現在位置:asahi.com>社説 社説2008年01月30日(水曜日)付 マックの店長―「残業代0円」とはいかぬ「君もいよいよ管理職だ」と部下をおだて、残業代を払わないですまそうとすることはもはや許されない。こう経営者は肝に銘じた方がいい。 ハンバーガーチェーンの最大手、日本マクドナルドの店長が、管理職とみなされて残業代を払われないのは違法だと訴えた。この請求を東京地裁が認め、同社に過去2年分の残業代など約750万円の支払いを命じた。 マクドナルドのサービスは「スマイル0円」がうたい文句だが、店長の残業代は0円とはいかないということだろう。 労働時間について、労働基準法は1日8時間、週40時間という上限を定めている。これを超えて残業させる場合には、割増賃金を払わなくてはならない。 だが、管理職はこの保護規定の対象外だ。そこに着目し、店長を管理職とみなして残業代を払わず、長時間勤務をさせる「名ばかり管理職」が、外食や小売りの業界を中心に広がっているといわれる。今回の判決は、こうした現状に待ったをかけたもので、当然の判断だ。 そもそも管理職とは何か。東京地裁は「店長」の名称だけでは足りないとしたうえで、「経営者と一体となり、重要な職務と権限が与えられている」「賃金や待遇が一般の社員より高い」といった基準を示した。 マクドナルドの場合、店長の権限はそれほど大きくない。形式的には働く時間を自分で決められることになっているが、自ら長時間の残業をせざるをえない。給与をみると、店長の10%が部下を下回り、40%は部下をわずかに上回る水準だった。こうした実情から、東京地裁はマクドナルドの店長は管理職とはいえないと判断した。 同社には全国に約1700人の店長がいる。原告と同じくらいの残業をしていたとすると、年に数十億円の残業代を払っていなかったことになる。人件費節約の効果は絶大だったろう。 しかし、店長にとってはたまったものではない。原告は8年前に店長に昇格したが、残業時間は最長で月137時間に達した。ついに、お札を数える指が動かなくなり、軽い脳梗塞(こうそく)と診断された。 こうした過労死寸前の勤務は原告だけとは思えない。紳士服大手のコナカでも、元店長から同じような訴えが労働審判に持ち込まれ、同社は解決金を支払うことになった。 横行している「名ばかり管理職」を一掃することは、経営者の責任であることはいうまでもない。労働組合は残業代を払わせるよう、いっそう支援してもらいたい。悪質な違法行為については、刑事事件として立件することも必要だ。 長時間労働を防ぐため、残業代の割増率を引き上げる労働基準法改正案が国会に提出されている。たとえ、割増率が引き上げられても、その効果を上げるためには、「名ばかり管理職」のような抜け道をふさがなければならない。 ブッシュ演説―残された亀裂をどうする「古い亀裂を修復し、偉大な目標に献身しよう」 米議会でこう呼びかけたのは、就任したばかりのブッシュ新大統領だった。2001年2月のことだ。 あれから7年。同じ壇上から大統領として最後の一般教書演説をしたブッシュ氏は、その後の米国と世界にもたらされた深い「亀裂」に、どんな思いをめぐらせたのだろうか。 すでに「ブッシュ後」に向けて大統領選の候補者選びが白熱している。その中でブッシュ氏は2期にわたる任期中に何を達成し、次へ何を託すのか、いわば最後のメッセージを発する舞台だった。 だが、自らの政権が生み出した亀裂について、率直に語る言葉はなかった。 いまの米国にとって、最大の関心事は経済だろう。きっかけは低所得者向けの住宅ローンの焦げ付きだった。米国の経済全体が揺らぎだし、ブッシュ氏も「家庭の食卓では、経済の先行きに不安が出ている」と認めた。 対策として巨額の景気刺激策を打ち出した。野党も支持する政策だが、それに加えて就任以来すすめてきた大型減税の恒久化を言うと、議場の民主党議員から激しいブーイングを浴びた。 広がる貧富の格差をさらに固定化するつもりかという反発だ。7年前に「思いやりのある保守主義」を掲げて登場したブッシュ氏だが、金持ち優遇の政権との批判がつきまとってきた。 巨額の報酬を得るウォール街の経営者たちと、途上国との競争で失業におびえる労働者たち。戦後の米国社会の繁栄を支えてきた「豊かな中間層」が姿を消しつつある、と警告する経済学者もいる。 大統領選の論戦では、自由貿易協定への批判や「不法移民取り締まり」が争点になっている。グローバル化でさらに格差が広がるのでは。そんな不安に応えられない現政権への不満が底流にある。 ブッシュ政権の最大の試練が9・11同時テロへの対応だったことは間違いない。事件直後は圧倒的な米国民の支持を得ていたのに、いまや支持率は3割台に落ち込んだ。ブッシュ流の「テロとの戦い」が失敗したということだろう。 なのにブッシュ氏はなお、イラクへの米軍増派が「誰も想像できなかった成果」を上げたと胸を張る。確かに宗派間の衝突は下火になり、米兵の死傷者数は減少している。だが、それで対テロ戦全体が成功に転じたとはだれも信じまい。 出発点だったアフガニスタンでさえ、治安が悪化し、同盟国の間に亀裂が出始めている。隣国パキスタンの政情までおかしくなってしまった。 「米国の味方が減り、敵は増えた」。演説後、ブッシュ外交をこう批判した民主党知事に、私たちも共感を覚える。残された1年間の任期中に、国内外の課題にどこまで手当てできるのか。大統領には7年前の言葉をもう一度、思い起こしてもらいたい。 PR情報 |
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