耐震強度偽装事件を受け、昨年六月に施行された「改正建築基準法」で建築確認審査が厳格化されたことに伴う新設住宅着工戸数の減少は、改善傾向にあるものの依然低調だ。景気に及ぼす悪影響の長期化が心配される。
国土交通省が発表した十一月の新設住宅着工戸数は、前年同期比27%減の八万四千二百五十二戸だった。改正法が施行されて以降、着工戸数の対前年同月比は七月が23%減、八月43%減、九月44%減、十月35%減となっており五カ月連続での減少となった。下落幅は縮小しているが、前年並みまで回復する時期は見通せず、建設会社の倒産も増えている。
耐震強度偽装事件では、偽装を見抜けなかった建築確認審査のずさんさが浮き彫りになった。改正法は、その反省に立って安全な住まいへの信頼性を取り戻そうとするものである。
主な改正点は、建築士への罰則強化▽一定規模以上の建築物は自治体や委託を受けた機関が審査するだけだった構造計算書を別の高度な専門知識を持つ判定機関に二重に審査させる▽着工後の計画変更には建築確認の再申請が必要▽審査期間を最大七十日間延長する―などだ。
ところが、いざふたを開けてみると建築申請が手間取って確認審査が滞る事態が生じた。原因としては国交省による法改正の周知不足や、構造計算の再チェック時における作業の重複、必要書類の増加などが挙げられよう。
建物の安全性に対する信頼を取り戻すには、建築基準法を改正してチェック体制の強化を図るのは当然のことだ。しかし、現場の混乱を招き手続きを滞らせたのでは、改正の副作用として見過ごしにできない。特に景気への悪影響が懸念される。
住宅は建設や建材、不動産などの企業にとどまらず、住宅の購入によって買い替え需要が生じる家具や家電製品など関連企業のすそ野が広い。住宅着工戸数が低調なまま推移していけば、米国の信用力が低い人向け住宅ローン(サブプライムローン)問題などで、先行き不透明になっている日本経済の足を引っ張りかねない。
事態を重視した国交省は、改正法の施行規則の見直しを打ち出した。着工後に計画変更する場合、構造の安全性が低下しなければ「軽微な変更」として再申請を不要とすることなどだ。さらに不都合な点があれば、積極的に改善してほしい。
安全な住まいへ、厳正な審査と円滑な運用を整える一段の取り組みを求めたい。
大阪府知事選は、自民、公明両党が支援する弁護士でタレントの橋下徹氏が民主党の推薦候補らを大差で破って初当選した。年齢は三十八歳で、現職最年少の知事となる。
知名度は抜群に高かった。茶髪にジーンズ姿の弁護士としてタレント活動に熱心で、多くのレギュラー番組に出演していた。政治活動の実績はないが、お茶の間に浸透した人気が圧勝をもたらした大きな要因だろう。大阪に閉そく感が漂う中、未知の可能性や若さにも有権者が期待を託したといえよう。
テレビでは視聴者受けを狙ってか、日本の核武装を主張するなど物議を醸す発言が目立った。パフォーマンス先行のタレント知事と批判されないよう、言葉の重みと実行力が問われることを肝に銘じてもらいたい。
今回は三十三年ぶりに国政の与野党が実質的に激突した大阪府知事選となった。自民、公明両党は昨年十一月の大阪市長選敗北からの巻き返しに成功し、一息ついた格好だ。しかし、橋下氏の個人的な人気が無党派層を動かしたとされ、与党が支持されたとは言い難い。
民主党は次期衆院選に向け、勝って勢いをつけたかったが完敗した。態勢の立て直しが必要だろう。
橋下氏は子育て支援策の充実など生活に身近なテーマを掲げ、有権者に支持を訴えた。もちろん大切なことではあるが、関西経済の復権も忘れないでほしい。
大阪は人口流出などで地盤沈下が著しい。財政危機にも陥っている。大阪が早く元気を取り戻し関西経済が活気づくことは、東京一極集中を是正するうえからも重要なことだ。新知事の指導力を期待したい。
(2008年1月29日掲載)