最近、印象に残ったニュースがあります。池でおぼれ心肺停止状態で発見された愛知県の三歳の男児が生還したという話題です。テレビは盛んに繰り返していました。「これは奇跡です」と。
男児を死の淵から救ったのは脳低温療法と呼ばれ、体温を三三―三四度程度に保ち、脳の細胞が破壊されるのを防ぐ治療法です。一九九〇年代初め、国内に本格的に導入されました。
今回、救急隊員による救急処置▽ドクターヘリの出動▽脳低温療法が行える医療施設への搬送―と救命へのプロセスは完ぺきだったようです。
岡山県ではドクターヘリが川崎医科大付属病院(倉敷市)によって運用されていることは心強い限りです。
しかし、肝心の脳低温療法はどの医療機関でも行っているわけではありません。体温を強制的に下げることによる感染症対策の難しさなどが普及のネックになっているのです。
今回のケースが「奇跡」といわれないよう、脳低温療法がさらに定着することを願わざるを得ません。
それにしても、こんなに温かい命のリレーが行われる一方、救急搬送で受け入れを拒否され死亡するケースも、このところ各地で表面化しています。
二十四日付の本紙朝刊の第二社会面で、「11病院診察拒否 救急搬送95歳女性死亡 東京」の見出しを見つけ、肌寒い現実をあらためて実感しました。高度医療の普及と救急基盤の整備の両立は、まだまだ途上です。
(備前支局・二羽俊次)