「恐怖が増(ぞ〜)? これが恐怖のおまじない」
使われなくなった病院の手術室で、Aチーム7人、Bチーム7人の2チームに分かれて、ホラー映画を見てもらう実験を行いました。Bチームの人には、ある「おまじない」を唱えてもらいながら見てもらいました。すると、Aチームに比べて緊張や興奮の度合いを示す皮膚電位の変化が大きくなりました。
そのおまじないとは、「怖くない!大丈夫!」というもの。“怖い”という感情を抑制してもらったのです。
これは、心理学の世界で「抑制の逆説効果」などと呼ばれる現象です。感情や思考を抑制しようとすると、かえって増幅させてしまうことがあるのです。
みんなで一緒に「シロクマ実験」
- シロクマを思い浮かべてください。
- 次に、シロクマを思い浮かべないでください。
しかし、ゲストの3人は「思い浮かべないようにするのは無理!」という答えでした。シロクマを考えないようにするには、シロクマが頭の中に入ってきていないことを常に確認し続ける必要があるため、逆にシロクマを浮かび上がらせる結果になってしまうのです。
高いところめぐりツアーに参加した3人の女性たちも、「怖くない!大丈夫!」というおまじないを唱えていました。
恐怖が増幅する理由
高所恐怖症の人たちの頭の中では、これだけではなくもっとすごいことが起きていました。
「怖い」という感情がふくらむと、足がすくんだり、鼓動が高まったりという身体反応が出ます。それらが脳にフィードバックされ、「やっぱり怖いんだ」と怖さが増幅されてしまうのです。
さらにもう1つ、私たちの頭の中には、過去の経験に基づいて自分のいろいろな行動や反応に対する予測図ができあがっています。その予測図に基づいて行動することを「フィードフォワード」と言います。高所恐怖症の人は、怖い体験をしたり、人から話を聞いたりして、間違った予測図を思い描いてしまうのです。
高所恐怖症の3人に、つり橋で「怖い」と思った瞬間に、これからその恐怖心はどうなると思うか尋ねたところ、「恐怖が高まって最後はどうにかなってしまう」と答えました。ありもしない恐怖をどんどん予想し、事実とはかけ離れた結末を思い描いてしまったため、その場に立っていられなくなったのです。
|