今年の施政方針を示すブッシュ米大統領の一般教書演説が行われた。一年後にはホワイトハウスを去る大統領にとって最後の演説である。
「七年間、米国は世界にこの国の力と強靭(きょうじん)さを示すことができた」と自賛した後、次に触れたのは外交ではなく経済問題だった。米国の現状を浮き彫りにしている。信用力の低い人向け住宅ローン(サブプライムローン)問題に端を発した景気後退懸念、金融機関の損失拡大、世界的な株式市場の動揺が続いているだけに当然のことではある。
大統領は「先行き不透明な時期に入っている」と厳しい状況を素直に認めた。その上で、景気浮揚を目指し、個人所得税還付や企業減税を柱とする総額千五百億ドル(約十六兆円)規模の緊急経済対策法案の早期成立を議会に求め、自ら導入した減税措置の恒久化も要請した。
しかし、既に報じられていることばかりだ。肝心のサブプライム問題をどう根治するか、処方せんも描けていない。切迫感に欠け、米経済の先行き懸念を解消するにはほど遠い。支持率は30%台と歴史的な低水準でレームダック(死に体)化が進んでいるが世界経済安定のため、大統領の経済運営手腕が問われていることに変わりはないはずだ。
外交も成果の乏しい演説となった。イラク情勢について「一年前には誰も予想できなかった成果を挙げた」と力説した。ことさら治安改善を強調した背景には、北朝鮮・イランの核問題やパレスチナ和平の解決に向けて思うような道筋が描けない中、昨年の演説で掲げた米軍増派を柱とするイラク政策までも「失敗だった」と批判されるのを回避する狙いがあったろう。イラクからの新たな出口作戦も示されず、次期政権に委ねられる見込みになった。
二〇〇二年、大統領就任後初の演説は北朝鮮、イラン、イラクを「悪の枢軸」と非難。今回も「自由や米国を嫌悪する悪人が自由の前進を妨げている」と表明するなど善悪二元論は政権末期になっても変わらない。戦争に明け暮れたブッシュ政権には景気悪化も重くのしかかっており、その政治手法で次世代に残すべき遺産は見当たらない。
ただ、昨年に続き言及した地球温暖化防止策に注目したい。「(中国などを含めた)温室効果ガスの主要排出国すべての参加があって初めて有効だ」と念押しした上で、二〇一三年以降の規定がない京都議定書の後継となる国際的枠組みをつくる決意を示した。七月、主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)での国際協調発揮を期待したい。
破たんした北海道拓殖銀行にずさんな融資で損害を与えたとして整理回収機構が、元頭取らに損害賠償を求めた三件の訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷は請求を全面的に認めた。機構が追及した五件の訴訟が終結し、総額百一億四千万円に上る旧経営陣十三人の賠償責任が確定した。
最大の争点は、旧拓銀経営陣が行った融資決定が、注意義務違反に当たるかどうかだった。不動産会社「カブトデコム」と「栄木不動産」の融資をめぐり、原告は旧経営陣に計六十億円を請求し、一審は全額認めたが、二審では「融資額を上回る担保があるとした判断は、当時の状況からやむを得なかった」として二十億円に減額していた。
最高裁判決では「担保評価の客観資料を一切検討していない」「破たん時期を数カ月遅らせる延命にすぎない」などと指摘し、融資決定は「銀行取締役に期待される水準に照らし著しく不合理」と注意義務違反を認め、経営陣に六十億円の賠償を命じた。
また内装業者「ミヤシタ」への融資に絡む訴訟では、賠償責任の時効について、商法の五年ではなく民法の十年との判断を下し、当時の頭取の責任も認めた。
旧拓銀は一九九七年十一月、バブル期の不動産への過剰貸し付けが裏目に出て経営破たんした。ブームに乗り遅れてはと融資の審査が甘くなったことが背景にある。破たん処理では、約三兆四千億円の公的資金が投入され、北海道経済は大打撃を受けた。
今回の判決は、金融機関のずさんな融資に対し、経営陣の責任を厳しく判断した。銀行にとって融資の際の審査能力がいかに重要であるか、あらためて肝に銘じなければなるまい。
(2008年1月30日掲載)