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クローズアップ2008:落日のブッシュ米大統領、最後の一般教書演説

 ブッシュ米大統領は28日、任期最後となる一般教書演説を行った。米国経済の先行きに懸念を示したほか、外交政策でも手詰まり感をにじませた。全米の注目が次期大統領選予備選に移る中、最も重要とされる大統領演説への関心は低く、「どれだけ多くの国民が大統領の演説に耳を傾けるか」(米ワシントン・ポスト紙)が焦点という、政権末期の「レームダック(死に体)」ぶりを際立たせるものとなった。【ワシントン笠原敏彦、斉藤信宏】

 ◇「歴史の審判」頼み--外交

 「何年か先に人々は振り返って言うだろう。我々の世代は立ち上がり、困難な戦いに勝利したと」。ブッシュ大統領は28日の一般教書演説で長期的視点から対テロ戦争を語り、米国民に忍耐を求めた。イラク戦争(03年3月開戦)で信頼を失った大統領にとって、政策遂行のよりどころは「歴史の審判」になった感が強い。

 ブッシュ大統領は、演説で米世論の約65%が反対したイラク3万人増派戦略の「正しさ」をアピールした。増派戦略による治安情勢の「改善」は、大統領選で早期撤退論を主張する民主党候補の優勢が伝えられる中、次期政権に戦争継続を求める好材料となる。

 ブッシュ大統領は、ソ連封じ込め戦略でその後の冷戦勝利に道筋を付けたトルーマン大統領(1945~53年)に自らを重ね合わせているといわれる。朝鮮戦争への介入で同時代の世論の強い反発を受けながら、後に再評価されたトルーマン大統領。対テロ戦争を「長い戦争」だと訴えるブッシュ大統領には、歴史が評価を変えることへの期待がにじむ。

 だが、こうした「歴史の審判」論には「信じ難く劇的な変化がなければそうはならないだろう」(米ヒューストン大のロバート・ズバンコ教授=米外交史)との見方が飛び交う。

 ブッシュ大統領がクリントン前大統領から政権を引き継いだ7年前、米国の超大国ぶりは「ローマ帝国」にも例えられた。それが、1年後に次期政権へ引き継ぐ際には「疲弊してコーナーに追い込まれた闘士」(ラム・エマニュエル民主党下院議員)になると皮肉られている。

 演説内容の変遷は、外交の行き詰まりを物語る。ブッシュ政権は同時多発テロ(01年9月)を受け、大量破壊兵器の拡散防止を最大の課題に置いた。イラクとイラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しする政策に踏み込んだのは、02年の一般教書演説だった。しかしイラクは出口が見えず、イランは国連安保理決議を無視してウラン濃縮活動の拡大を続けている。北朝鮮は核実験を実施したにもかかわらず、6カ国協議前進を図るため今回の演説では言及を避けた。

 ◇得意分野でも失速--経済

 ブッシュ大統領にとって「経済」は政権の実績として自慢できるはずの分野だった。だが、昨年夏の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)の焦げ付きを機に、経済指標の悪化が相次ぎ、今年になって金融危機も表面化。最後の一般教書では「先行きは不透明な時期にさしかかっている」と認めざるを得ない状況にまで追い込まれた。

 ブッシュ大統領は、01年の就任直後にIT(情報技術)バブル崩壊に見舞われた。9月には同時多発テロという悪条件が重なった。エネルギー大手のエンロン(01年12月)や、長距離通信大手のワールドコム(02年7月)破綻(はたん)など米史上最大の倒産が相次いだ。だが、ブッシュ政権は大規模減税で景気浮揚を実現、自信を深めた。

 景気回復と連動して、ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は、02年10月の7200ドル台を底値に回復、昨年10月には1万4164ドルと、5年間で約2倍となった。

 異例の長期間に及ぶ低金利政策も景気拡大に寄与。結果として住宅バブルを招き、対策を怠ったブッシュ政権は、任期最後の年にその崩壊に直面、株価も1万2000ドル台まで下落し、得意の経済でも失速した。このままでは、財政再建という重い課題に加え、景気後退を次期政権に引き継いだ大統領として名を残す可能性もある。

 ◇予備選真っただ中…存在感さらに薄く

 今年の一般教書演説は米大統領選(11月)の民主、共和両党の予備選・党員集会のまっただ中で行われたことも、埋没感を強めた。

 今回の予備選は大幅に日程が繰り上がり、1月3日にスタート。22州の予備選が集中する来月5日のスーパーチューズデーを目前に、米国民やメディアの関心は民主党のヒラリー・クリントン、バラク・オバマ両上院議員の戦いに注がれている。

 「後継者の選挙と並行して一般教書演説した大統領は過去にいなかった」(ワシントン・ポスト紙)異例な状況下、ブッシュ氏はすでに「任期を終えた」という印象さえ漂う。演説後、オバマ氏は「歴史がブッシュ政権を好意的に判断するとは思えない」と切り捨て、クリントン氏も「これまで失敗してきた政策を再び公約にしているにすぎない」と批判した。

毎日新聞 2008年1月30日 東京朝刊

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