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非情と強欲

2008年01月29日

「仕組み」の経済学―9

 この国の行政機構は、戦後60年をかけて巧妙極まりない酷薄な仕組みを作り上げてきた。この結果、経済活力は失われ、社会は疲弊している。その仕組みの主なものは、

1 下克上

 国民は政治家を代理人(エージェント)とし、政治家は官僚を代理人として、行政を委ねる。代理人が依頼人を裏切る例は古今に満ちあふれている。

2 傀儡(かいらい)大臣

 組織力を誇る官僚に対し、政治家は落選の恐怖におびえる個人事業主に過ぎない。多くが大臣を目指し、運良くなれば官僚の傀儡と化して利権追求を図る。

3 インセンティブ

 人はアメとムチで動くが、憲法の定める納税義務によって、行政は自動的にアメを得る一方、虚構の無謬(むびゅう)性神話で役人へのムチは失われている。

4 利益相反

 行政府の多くが業界規制と業界育成という利益相反的機能を有する。官僚はこれを巧みに使い分け、業界との癒着と利権拡大を図ってきた。

5 局所最適

 自己肥大化という組織の目的が共通なため、誰も全体最適を目指さず、省益・局益の最大化を目的とし、ムダと非効率が蔓延(まんえん)する。

6 年功型終身雇用

 行政機構では、年功型終身雇用の維持が目的化し、独法など様々な官製法人を乱造し、業界への天下りもやまず、国民経済の効率性を阻害する。

7 ガバナンス

 この国の行政機構には、会計検査院といった機能不全の監視機能しかなく、組織の暴走を防ぐ仕組みとしてのガバナンスは無力に等しい。

8 非情と強欲

 組織とは目的合理的なため、非情なものであるが、この国の行政機構の目的が官僚の互助繁栄と化しているため、自らに強欲、民に酷薄なものとなっている。

 冷酷な行政機構の桎梏(しっこく)から国民を救済する政治家が登場すれば、救国の英雄となる。(四知)

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