途中で挫折してしまったので、いつか読み直してみたいと思う名著、古典のたぐいはあるもの。長編ものの深みに付き合うには、それなりの人生経験とゆとりが必要だ。
時空を超えて輝き続ける古典中の古典「源氏物語」も読み通すには覚悟がいる。全部で五十四帖(じょう)。四百字詰め原稿用紙だと約四千枚。登場人物が四百三十人にも上る大河小説である。
与謝野晶子、谷崎潤一郎、円地文子ら著名作家が現代語訳を手掛けたほか、外国語訳、漫画本も登場した。中でも、分かりやすさが特徴の瀬戸内寂聴さんの訳本はベストセラーとなり、源氏ブームの原動力となった。
筋立ての面白さ、個性的な登場人物たちの魅力、行き届いた心理描写、読後に余韻を残す内容の深さ。瀬戸内さんは自著「寂聴源氏塾」の中で源氏物語の魅力を挙げながら「現在でも読み継がれているのは、いつの時代であっても変わらない恋愛の苦悩、人生の苦悩を真正面から描いているから」と指摘する。
世界最古とされるこの長編小説が世に知られて今年は「千年紀」にあたる。さまざまな記念事業が予定されており、古典文学の底力を実感する年となりそうだ。じっくり読み直せば、現代に通じる新たな発見もあろう。
世界に誇る文学遺産を次の世代へつなぐ大きな節目でもある。合わせて伝統文化を大切にする心を養う機会ともしたい。