランドか」

これは、ジャックと会ったときのレイニーの服装を非難したピートの言葉。彼の発言は的を得ていてレイニーの心を揺さぶります。そうはいっても、有頂天な彼女にとっては、完璧な人生計画しかないのでしょうか?
「トウームレイダー」でワイルドなレディを演じたアンジェリーナは、この映画では、デザイナー・ブランドが似合う‘ファッショナブル’なレディを演じます。
スティーヴン・ヘレク監督は「これは、満たされることによって救われる心をテーマにしている。人生で大事だと考える物事は、多くの場合、とても表面的だが、重要なのは自分の内側に平安を見つけることだ」と語ります。
いよいよ問題の木曜日、ニューヨークからレイニーのデビュー番組が全米に流れます。

原島一男(はらしま かずお)

初出:NHK英語教育番組テキスト「100語でスタート英会話」2003年10月号
    NHK出版
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2005年07月23日

「ティアーズ・オブ・ザ・サン」(Tears Of The Sun)

映画のなかの このシーン、このフレーズ」(8)
ティアーズ・オブ・ザ・サン」(Tears Of The Sun)

「内戦下のナイジェリアの難民キャンプで働く一人の女医を救出せよ」アメリカ海軍特殊部隊の新たな任務です。A.K. ウォーターズ大尉(ブルースウィリス)と7人の精鋭部隊にとっては、この任務はごくありふれたものであり、成功率の高いものでした。現地の悲惨な状況に遭遇したウォーターズ大尉が ‘命令違反’をするまでは。
「ティアーズ・オブ・ザ・サン」(Tears Of The Sun 2003年 監督:アントワン・フークア 脚本:アレックス・ラスカー&パトリック・シリーロ)は、ウォーターズ大尉と女医のリーナ・ケンドリックス(モニカ・ベルッチ)、それに難民たちとの心の交流を追い、戦争に翻弄される罪なき人々の姿を描きます。
  命令を受けて、ナイジェリアに潜入したウォーターズ大尉は反乱軍がせまっている教会へ到着、リーナ・ケンドリックスに面会します。

Lieutenant! Get those weapons out of my operation room.
「大尉!手術室にそんな武器を持ち込まないで」

WATERS: Dr. Kendricks, my name is Lieutenant Waters. I'm with the U.S. Navy. I'm here to get you and your people out.
SISTER GRACE: What are you talking about? We are in the middle of surgery here.
WATERS: Ma'am, I don't think you realize what's about to happen here.
LENA: Lieutenant! Get those weapons out of my operation room. You are frightening my staff. I'll be with you when I'm done. Now please, wait outside!

ドクター・ケンドリックス、私はウォーターズ大尉。アメリカ海軍です。あなたとスタッフを救出に来ました」
「何ですって?今、手術の最中です」
「これから、ここがどうなるかをご存じないようで」
「大尉!手術室にそんな武器を持ち込まないで。スタッフの人が怖がります。済みましたら、すぐにまいります。どうぞ、外でお待ちください」

ウォーターズ大尉の使命はリーナたちを12キロ離れた地点に移動し、そこから軍用ヘリコプターで国外へ運ぶという手筈でした。ところが、リーナは治療している患者を置き去りにはできないと主張。そこで、70名の患者のうち、限られた数の難民たちを率いて避難を開始します。その途中、ヘリコプターから見た村は、反乱軍の侵攻が始まり、地獄絵のような惨状を呈していました。このまま、現地を見捨てるわけにはいかない。ウォーターズ大尉は「ヘリを戻せ」と命令します。彼は指令部に追加のヘリコプターを要請しますが、難民援助は許されません。さらに悪いことに、この間に戦火は広がり、応援もないまま、敵地の中に取り残されてしまいます。カメルーンとの国境まで険しい山を越えて60キロ、彼らは徒歩で脱出しなければなりません。途中でリーナは、ウォーターズから問われるままに、夫と二人で医師が不足しているアフリカへ来たことを話します。

Feels like so long since I've done a good thing...the right thing.
「良いこと、正しいことをしてから、ずいぶん経ったような気がする」

WATERS: How did your husband die?
LENA: We were at the hospital. The rebels came. My husband tried to stop them to protect me, but he couldn't.
WATERS: I'm sorry.
LENA: You did a good thing today.
WATERS: I don't know if it was a good thing. Feels like so long since I've done a good thing...the right thing.

「どうしてご主人は亡くなられたのですか?」
「病院にいたときです。反乱軍が来て、主人は私をかばおうとしましたが、できませんでした」
「そうですか。無念です」
「今日、あなたは良いことをしたわ」
「それが良いことかどうかはわからない。良いこと、正しいことをしてから、ずいぶん経ったような気がする」

さて、カメルーンへ向かった一行は、ある村で反乱軍が家に火をつけ、出てきた村人たちを虐殺している現場に遭遇、ただちに交戦して村人たちを助けます。しかし、これはウォーターズ大尉の任務に反した行動でした。報告を受けたロード司令官とウォーターズ大尉の無線電話のやりとりです。

Your judgement has risked the lives of your men and the mission's success.
「きみの判断は隊員の命と作戦の成功を危険に落とし入れた」

CAPTAIN RHODES: (into radio) Your judgement has risked the lives of your men and the mission's success. I strongly advise you, complete the evacuation as planned. Do you read me?!
WATERS: Yes, sir, I read you. Loud and clear. But I cannot in good conscience do that without escorting these people to safety.
CAPTAIN R: That is not your mission!

「(無線機に)きみの判断は隊員の命と作戦の成功を危険に落とし入れた。強く助言する。
計画通りに避難を完了しろ。わかるか?」
「わかります。はっきりとわかります。しかし、私は、良心において、難民たちの安全の護衛なしには、そうはできません」
「それはきみの任務ではない!」

 ロード司令官は、難民たちを置き去りにして、女医リーナ・ケンドリックスと関係者だけを救出する作戦を計画通りに遂行することを命令します。窮地に立たされたウォーターズ大尉。国境へ向かうリーナと難民たち。情報を得た反乱軍の攻撃がせまります。

The only thing necessary for the triumph of evil is for good men to do nothing. (Edmund Burke)
「悪の勝利に必要なことはただひとつ、それは善人が何もしないことである」
(エドマンド・バーク)

これは映画の最後に示されるアイルランド生まれのイギリスの政治家であり思想家であったエドマンド・バーク(1729-1797)の言葉。
アントワン・フークア監督は「3か月の赤ん坊から84歳のお年寄りまで72人のエキストラを集めたが、彼らの多くはこの映画で描かれているような暴力からの生還者なのだ」と語っています。

原島一男(はらしま かずお)

初出;NHKテキスト「100語でスタート英会話
2003年11月号 NHK出版
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2005年07月22日

「すべては愛のために」(Beyond Borders)

「映画のなかの このシーン、このフレーズ」(10)
「すべては愛のために」(Beyond Borders)

イギリス人と結婚して、裕福な、しかし平凡な生活を送っていたアメリカ人のサラ(アンジェリーナ・ジョリ−)の運命を変えたのは、貧因と飢餓にあえぐ開発途上国からの生々しい報告でした。「すべては愛のために」(Beyond Borders 2003年 監督:マ−ティン・キャンベル 脚本:キャスビアン・トレッドウェル・オーウェン/サイラス・ナウレステ/ジェレミー・ブロック)は、サラが人生に訪れた転機をどう受け止め、自らの信念を貫いて行くかを、10年のスケールで、イギリス、エチオピア、カンボジア、チェチェンの映像で描くもの。1984年のロンドンで、華やかな慈善パーティの席へ、エチオピア難民の子供を連れて、突然飛び込んできた青年医師ニック(クライヴ・オーウェン)は、満場の参加者へこう訴えます。

I've got a camp with 30,000 people, dying at 40 a day.
「私のキャンプには3万人の難民がいるが、1日40人が死んで行く」

NICK: I've got a camp with 30,000 people, dying at 40 a day. I've got measles, typhoid, cholera, every miserable fucking disease known to man! Six weeks from now they'll all be dead!

「私のキャンプには3万人の難民がいるが、1日40人が死んで行く。 はしか、チフス、コレラなど知る限りの悲惨な病気がまん延している!今から6週間経ったら、全員死んでしまう!」

 これは現地で働く人のみが知っている悲痛な叫びです。このニックの言葉に強い衝撃を受けたサラは、自力で援助物資を調達して、数千キロも離れたエチオピアへ単身で向かいます。飢えと病気がまん延し、生死をさまよう避難民が立ち向かう現実は、正にニックの言う通りでしたが、同時にサラは、ささやかな善意では太刀打ちできない絶望的な状況を経験します。これはニックと政府関係者との会話です。

If we don't have enough food, they get desperate, they wreck the camp.
「食べ物が十分なかったら、彼らは絶望的になって、暴動を起こすのだ」

NINGPOPO: It is no good to jump from food to security. This is not coherent.
NICK: Not cohent! If we don't have enough food, they get desperate, they wreck the camp. That is a security issue.
NINGPOPO: Please, do not raise your voice.

「食糧から安全の問題へ行くのはよくない。話の筋が通らない」
「話の筋が通らないって!食べ物が十分なかったら、彼らは絶望的になって、暴動を起こすのだ。これは安全の問題だ」
「声を荒げないでください」

病気のまん延を防ぐ以外にも、食糧の確保、物資の供給、治安や安全の問題など山積みする問題の解決には、政府当局の対応はどうしても後追いになることはさけられません。全く、手のほどこしようもないのが現状でした。そんなニックにサラは、

I really admire you for the work you do.
(わたし、あなたの仕事に敬服するわ)

と言ってみますが、いらだつニックは、サラの言葉に耳を貸そうとしません。
死の危険と隣り合わせの日常の活動を続けるニックの関心は、そんな言葉よりは、医薬品や食糧などの直接的な援助物資に向かっているのは当然のことでした。しかし、そうであっても、ニックはサラの様子を見て、自分が失いつつあるものを感じていました。
壮絶な現地の生活になじめないと悟ったサラは、ロンドンへ戻り、人権関係団体の仕事を続けます。それから4年経ったある日、サラはカンボジアで救援を求めるニックの連絡を受け、再び、異国の地へ向かうことになります。エチオピアと同じか、それ以上の問題を抱えるカンボジアでは、不法な武器輸送やわいろの受け渡しなどが表面化しており、反乱軍の不意の襲撃にも身をさらすことになりました。そんな状態の中、サラはニックに心のうちを打ち明けます。

I worry about you.
「あなたのことが心配です」

SARAH: I worry about you. I'm worried that something's going to happen to you. Everyday for 4 years, every morning I wake up... and I wonder if you're okay. If you're still alive. Where you are.

「あなたのことが心配です。あなたに何かが起るか心配。いつも4年の間、毎日、朝になって目が覚めると、あなたは大丈夫かと、まだ生きているかとどこにいるのかと、、、」
 
ニックの返事は、

If I could live this life again, I would never leave you for a second.
(もし、次の人生があれば、あなたを一瞬とも決して離さない)

というものでした。
ニックとサラは別れる運命にありました。サラは結婚している上、ニックの現地の任務は常に命の危険を伴っていたからです。しかし、ニックと離れてロンドンへ戻ったサラは、その後、ニックがチェチェンの反体制勢力に誘拐されたと聞き、彼の元に行く決心をします。生死のしれないニックを求めて、雪深い厳寒の土地へ向かうサラ。そこには、さらに大きな運命のうねりが待ち受けていたのです。

この映画はアンジェリーナ・ジョリ−その人の実生活の投影ともいえます。2001年8月、彼女は国連難民高等弁務官事務所の親善大使に任命されたほか、マドックスと名づけたカンボジアの男の子を養子にしています。こうした行動は、晩年のオードリ−・ヘプバーンのユニセフへの貢献を思い起こさせます。アンジェリーナは、その後、オードリ−と同じように、シエラレオネ、タンザニア、カンボジア、パキスタン、エクアドルの難民救済キャンプを訪問しています。
第16回東京国際映画祭で来日したマ−ティン・キャンベル監督は、記者会見で、「アンジェリーナはこの作品との出合いで人生が変わった。撮影中もずっとマドリックスをつれていた」と語りました。

原島一男(はらしま かずお)

初出:NHKテキスト「100語でスタート英会話
2004年1月号 NHK出版
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2005年07月21日

「ハリウッド的殺人事件」(Hollywood Homicide)

「映画のなかの このシーン、このフレーズ」(12)
「ハリウッド的殺人事件」(Hollywood Homicide)

夢が叶い、夢が破れるハリウッドの一角のライブ・ハウス。熱気あふれる満員の会場で、突然、銃声が響き、人気のラップ音楽グループの4人が殺害されます。ただちに現場に駆けつけるのはベテランのジョ−・ギャビラン(ハリソン・フォード)と新人刑事のK.C. ・コールデン(ジョシュ・ハートネット)。「ハリウッド的殺人事件」(Hollywood Homicide 2003年 監督:ロン・シェルトン 共同脚本:ロン・シェルトン、ロバート・ソウザ)は、この風変わりで無能に見える刑事コンビが事件を解決するアクション・コメディーです。ロサンゼルス警察の殺人課(Homicide)に属する二人は、まず、クラブのオーナー(パーシー・ミラー)から話を聞きます。

These guys were about to break out, weren't they?
「彼らはブレイクしたところでしたね」

K.C.: Where were you when the shootings occurred?
JULIUS: In my office, right there.
K.C.: These guys were about to break out, weren't they?
JULIUS: Yeah, the boys was blowing up, man. Sartain Reconds. Antoine Sartain, that's the big man.

「発砲事件のときは、どこに?」
「事務所にいました。すぐそこの」
「かれらはブレークしようとしていたところでしたね」
「ええ、とても人気がありました。サルテイン・レコードで。アントン・サルテインが社長です」

・break out : ブレイクする/商業的な成功をおさめる
・blow up : とても人気がある  ・big man : 社長/オーナー

ジョ−はそのサルテイン(アイザイア・ワシントン)を訪ねることにしました。別のレコード会社へ移籍しようとするグループは殺されるという噂に、もっとも近いところにいるラップ界の大物です。

I can't afford to get too close to any of my acts.
「出演者とは親しくなるわけにはいかない」

JOE: You know these, uh, fellas personally?
SARTAIN: I can't afford to get too close to any of my acts. Sooner or later, I'll have to break their hearts and be the guy that doesn't renew their contracts.
JOE: Brutal business?
SARTAIN: Brutal business...Brutal.

「このグループを個人的に知っていますか?」
「出演者とは親しくなるわけにはいかないんだ。
遅かれ早かれ、彼らを失望させてしまう。
契約を切ることになるからね」
ビジネスは冷酷だから?」
「ビジネスは冷酷、そう、冷酷なもんだ」

・acts = 出演者 ・break their hearts = 失望させる/がっかりさせる
・brutal =残忍な/冷酷な

「ビジネスは冷酷だ」と言い切るサルテインの話を聞いて、ジョーの頭に、彼とこの殺人事件は関係がありそうだと予感がひらめきます。サルテインの話しぶりに不自然さが見えたからです。ジョーは、この線をもとにして、捜査を進めて行きます。が、犯人らしき男の焼死体が見付かり、事件は謎に包まれます。そうした中で、若いコールデンはジョ−に意外な告白をします。

Why do you want to do something stupid like acting?
「なぜ演技みたいなばかげたことをしたいんだ?」

K.C.: I want to be an actor.
JOE: You want to be what?
K.C.: An actor.
JOE: Why do you want to do something stupid like acting?
K.C.: Because it's my bliss. And I have to follow my bliss. I rented a theater on Highland, Friday night. I invited some agents and producers.

「私は俳優になりたいんです」
「何になりたいって?」
「俳優です」
「なぜ演技みたいなばかげたことをしたいんだ?」
「それは、この上ない喜びだからです。夢は追わなければならないんです。金曜の夜、ハイランド通リの劇場を借りて、エージェントやプロデューサーに見てもらいます」

・bliss =この上ない喜び/夢

コールデンは女性向けのヨガのインストラクターという副業も持っていましたが、もっと深く情熱を傾けるものがありました。それはテネシー・ウィリアムズの名作「欲望という名の電車」の主役を演じること。この目標に向かって、毎日、演技の練習に明け暮れていたのです。実は、ジョーのほうも不動産仲介という副業を持っていました。
映画は、ロデオ・ドライブやベニス運河などロサンゼルス名所のロケも交えて、副業が事件の解決を助けるという筋書きを描きます。それが『ハリウッド的殺人事件』なのでしょう。
ロン・シェルトン監督は「ハリウッドは文化的にも民族的にも多彩で複雑な街だが、伝説的なまでに誤解されている」とハリウッドへ熱い思いを隠してはいません。また、ハリソン・フォードの本格的なコメディーへの挑戦という点でも興味をそそります。

原島一男(はらしま かずお)

初出:NHK英語教育番組テキスト「100語でスタート英会話」
2004年3月号 NHK出版
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2005年07月20日

「卒業の朝」(The Emperor's Club)

映画のなかの このシーン、このフレーズ」(13)
「卒業の朝」(The Emperor's Club)

アメリカの小説家イーサン・ケイニン原作の短編「宮殿泥棒」を映画化した「卒業の朝」(The Emperor's Club 2002年 監督:マイケル・ホフマン 脚本:ニ−ル・トルキン)。
ワシントンDCからやや離れたバージニアにある寄宿制の聖べネディクト校で、古代ローマ史を教えるウィリアム・ハンダート(ケビン・クライン)とその生徒たちの日常と数十年後の顛末を描きます。映画の最初にハンダートはこう語ります。

A man's character is his fate.
「人格は宿命である」

HUNDERT: A man's character is his fate. And as a student of history, I find this hard to refute. For most of us, our stories can be written long before we die. There are exceptions among the great men of history, but they are rare. And I am not one of them...I am a teacher. I'm simply that. I taught for 34 years.   

「人格は宿命である。歴史を学んでも、この言葉に反論することはむずかしい。我々のほとんどは、その一生を前もって予想することはできる。歴史上の偉人に例外はあるが、それはまれである。私は偉人ではないが。単なる一介の教師だ。34年間、教鞭をとっただけの」

「人格は宿命である」はへラクレイトスの言葉。何度つまずいても教師は望みを捨てない、教育には人を変える力がある、を信じるハンダート。彼の人生は学校そのものであり、教え子にとって先生とは人生を導く光であるという信念です。そこへ、ひとりの生徒セジウィック・ベル(エミール・ハーシュ)が現れます。ベルは13歳、勉強はしない、いたずらはするという強烈な個性を持ち主で、ほかの生徒の前で平然と教師を侮辱したり、禁止されていることを平気でやってのけるという問題児でした。二人の会話です。

I don't know what you think you're doing at St. Benedict's.
「きみが聖べネディクトでどういうつもりでやっているのか知らないが」

HUNDERT: Mr. Bell...I don't know what you think you're doing at St. Benedict's, but this is unacceptable work. You must apply yourself...
SEDGEWICK: You're not married, are you, sir...
HUNDERT: No, I am not.
SEDGEWICK: That's why you like putting us all in togas, right?

「ベル君、きみが聖べネディクトでどういうつもりでやっているのか知らないが、到底受け入れることではない。態度を改めないと、、、」
「先生は独身ですよね?」
「独身だ」
「だから、ぼくたち全員にト−ガを着させるんですね」

・togas =ト−ガ(古代ローマの服装)

ハンダートは個人的にセジウィックに説教をしましたが、この差し迫った状況にもかかわらず、セジウィックにとっては何の影響をも与えません。思いあまったハンダートは父親のベル上院議員に訴えることにしました。ワシントン郊外の議員事務所を訪れたハンダートは、父親に向かって、セジウィックが勉強に身が入らないことを説明します。

You're not gonna mold my boy...Your job is to teach my son.
「きみは息子の人格形成はするのではない。きみの仕事は教えることだ」

HUNDERT: Sir, it's my job to mold your son's character, I think if...
SENATOR: Mold it? Jesus, God in heaven, son, you're not gonna mold my boy...Your job is to teach my son. To teach him his times tables, to teach him why the world is round, to teach him who killed who, and when, and where. That is your job. Yes, sir...will not mold my son. I will mold him.

・Jesus, God in heaven, son, = (お若い方、そうではありませんよ)

「私の仕事はご子息の人格を形成することでありまして、、、」
「人格形成だって?それは違う。きみは息子の人格形成はするのではない。きみの仕事は教えることだ。掛け算を教えて、なぜ地球が丸く、誰が誰をいつ、どこで、殺したかを教える。それがきみの仕事だ。人格形成じゃない。人格形成はわたしの仕事だ」

 ハンダートにとって、この意見は意外なもので、当惑せざると得ませんでした。しかし、父親の忠告もあり、このあと、セジウィックは日増しに勉強に熱中するようになり、学期の終わりを飾る「ジュリアス・シーザ−・コンテスト」へ進出するほどの成績を挙げるほどになりました。これは全校生徒や両親の前で、候補者が古代ローマに関する質問に答え、優勝者の名前は永遠に保存されるという聖べネディクト校の恒例の行事です。
 ところが、そのコンテストのとき、思いもかけぬ出来事があり、ハンダートの使命感、寛容さ、忍耐さが大きく揺さぶられることになりました。
 それから25年経って、ハンダートはセジウィックと再会するのですが、、、

(原島一男 はらしま かずお)

初出:NHK英語教育番組テキスト「100語でスタート英会話」2004年4月号 
   日本放送出版協会
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2005年07月19日

「ゴッド・ディ−バ」(God Diva)

「映画のなかの このシーン、このフレーズ」(14)
「ゴッド・ディ−バ」(God Diva)

近未来のニューヨーク・マンハッタン。セントラルパークは雪と氷に覆われ、高層ビルの間をグロテスクなフライング・カーが行き交います。人工臓器や合成皮膚によって作り直された人間が生き永らえ、宇宙から襲来したエイリアンと一緒に混然とした生活を営んでいます。
「ゴッド・ディ−バ」(God Diva 2004年 監督:エンキ・ビラル 脚本:エンキ・ビラル、セルジュ・レ−マン)は、臓器製造を独占している巨大企業ユージニックス社の実験人体であるジル・ビオスコップ(リンダ・アルディ)と冷凍冬眠として捕らえられている政治犯アルシッド・ニコポル(トーマス・クレッチマン)の物語です。
ある日、ニューヨークの上空に巨大なピラミッドが飛来、中にいたのは、鷹の頭を持つ古代エジプトの神ホルス。反逆罪により他の神々から死刑を宣告されましたが、7日間の猶予を与えられ、ニコポルのところへ来ます。

Your body is clean. You come from the past. Thirty years of hibernation...
「きみの身体はきれいだ。きみは過去から来た。30年間の冬眠で」

HORUS: Listen carefully, I won't say it twice...I need a body to welcome me and serve me. You seem to be suitable. I've tested seven humans before you and rejected them all...But you, your body is clean. You come from the past...Thirty years of hibernation...Your body won't reject me. We are compatible.

 「いいか、よく聞け、二度は言わない、、、私は、私を受け入れ、私に奉仕する人間の身体を探している。きみはそれにふさわしいようだ。これまでに7人をテストしたが、全員不合格だった。きみの身体はきれいだ。きみは過去から来た。30年間の冬眠で、、、きみの身体は私を拒否しないだろう。私と融合できる」

ホルスは、ひとりの女性を探していましたが、それには、人間の肉体を持つ必要がありました。そして、ホルスはニコポルに失った片足を与えると、神の力を借りて、ニコポルの身体に乗り移ります。こうして、30年の冬眠から目覚めたニコポルは、再び人間の世界で生きる能力を授かったのです。
一方、肉体を改造された人々の治療にあたる女医エルマ・ターナー博士(シャーロット・ランプリング)は、クリニックを訪れたジルに興味を覚えます。

I've never seen such a heart, lunge, or a womb like that...Never.
「これまでに、こんな心臓や肺、子宮を見たことはありません」

DR TURNER: I've never seen such a heart, lunge, or a womb like that...Never.
JILL: You mean you really haven't seen anything like me before!
DR TURNER: You're built like someone who was born less than three months ago...Maybe that's what you want to forget? Or what you're not sure about? When did you get to New York?...And how?

「これまでに、こんな心臓や肺、子宮を見たことはありません」
「私のようなものを見たことがないということですか!」
「あなたは3か月以内前に生まれた子供みたいです。でも、そんなことを忘れたいんでしょ?
それとも、それもわからない?いつニューヨークへ来たの?どのようにして?」

ジルは孤独でした。自分が何者で、どこから来たのかも知りません。ターナー医師は、その謎を説くために全力を挙げようと決心します。ジルの髪の色はブルー、唇も青く、流す涙も青。世界のどこにも存在しない肉体を持っていました。そんなジルは、ある深夜バーで、ニコポルと出会います。

You're expecting something from me...The answer is No.
「何かを期待していらっしゃるの?答はノーですわ」

NIKOPOL/HORUS: I like your hair. It's very nice...It goes very well with...white skin. Is it a new thing in make-up? Kabuki style maybe? You must be an actress.
JILL: You're expecting something from me...The answer is No.
N/H: You're going to need someone to take you home.
JILL: What makes you think that?
N/H: You have no other choice. One for the road.

「あなたの髪がステキだ。すばらしい。白い肌によく合ってる。新しい化粧法? もしかして歌舞伎スタイル? あなたは女優さんですよね」
「何かを期待していらっしゃるの?答はノーですわ」
「あなたを家まで送り届ける誰かが必要だ」
「なんでそう思うの?」
「そうなんだ。ほかにはない。さあ、飲んで出掛けましょう」

・ One for the road. =バーなどで「出る前に一杯」という決まり文句

こうして、ジルとニコポルの間に愛が芽生え、彼女の孤独な心は次第に解き放たれて行きます。しかし、ホルスに与えられたタイムリミットが近づくにつれ、ジルとニコポルに途方もない危険や難題が押し寄せてきます。

エンキ・ビラル監督はフランスでバンド・デシネ(BD)と呼ばれるグラフィック・アートの巨匠。この映画は、彼の未来世界ヴィジュアルの代表作「ニコポル三部作」(不死者のカーニバル、罠の女、冷たい赤道)の題材をとりいれ、SF作家のセルジュ・レ−マンの協力で完成しました。舞台をパリからニューヨークへ変え、英語のセリフにしています。

原島一男(はらしま かずお)

初出:NHKテキスト「100語でスタート英会話」2004年5月号
   日本放送出版協会
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2005年07月18日

「アイ・アム・デビッド」(I Am David)

映画のなかの このシーン、このフレーズ」(23)
「アイ・アム・デビッド」(I Am David)

その少年は、危険を顧みず、いわれるままに、ひとりで北へ向かう。
「アイ・アム・デビッド」(I Am David 2004年 監督/脚本:ポール・フェイグ 原作:アン・ホルム)は、ブルガリアの強制収容所から脱走した12歳の少年が、幾多の危険を乗り越えながら、人々の善意にふれる物語。1945年から10年にもわたって、東ヨーロッパの共産主義国では、反政府運動を抑える理由で、何千人もの罪のない人々が、秘密警察に捕らわれ、家族を引き離され、自由を奪われて、過酷な労働を強いられていました。そのひとりがデビッド(ベン・デイバー)。生きる希望のない環境であっても、デビッドのそばには、いつも何かと勇気づけてくれる父親のような存在のヨハン(ジム・カヴィーゼル)がいました。ある夜、ヨハンはデビッドに、そこから逃亡してデンマークへ行くように勧めます。

What am I going to find in Denmark?
「デンマークには何があるの?」

DAVID: I'm afraid.
JOHANNES: There are places where the world is good. I've seen them. A long time ago, but I have seen them. You will, too.
DAVID: Why didn't you come with me?
JOHANNES: This is your journey. I have my own.
DAVID: But what am I looking for? What am I going to find in Denmark?
JOHANNES: Freedom.
DAVID: But I don't even know who I am.

「ぼく、恐いよ」
「世の中には良い場所がある。私は、それを見たことがある。ずっと前だったけど、見たことがある。きみも見るんだ」
「ぼくと一緒に行こうよ」
「これはきみの旅だ。私には私の旅がある」
「でも、何があるの?デンマークには何があるの?」
「自由さ」
「でも、ぼくは自分が誰だかも知らないんだ」

 そうはいっても、見張りが厳重な収容所から逃げ出すことは命を賭けることでした。それでも、そのままでは人生を切り開くことが出来ないと悟ったデビッドは、鉄条網で厳重に張り巡らされたフェンスを乗り越え、警戒中の兵隊からの射撃をかわし、国境を越え、ギリシャからイタリアへ向かう貨物船へ潜り込みます。しかし、どこに居ても、デビッドは決して安全ではありません。一見、親切そうにみえても、そうでない人もいました。それでも、デビッドは、善意の人たちの助けを借り、小さな磁石をたよりに北の方向へ冒険の旅を続けます。あるときは、偶然、イタリア人の少女マリアの命を救ったこともありました。裕福で幸せな家族に囲まれたマリアに、デビッドはこんなことを話します。

The world is filled with terrible people, Maria...and they all do terrible, evil things.
「世の中って、恐ろしい人で溢れている。みんな恐ろしく、悪いことをしている」

DAVID: There's a lot of people I don't like.
MARIA: Why not?
DAVID: Because the world is filled with terrible people, Maria...and they all do terrible, evil things...I've seen them.
MARIA: You don't think that we are terrible people, do you?
DAVID: No, not at all.

「ぼくには好きになれない人がたくさんいる」
「なんで?」
「マリア、世の中って、恐ろしい人で
溢れているから。みんな恐ろしく、悪いことを
している。ぼくは、この目で見た」
「わたしたちは恐ろしい人たちではないでしょう?」
「全然。恐ろしくないよ」

デビッドは、収容所で体験したことを決して忘れることができません。デビッドの盗みをかばって、銃殺されたヨハンのこと、無理矢理に引き離されてしまった母親のことなどが脳裏に焼き付いていました。デビッドにとって、マリアの母親は、自分の母親を思い出させます。このままずっと、マリアの家に居てもいいと言われたデビッドでしたが、いつ、誰かに捕まるかと不安に脅える彼は、そっと、その家をあとにします。そんな心の痛手を背負いながら、旅を続けるデビッドは、スイスとの国境に近い山の草原をさまよっているとき、美しい自然の景色を写生しているソフィア出会います。芸術家はだのソフィアは、どこか寂しげな表情ながら、強い意志を持っているデビッドのただならぬ様子に気づきます。いろいろな話を続けるうちにデビッドは、ソフィアになつき、心を打明けます。

I wouldn't dream of turning you in to anybody for any reason.
「あなたを誰かに引き渡すなんて、思ってもみなかったわ。どんな理由があっても」

DAVID: Please...don't turn me in.
SOPHIE: Turn you in to whom?
DAVID: To them. To him...to anyone.
SOPHIE: I wouldn't dream of turning you in to anybody for any reason. You're quite safe here, David. You're safe.
DAVID: I want to tell you everything, Sophia, but I can't...I just can't.

「お願い、引き渡さないで」
「引き渡すって、誰に?」
「誰にでも。誰かに」
「あなたを誰かに引き渡すなんて、
思ってもみなかったわ。どんな理由でも。
デビッド、ここなら、とても安全よ。
安全なのよ」
「ソフィア、ぼくは何でも全部話したいけど、
それができないんだ。できない」

 収容所でのヨハンとの思い出を振り返って、デビッドはソフィアにこう言います。

My friend Johannes always used to tell me. "Trust no one."
「ぼくの知っているヨハンは、いつもこう言っていた。『誰も信用するな』って」

デビッドの旅は、まだ、半分の距離しか達成されていませんでしたが、ソフィアとの出会いは、デビッドの運命を大きく変えることになりました。
東欧の強制収容所の現実をもとに、多感な少年が辿った体験を綴ったこのアン・ホルムのフィクションは、1963年にデンマークで発表された後、18か国語に翻訳され、世界的ベストセラーになりました。ポール・フェイグ監督は「デビッドは、自分が誰で、どこから来たのか、どこにいるべきなのか、何も知らない。見知らぬ土地で生き抜くことだけでなく、人を信用することを覚えなければならない。世の中には、自由を得るために多くのことを犠牲にしなければならないこともあるのです」と語っています。

原島一男(はらしま かずお)

初出:NHK英語教育番組テキスト「100語でスタート英会話」2005年2月号
   日本放送出版協会
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2005年07月17日

「トスカ−ナの休日」(Under the Tuscan Sun)

「映画のなかの このシーン、このフレーズ」(15)
「トスカ−ナの休日」(Under the Tuscan Sun)

 「わたしは外国に家を買おうとしている。プラマソ−レという美しい名前をもつ家だ」
アメリカ国内で200万部を記録した詩人/紀行作家フランシス・メイズのベスト・セラー『イタリア・トスカ−ナの休日』(早川書房 宇佐川昌子訳)はこう始まります。
 これを映画化したのが、「トスカ−ナの休日」(Under the Tuscan Sun 2003年 監督/脚本:オードリ−・ウェルズ)。プラマ−レは「焦がれる」というイタリア語。「太陽」をあらわすソ−レとともに「太陽を焦がれるもの」となり、主人公のフランシス(ダイアン・レイン)その人を意味します。離婚のショックから立ち直るために訪れたトスカ−ナで、フランシスは小高い丘に建つ“プラマソ−レ”に出会います。この不動産を紹介したマテイニ(ヴィンセント・リオッタ)との会話。

You're the stupidest woman in the world! You bought a house for a life you don't even have.
『世界で一番おろかな女!まだ、手に入れていない生活のために家を買うとは』

FRANCES: I wake up in the night, thinking: "You idiot! You're the stupidest woman in the world! You bought a house for a life you don't even have."
MARTINI: Why did you do it, then?
FRANCES: Because I'm sick of being afraid all the time. I still want things. I want a wedding in this house, and...I want a family in this house.

「夜、目がさめると考えるの、『ばかな私!世界で一番おろかな女!まだ、手に入れていない生活のために家を買うとは』
「では、なぜ買ったんですか?」
「いつも怯えることに飽き飽きしているから。まだ、わたしは欲しいものがあるの。この家で結婚式をあげて、この家で家族をもちたいのよ」

・You idiot! You're the stupidest woman in the world! You bought a house for a life you don't even have. =自分自身への言葉であるが、you を主語にする英語独特の表現

 サンフランシスコの大学で教鞭をとるフランシスでしたが、そこから1万キロ以上も離れたイタリア・トスカ−ナ州のコルトーナで見つけた不動産は、5エーカー(6,000坪)の土地に建つ築300年の古い家。彼女は、毎年数カ月ずつ滞在して、長年にわたって使われていなかった家と土地に命を吹き込み、よみがえらせていきます。荒れ果てた室内を住めるように改造したり、敷地内のオリーブなどの果樹園を手入れするのは、並み大抵の仕事ではありません。その仕事は、フランシスの強い信念のもと、現地で出会った多くの人々の協力によって、成し遂げられていくものでした。そんなとき、家の装飾品を探しに出掛けたローマで、フランシスはマルチェロ(ラウル・ボヴァ)というイタリア青年と知り合いになり、つかの間のドライブを楽しみます。二人の会話。

If you smash into something good, you should hold on until it's time to let go.
「なにか良いことに出会ったら、それが終わるまでは、そのままにしておくものだよ」

MARCELLO: I run into you in the street in Rome...and now we're here.
FRANCES: Didn't you have plans? Didn't you have something you had to do?
MARCELLO: So what? If you smash into something good, you should hold on until it's time to let go.

「ぼくたちはローマで出会って、今ここにいる」
「予定はなかったの?なにか用事はなかったの?」
「それが何なの?なにか良いことに出会ったら、それが終わるまでは、そのままにしておくものだよ」

 いかにも世慣れたプレイボーイらしい言葉。それにつられてか、フランシスは、知らず知らずの間に、プラマソ−レで結婚式をあげ、家族をつくることまでを夢みていくのですが、   これは、すべてが終ってからの彼女のモノローグです。

The house protects the dreamer.
「この家は夢をはぐくんでいるわ」

FRANCES: They say they built train tracks over the Alps...before there was a train that could make the trip. They built it anyway. They knew one day the train would come...The house protects the dreamer...Unthinkably good things can happen, even late in the game. It's such a surprise.

「こういう話があるの。アルプス越えの路線を作ったときのこと。まだ、そこを走る汽車が
なかったのに、とにかく線路だけ敷いたの。いつか、汽車が走ることがわかっていたのね。
この家は夢をはぐくんでいるわ。歳を重ねてからでも考えられないほどの楽しいことがあるわ。大きな驚きだわ」

・ late in the game =ゲームの終りになって/歳をとってから

 フランシスにとって、プラマソ−レは夢をはぐくみ、成長させてくれる場所となりました。ただ古い家を修復するだけではなく、その過程で経験するさまざまな人々との触れ合いによって、フランシスは、彼女の自己発見をも果たしていきます。トスカ−ナ地方特有のなだらかな丘陵に囲まれた、豊かな、ときには、荒々しい自然のもとで。

原島一男(はらしま かずお)

初出:NHK英語教育番組テキスト「100語でスタート英会話
2004年6月号 日本放送出版協会
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2005年07月16日

「ミリオンダラー・べイビー」(Million Dollar Baby)

「映画のなかの このシーン、このフレーズ」(28)
「ミリオンダラー・べイビー」(Million Dollar Baby)

 2004年度アカデミー作品・監督・主演女優・助演男優賞を受けた「ミリオンダラー・べイビー」(Million Dollar Baby  2004年 監督:クリント・イーストウッド 脚本:ポール・ハギス 原作:F・X・トウール)。家族の愛情に恵まれない女性ボクサーと彼女の老トレーナーの心の交流を描きます。
 ロサンゼルスのダウン・タウンでボクシング・ジムを経営するフランキー・ダン(クリント・イーストウッド)を訪ねてきたのは30歳を越えたマギー・フィッツジェラルド(ヒラリー・スワンク)、不遇な人生の中で自分が身をたてられるのはボクシングしかない、との想いで、ミズリー州の片田舎を出てきたのです。

Tough ain't enough.
「タフだけではダメなんだ」

MAGGIE: Mr. Dunn...I was on the undercard, won my fight, too.
FRANKIE: Good for you.
MAGGIE: You happen to see it?
FRANKIE: Nope.
MAGGIE: I did pretty good. Thought you might be interested in trainin' me.
FRANKIE: Don't train girls.
MAGGIE: Maybe you should. People see me fight say I'm pretty tough.
FRANKIE: Girlies, tough ain't enough.

「ダンさん、前座試合に出て、勝ちました」
「それはよかった」
「ご覧になられました?」
「いや、見ていない」
「かなりよくやったの。それで、私のトレーニングをお願いできないかと」
「女は教えない」
「お願いできないでしょうか?私を見た人は、とてもタフだと言ってくれます」
「お嬢さん、タフだけではダメなんだ」

・ unndercard =ボクシングの前座に行う試合
・ girlies =女性への呼び掛け

 フランキー・ダンは多くの世界チャンピオン級ボクサーを育てていました。ウエイトレスで身をたてながら、すでに3年間、練習を積み重ねて来たマギーは、フランキーのすげない対応にも屈せず、毎日、ジムへ通い続けます。そこで一緒に働いている元ボクサーのスクラップ(モーガン・フリーマン)は、マギーがバッグを打っているのを観て、「バッグと思うな、人だと思え、常に動き回れ」などと彼女を励まし、何かと面倒をみるのです。そうして、スクラップのアドバイスもあり、フランキーもマギーの真剣な願いに応える日がやってきます。彼は「質問をしないことと泣き言を言わないこと」を条件に、マギーを指導することに同意します。

It's not about hitting hard. It's about hitting right.
「強く打つことじゃない、正しく打つことだ」

FRANKIE: Now, move your feet...
MAGGIE: Move 'em how, boss?
FRANKIE: Hit the bag...Stop!
MAGGIE: What'd I do wrong?
FRANKIE: Two things...first you asked me a question, then you asked another one. Step aside. It's not about hitting hard. It's about hitting right.

「さあ、脚を動かせ」
「ボス、どういうふうにですか?」
「バッグを打て、、、だめだ!」
「わたし、何か間違いを?」
「二つした。最初に質問をした、それから、また質問した。やめろ。強く打つことじゃない、正しく打つことだ」

フランキーを‘ボス’と呼ぶマギーのボクシングは、その日から急速な進歩を遂げ、ロンドンの国際大会などでも活躍するようになっていきます。経済的にも余裕が出てきたマギーは、生活保護を受けている故郷の母親と家族のために家を買います。ところが、フランキーと一緒にその家を訪ねたマギーが母親に鍵を渡すと、彼女は喜ぶ代わりに
「家より金をくれればよかった」
(Why didn't you just give me the money, why did you have to buy a house?)などと言って、マギーを失望させます。
そのあとのドライブ中に見かけたレストランはマギーの思い出の場所でした。

Is this place for a sale? 'Cause I have some savings.
「ここは売りに出ているか?貯金があるんだがな」

MAGGIE: I got nobody but you, Frankie.
FRANKIE: Yeah, you got me...Till we find you a manager.
MAGGIE: Can you stop just up there?
FRANKIE: I could die a happy man right now.
MAGGIE: I used to come here with Daddy.
FRANKIE: Is this place for a sale? Cause I have some savings.

「もう頼れるのはあなただけよ、フランキー」
「うん、確かにそうだ。ただ、マネージャーがみつかるまでだ」
(レストランを指して)「そこで停まれる?」
「こうなって、わたしは幸せに死ねる」
「ここへパパとよく来たの」
「ここは売りに出ているか?貯金があるんだがな」

 フランキーには、ひとり娘がいましたが、今は離ればなれ。マギーをみていると、フランキーの心のうちには、そんな環境を耐え忍びながら生きている自分の孤独感が忍び寄るのでした。
 さて、フランクがボクシング選手の心得として、いつもマギーに言い続けている言葉があります。

Protect yourself at all times.
「どんなときでも自分を守ること」

 マギーはいつもフランキーの言葉を忠実に守っていました。ところが、100万ドルの賞金を賭けたラスベガスのタイトル・マッチの日、神は二人に思いがけない試練を与えます。この映画は、この過酷な試練に対するマギーとフランキーの葛藤のドラマです。
 フランキーを演じると同時に監督も務め、音楽も担当したクリント・イーストウッドさんは「これは父と娘のラブストーリーだ。マギーは彼の人生の中で欠けている娘となり、フランキーは彼女が幼くして亡くした父親になっていく」と語っています。
 また、ヒロインのヒラリー・スワンクさんは「ボクシングは人生のようなもの。リングにいるときに、その瞬間を生きることが‘人生の今’を生きることと同じなの」と語っています。

 原島一男(はらしま かずお)

初出:NHK英語教育番組テキスト「100語でスタート英会話」2005年7月号
    日本放送出版協会
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2005年07月15日

「ビフォア・サンセット」(Before Sunset)

「映画のなかの このシーン、このフレーズ」(24)
「ビフォア・サンセット」(Before Sunset)

 忘れられない人に再会したとしたら、あなたはどうします?
その答が「ビフォア・サンセット」(Before Sunset  2004年 監督:リチャード・リンクレイタム 脚本:リチャード・リンクレイタム/ジュリー・デルピー/イーサン・ホーク)で、求められるかもしれません。
 女子大生だったセリーヌ(ジュリー・デルピー)が、ヨーロッパを旅行中のアメリカ人青年ジェシー(イーサン・ホーク)と列車内で出逢ったのは、9年前のこと。その瞬間、二人は恋に落ちますが、連絡先を教え合わずに別れてしまいます。その後、ニューヨークで作家になったジェシーは今、12日間で10カ国をまわる新作のプロモーション・ツアーでパリを訪れ、記者の質問に答えています。

Was there ever a French young woman on a train you met and spent an evening with?
「あなたは、フランスの若い女性と列車内で出会い、一夜を共にしたことがありますか?」

FRENCH FEMALE JOURNALIST: Was there ever a French young woman on a train you met and spent an evening with?
JESSE: See, to me...that's not important, you know?
JOURNALIST: So that's a yes.
JESSE: All right, since I'm in France and this is the last stop of my book tour, yes.

「あなたは、フランスの若い女性と列車内で出会い、一夜を共にしたことがありますか?」
「わたしにとっては、それは、そんなに重要でないんです」
「というと、お答えはイエスですね?」
「そうですね。ここはフランスですし、作品紹介ツアーの最後の場所ということで、イエスと答えましょう」

 この質問をした女性記者は、ジェシーの本が実話をもとにしたフィクションかどうかに興味を持ったわけです。ところが、驚いたことにその席には、その恋の体験をジェシーと実際に分け合ったセリーヌその人がいたのです。思わぬところで、セリーヌに再会するという予想外の成り行きのなか、ジェシーは、1時間半後に出発する飛行機に乗らなければ、と焦りながらも、セリーヌをひとりにしてしまうわけにはいきません。夕暮れせまるパリの街を歩きながら、二人の会話が続きます。

That book that I wrote was like building somethingノ
「ぼくは、あの本を書くことで、なにかを作りたかった」

JESSE: I think that book that I wrote was like building somethingノso that I wouldnユt forget the details of the time that we spent together. You know, like just as a reminder that once we really did meet. You know, that this was real, this happened.

「ぼくは、あの本を書くことで、なにかを作りたかった。そうすれば、一緒にいた時間の
すべてを覚えていられる。ふたりが確かに会ったという思い出として。あれは現実に起こったんだ、と」

 こう語るジェシーは、ニューヨークで結婚して子供がひとり。30歳を越えたセリーヌは未婚、環境保護の活動家として、報道カメラマンの恋人とパリで暮らしています。そのセリーヌは、始めてのジェシーとの出逢いをこんなふうに話します。

I put all my romanticism into that one night...
「わたし、わたしの恋愛感情のすべてをあの夜にささげたわ」

CELINE: I put all my romanticism into that one night...and I was never able to feel all this again. Like, somehow this night took things away from me... I expressed them to you and you took them with you.
JESSE: I don't believe that...I don't believe that.
CELINE: You know what? Reality and love are almost contradictory for me.

「わたし、わたしの恋愛感情のすべてのあの夜にささげたわ。それで、もう同じようには
感じなくなったの。あの夜が、わたしからすべてのものを持ち去ったんだわ。わたしは
すべてをあなたに伝えて、あなたがそれを持って行った」
「信じられないよ。そんなことは」
「わかるかしら?現実と恋は、わたしのなかでは、ほとんど矛盾してるの」

 お互いの気持ちを試し合うような会話であっても、セリーヌもジェシーも相手への強い思いを断ち切ることはできません。しかし、そうであっても、そこには9年間もの空白という現実がありました。会う努力をしなかっことへの激しい後悔の念にかられるものの、今となっては、どうすることも出来ないと、セリーヌ。

The past is the past. It was meant to be that way. The world might be less free than we think.
「過去は過去。そんなものよ。世の中って、思いどうりには行かないものよ」

 セリーヌのこの言葉は、「ローマの休日」(1953年)で、グレゴリー・ペックがオードリー・ヘプバーンに訴えた Life isn't always what one likes.(人生は自分の思うようにならない)という言葉を思い出させます。時代は50年も前で、置かれた状況も異なるにもかかわらず、“かなわぬ恋のせつなさ”を同じように表現していたのです。

 さて、「ビフォア・サンセット」で再会した二人の恋の行方は、どうなるのでしょう?この後があるのです。ギターをひきながら、セリーヌが気持ちを託す歌声が逸品。

 「ビフォア・サンセット」は「恋人までの距離」(1995年)の続編として作られました。リンクレーター、ジュリー・デルピー、イーサン・ホークの三人は、2年をかけて、離ればなれの場所から、電子メールで意見を交換しながら、脚本を共同執筆したということです。

原島一男(はらしま かずお)

初出:NHKテキスト「100語でスタート英会話」2005年3月号
日本放送出版協会
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2005年07月14日

「ブリジット・ジョーンズの日記」(Bridget Jone's Diary)

「映画のなかのちょっといいセリフ」(7)
「ブリジット・ジョーンズの日記」(Bridget Jone's Diary)

 1995年、ロンドンで暮らす32歳の独身女性の‘架空の’日記が新聞に連載されました。ジャーナリスト、ヘレン・フィールディング作。その後、刊行された小説は、特に女性からの、爆発的な共感を呼び、イギリス、アメリカ、日本など20カ国以上でベストセラーに。「とってもブリジット的!」Very Bridget Jonesy! という言葉が生れたほどでした。
映画「ブリジット・ジョーンズの日記」(Bridget Jones's Diary 2001年 シャロン・マグワイア監督 ヘレン・フィールディング/アンドリュ−・デイビィス/リチャード・カーティス脚本)のヒロインを演じるのはレニ−・ゼルウィガー。アメリカのテキサス州生まれ。イギリス英語を学んだり、素性を隠してロンドンの出版社に2週間も勤務したりしてブリジット・ジョーンズになりきる努力をしました。彼女の日記はこう始まります。

I will find a nice, sensible boyfriend to go out with...
「優しい、思いやりのあるボーイフレンドを見つけて、つき合うこと、、、」

BRIDGET:I decided to take control of my life and start a diary...
Resolution 1:..obviously will lose twenty pounds.   
      2: always put last night's pants in the laundry basket.         
Equally important, will find a nice,sensible boyfriend to go out with...   

「自分の生活をコントロールすることを決めて、日記をつける。
決意1:必ず、20ポンド減量すること。
2:いつも、昨夜の下着を洗濯かごへ
入れること。同じように大事なのは、優しい思いやりのあるボーイフレンドを
見つけて、つき合うこと、、、」

・ pants = underwear
・sensible  = 思いやりのある

 このほか、飲み過ぎない、働き過ぎない、物事に夢中になり過ぎない、空想に耽らない、などをブリジッドは決意します。といっても、現実の生活はそうは行きません。彼女には、すでに空想に耽る人がいたのです。それは、出版社の上司ダニエル・クリ−ヴァ−(ヒュ−・グラント)。ミニ・スカートで出勤したブリジットに得意のユーモアでせまってきます。 最初はe-mail で、それから、次の言葉で。

I thought it might be a charitable thing to take your skirt out for dinner.  
「きみのスカートが可哀想なので、ディナ−に連れて行こうと思って」

CLEAVER: Listen, what are you doing, tonight? 
BRIDGET: Actually I'm busy.          
CLEAVER: Oh, right. Well, that's a shame. I just...I thought it might be a charitable thing to take your skirt out for dinner.Try and fatten it up a bit.        Maybe you could come, too? What about tomorrow?         
BRIDGET: No.                 
CLEAVER: Ah. Next night?       
BRIDGET: Let's see, shall we?      

「ねえ、今夜はなにをするの?」
「忙しいの。実は」
「ああそうか、それは残念だ。ほら、あの、きみのスカートが可哀想なので、ディナ−に連れて行こうと思って。ちょっと、元気づけようかと。よかったら、きみもどう?
明日の夜は?」
「だめ」
「そう、あさっての夜は?」
「そうねえ、行きましょうか?」

・ a charitable thing = 惜しまず施しをすること/可哀想だから施すこと

 結局、ブリジットはダニエルの誘いを断りきれず、お決まりの結果になってしまいます。これではいけない、とあせる彼女。それでも、彼女にとって気になる存在は離婚歴のある弁護士マーク・ダ−シー(コリン・ファース)でした。彼はダニエルの旧友です。最初、波長が合わなかったブリジットとマークでしたが、いろいろあって、、、ある夜。

I realized I'd forgotten to kiss you goodbye.
「きみに別れのキスをするのを忘れていたことに気づいた」

BRIDGET: I thought you were in America.     
DARCY: Well. yes, I was, but... then I realized I'd forgotten something back home.      
BRIDGET: Which was?             
DARCY: Well, I realized I'd forgotten to... kiss you goodbye.
Do you mind?  
BRIDGET: Not really, no. So -- you're going to America, then?  
DARCY: No.           
BRIDGET: You're staying here?       
DARCY: So it would seem.         

「あなたはアメリカにいると思っていたわ」
「うん。そう、行ったんだけど。ここに忘れ物をしたに気がついたんだよ」
「忘れ物って?」
「きみにお休みのキスをするのを忘れていたことに気づいた。いいかい?」
「ええ、まあ、いいわ。で、アメリカへ行くんでしょ?」
「行かない」
「ここにいるの?」
「そうみたいだ」

大都会に住む若い女性たちは、ブリジットが経験する喜びや悩みなどの精神状態に共通点を感じ取りながら、同じような生活習慣を守って生きています。シャロン・マグワイア監督も「本に描かれているのは、私の世界」と言っています。衣装デザイナーのレイチェル・フレミングが選んだファッションも「家では限りなくだらしなく、ここぞというときには、やりすぎなほど、がんばってしまう」スタイルなのだそうです。
 
(原島 一男 はらしまかずお)

 初出:NHK英語教育番組テキスト「英会話トーク&トーク」2001年10月号
    日本放送出版協会
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2005年07月13日

「ウインブルドン」(Wimbledon)

「映画のなかの このシーン、このフレーズ」(27)
「ウインブルドン」(Wimbledon)

ウインブルドンとは、いわずとしれたテニスの殿堂。あるときは、世界から選ばれてきたニュースターが誕生し、あるときは、ベテランが磨かれぬかれた技を見せつける。そこで繰り広げられる光景をテレビの画像以上の鮮明さで再現する「ウインブルドン」(Wimbledon 2004年 監督:リチャード・ロングレイン 脚本:アダム・ブルックス/ジェニファー・フラケット&マーク・レヴィン)。
あなたが興味をひくのは、試合の行くえでしょうか? それとも、恋の行くえ? どちらも見のがすわけにはいきません。
ヒーローは世界ランキング11位になったこともあるイギリスのピーター・コルト(ポール・ベタニ−)、ヒロインアメリカのリジー・ブラッドベリー(キルスティン・ダンスト)、はじめてウインブルドンで戦うニュー・フェイスです。ここで、ピーター・コルトの言葉を聴きましょう。

Now I know it doesn't sound too bad, 4 million tennis players in the world and I'm 119th.
「400万人のテニス人口の中で119位というのは悪くはない」

PETER: Presently ranked 119th in the world. Sport is cruel. Now I know it doesn't sound too bad, 4 million tennis players in the world and I'm 119th. But what that really means is this : A hundred and eighteen guys out there are faster... stronger, better and younger.

「今のところ、世界ランキングで119位。スポーツは厳しい。400万人のテニス人口の中で119位というのは悪くはない。しかし、118人の選手は、僕より速くて、強くて、上手で
若いということなのだ」

一時は、世界で11位になったとはいえ、その後の成績からみても、体力からみても、今回でウインブルドンでプレイするのは最後になる、と覚悟して臨むピーターですが、ホテルへ着いてみると案内されたのはキチン付きのスイート・ルーム。ホテルの手違いとはいえ、これがピーターに思いがけない幸運を持たらすことに、、、
部屋へ入ると、ピーターはシャワーを浴びているリジー・ブラッドベリーを見てしまいます。

Yes, goodbye, and may I say good body...ah!
「ええ、グッドバイというか、グッドボディ!」

PETER: Yes, goodbye, and may I say good body...ah!...I meant...ah, nice kitchen.
LIZZIE: (A little later) Forgotten me already?
PETER: God, no, you're the lady with the lovely kitchen. Lizzie Bradbury, right?

「ええ、グッド・バイというか、グッド・ボディ!ええ、ナイス・キチンです」
(少し後で)「もう忘れたかしら?」
「忘れるわけない!すばらしいキチンの持ち主、リジー・ブラッドベリーさんですよね」

 リジー・ブラッドベリーはテニス界に彗星のごとく現れたスター・プレイヤーです。持って生まれた才能と熱心な父親のコーチで、ぐんぐん順位を上げています。その集中力と並外れたショットを武器に、今年のチャンピオン・カップ獲得を狙っています。この映画のテーマはその二人の出逢いと恋の展開。お互いがどんな影響を与えあうのか?技で相手を征するピーターに対し、パワーで相手を押しまくるリジーはまったく対照的でした。リジーは、こんなふうにピーターを励まします。

It's a bullet to the heart.
「相手の心臓を一撃すること」

LIZZIE: It's a bullet to the heart. That's what's tough about this game. There's a winner and there's a loser. And tomorrow one of you is going to be a loser.

「相手の心臓を一撃すること。それくらい試合はタフなものよ。勝者と敗者があって、明日、どちらかが敗者になるのよ」

大きな目標を掲げて、勝ち抜いて行こうという意気込みが、そのまま言葉になっています。ピーターの対戦相手は大きな試合を勝ち抜いてきたプレーヤーで、それなりの実力を貯えています。
「もちろん、勝ちたい。しかし、相手は強い」
(Of course I wanna win, I do. But he's just better than me.)
というピーターでしたが、リジーに会ってからは、しらずしらずに戦う闘志が沸き上がってくるのを感じずにはいられません。そんななか、リジーはピーターの言葉をとらえて、強い口調でこう言うのです。

Why are you British apologizing all the time? Don't apologize to me...If you say sorry one more time, you're gonna be sorry.
「なぜイギリス人っていつも謝ってばかりいるの?わたしには謝らないで。もし、もう一度『ソーリ−』といったら、本当に後悔するわよ」

イギリス人が好んで使う Sorry.(「ごめんなさい」/「残念です」)をとりあげて、ちょっと皮肉ってもいるアメリカ人のリジーです。
さて、観客席から見守るリジーの前で、ピーターはどんな技を披露するのでしょうか?

 ところで、この映画は、2003年7月からウインブルドンで撮影されましたが、センター・コートのシーンでは、実際のティム・ヘンマン対マイケル・ロドラの試合当日にカメラが回され、選手の緊張感、観客の反応、場内の興奮の様子が余すところなく伝えられています。テニス・コンサルタントをつとめたパット・キャッシュは「男子決勝のシーンは究極ともいえるテニスの試合です。プレイヤーの動き、あらゆるショット、そして歓喜するチャンピオンなど、そこにはテニスの全てがあるのです」と語っています。
 
(原島 一男 はらしまかずお)

初出:NHK英語教育番組テキスト「100語でスタート英会話」2005年6月号
   日本放送出版協会
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2005年07月12日

「サウンド・オブ・ミュージック」(The Sound of Music)

「映画のなかの このシーン、このフレーズ(11)
サウンド・オブ・ミュージック」(The Sound of Music

ミュージカル映画の古典「サウンド・オブ・ミュージック」(The Sound of Music 1965年 監督:ロバート・ワイズ 脚本:アーネスト・リーマン)が、デジタル処理の美しい画面と迫力あるサウンドでよみがえります。1930年代の終わりのオーストリアのザルツブルクで、修道女マリア(ジュリー・アンドリュース)とトラップ退役海軍大佐(クリストファー・プラマー)の子供たちの交流の物語です。トラップ一家は、ナチスへの抵抗と苦難を乗り越えて、自由への道を求めます。修道院の勧めによって、家庭教師として16歳から5歳までの7人の子供たちの面倒をみることになったマリアは、子供たちに歌のうたい方を教えます。

When you sing, you begin with do-re-mi...
「歌うときは、ドーレーミで始めるのよ」

MARIA: Let's start at the very beginning.
A very good place to start.
When you read, you begin with...
GRETEL: A-B-C
MARIA: When you sing, you begin with do-re-mi...
CHILDREN: Do-re-mi...
MARIA: Do-re-mi...the first three notes
just happen to be...Do-Re-Mi.
CHILDREN: Do-re-mi...
MARIA: Do-Re-Mi-Fa-So-La-Ti...
Oh, let's see if I can make it easier
「さあ、一番最初から始めましょう。
 始めるのに一番いいので。
 読むときの始まりは」
「A-B-C」
「歌うときは、ドーレーミで始めるのよ」
「ドーレーミ」
「ドーレーミ。最初の3つの音符がそうなるの。
ドーレーミ」
「ドーレーミ」
「ドーレーミーファーソーラーシー、
そう、もっとやさしくすると、」

 誰でも知っているあの「ドレミの歌」。ドーはdeer(鹿)、レーはray(光線)、ミーはme(自分の呼び方)とマリアは一つひとつの音符をうたい、
Once you have these notes in your heads, you can sing a million different tunes...by mixing them up...
(これらの音階を頭に入れたら、すごく、たくさんの曲を歌えるの、組み合わせるだけで)
と説明します。
母親のいない子供たち。父親の厳格なしつけだけで育てられていた子供たちは、マリアから‘歌うこと’の楽しさを習います。そして、しばらくの間、家を留守にしたトラップ大佐が戻ってみると、そこには、歌を愛し、自由な環境で育てられている子供たちのコーラスが満ちあふれていました。それまで、マリアの教育方針に疑問を感じていた大佐は、すべてを察して、こう言います。

 You've brought music back into the house.
「あなたはこの家に音楽をよみがえらせた」

CAPTAIN: You've brought music back
to my house. I'd forgotten
I want you to stay. I ask you.
MARIA: If I could be of any help.
CAPTAIN: You have already. More than you know.

「あなたはこの家に音楽をよみがえらせた。
わたしが忘れていた音楽を。
どうか、ここにいてください。お願いする」
「お役に立つのでしたら」
「充分に、あなたが気がつかれる以上に」

一方、トラップ大佐はシュレーダー男爵夫人(エレノア・パーカー)と婚約しており、彼女のために舞踏パーティーを開きます。ウインナ・ワルツの流れる優雅なパーティーを端から眺めている子供たちの会話を聞いてみましょう。

I think the men look beautiful.
「わたしは男の人がステキ(きれい)だと思うわ」

BRIGITTA (10 years old) : The women look so beautiful!
KURT (11 years old) : I think they look ugly!
LOUISA (13 years old) : You say that because you're
just scared of them.
KURT : Silly. Only grown-up men are scared of women.
GRETL (5 years old): I think the men look beautiful.
LOUISA : How would you know?
「女の人、きれいね!」
「ぼくはみにくいと思う!」
「女の人がこわいから、そう言うのね」
「ばかだな。大人の男だけが女の人をこわがるんだ」
「わたしは男の人がステキ(きれい)だと思うわ」
「なんで、(子供なのに)そんなことわかるの?」

 ところが、無邪気な子供たちの会話とは裏腹に大人たちの間では、別のドラマが始まっていました。トラップ大佐とマリアの間には恋が芽生えたり、子供たちを中心にトラップ・ファミリー合唱団が結成されたりします。さらに、ナチス・ドイツはオーストリアを併合し、大佐はベルリン政府から兵役への復帰をせまられます。
この物語はマリア・オーガスタ・クチエラの自叙伝が元になっています。1956年にドイツ映画Die Trapp-Familie (菩提樹)が作られたあと、1959年にブロードウェイ・ミュージカルThe Sound of Musicとして再デビューしました。1943年の『オクラホマ!』から始まり、『回転木馬』『南大平洋』『王様と私』『フラワー・ドラム・ソング』など10のミュージカルを生みだした作曲家リチャード・ロジャースと作詞家オスカー・ハマースタイン二世の最後の作品としても知られています。

(原島 一男 はらしまかずお)

初出:NHK英語教育番組テキスト「100語でスタート英会話」2004年2月号
   日本放送出版協会
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